第六十九話 それはまるでお伽噺のような 8
私は痛む身体をゆっくり動かしながら大きなお城の中を歩いていた。
暗くて、そこらへんから不気味なよくわからない獣のような声が聞こえてくる……。
そして、時折何かがこちらに向かってくる音がすると近くの部屋へと入り隠れられそうな場所で身を潜める。
「身体痛い、寒くて、怖い、何かが歩いてる……それに見つかったら私は死んじゃうの??」
不安過ぎて、私は恐怖で震える身体を押さえつけるように自身の両手で抱き締める。
すると、私が隠れている部屋に何かが入ってきた……足音や声が人間ではないものだった。
私は小さな息の音も立てない様に口に手を当てて強く目を瞑る。
「……!!」
すると、私が隠れていた机の目の前に人間ではない足が立ち止まった。
毛むくじゃらの足に、長く鋭い爪が生えていてこちらからは見上げてもその上半身は見えない。
机の下を覗こうとしているのかゆっくりと足以外の部分が徐々に見えてきたその時、部屋に置いてあった振り子時計が大きな音と共に時間を知らせた。
すると、その毛むくじゃらの足の持ち主は足早に部屋から出て行ってしまった。
……なんとか、見つからずに済んだようだ。
「こわ、怖かった……。ううっ……。」
私はこの部屋に何も物音がしないことを確認して机から這い出る。
緊張が一気にほぐれて、自分の意思とは関係なく足や手が震える……そして、視界がぼやけて涙がポロポロと流れてきた。
「時計の音……??もしかして、0時になったの!?」
私は部屋にある振り子時計の前に行き、その秒針をみるとどちらの針も上の方を刺していた。
ディナーは0時になってから、とあの吸血鬼は言っていた……。
「早く皆を助けなきゃ……!!手遅れになっちゃう!!」
私は流れっぱなしだった涙を服の袖で乱暴に拭いてから、部屋の外を警戒しながら出る。
外からは何か騒がしい声が聞こえていたが、それどころではなかった私は暗い廊下を気持ち早歩きで進んでいった。
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「クロア!!ここは他の奴らに任せて城内に入るぞ!!」
「はい!!」
俺と師匠、そして村の男達を集めて隣町の山の奥にある城へと攻め込んでいた。
なんでも大昔からこの辺りには吸血鬼が住んでいたらしく、その吸血鬼が人里に下りてこない様に先人が城の周りに魔除けの木を植えていたようだ。
だが、先日の山火事でその魔除けの木が燃えてしまい、吸血鬼や他の魔物が村の方まで来ていたらしい。
「相手は何百年も生きている吸血鬼だ、油断するなよ。」
「わかっています。」
早くリヴィ達を助けなければ。だが、もしかしたらもうリヴィは……。
最悪な事態を想定した瞬間、師匠に頭をはたかれた。
「余計なことは考えるな。目の前の事だけに集中しろ。一瞬の迷いが剣を鈍らせるぞ。」
「はい……。すみません。」
大きな城の入り口を少しだけ開けて中を覗く……真っ暗で何も見えない。
師匠と頷き合って二人同時に両開きのドアを開ける。
すると、大きな広間の中央にある階段に黒いドレスを着た女がいた。
「これからディナーだっていうのに、こんなに騒がしくては美味しい食事に集中できないじゃない。」
「お前が魔物を従えている吸血鬼か。……悪いが食事の前に死んでもらおうか。」
「ひどい事言うのね。そこの若い男の子の血も美味しそうだわ。ディナーに追加しちゃおうかしら。」
そういうと吸血鬼は手を空中でかざすと、城の大きな柱が折れてこちらに飛んでくる。
俺と師匠は左右に飛んで回避した……だが、すぐにその柱は師匠目掛けて飛んで行き、それをもろに受け止めた師匠は壁に思いっきり叩きつけられた。
「師匠!!くそっ!!」
「あとは、あんただけね。そんなひょろい剣じゃ、私は倒せないわよ!!」
師匠は柱の下敷きになり、身動きが取れなくなってしまった。
助けようにも、吸血鬼が鋭い爪で攻撃を絶え間なく仕掛けてきて剣で受け止めるのが精いっぱいだった。
そして、ついに俺は吸血鬼に首を掴まれると、とんでもない力で持ち上げられてしまう。
「残念だけど、ここまでね。大丈夫、攫った女の子たちとあんたを食べたら次は村にいるやつらも全員食べてあげる。すぐに、同じ場所に連れてってあげるわ。」
「ぐっ……!!」
あがいても、吸血鬼の力はより力強く俺の首を絞めてくる……手に持っていた剣も地面に落としてしまった。
……このまま俺は死ぬのか??
視界が少しずつぼやけてきたそのとき、視界の上のほうで真っ暗闇の中に流れ星のような光が見えたような気がした。
今日は星空が綺麗だった……俺はあの本のように俺だけの星の女神には会えないのか??
そんな時にふと頭に浮かんだのはリヴィの姿だった……あいつには俺がいないと駄目なんだ、俺が守ってやらないと……。
「クロア!!」
「あら、デザートちゃん。逃げ出した悪い子。お腹が空いて我慢できないし、この男の子の血を吸い尽くしてからディナーにしましょうね。」
「そんなことさせないんだから!!クロアから離れて!!」
すると、リヴィは手に持っていた枝のようなものを吸血鬼に向かって投げつけた。
俺は意識がはっきりしないなか、その数秒の出来事が俺には長く感じた……そして、こんな非常事態なのにあの本の物語が頭をよぎる。
”女神様は星をたくさん集め、現れた魔物に星屑を振らせました。すると、魔物は数多に輝く星屑の光の眩しさで目を両手で押さえて叫びました。”
「っ!!眩しい!!どうして!?あの忌々しい木は全て焼けて無くなったはずなのに!!」
「クロア!!とどめを!!」
リヴィの投げた木には黄色の実が付いていて、その実が吸血鬼に当たると強く光り始めた。
相当眩しかったのか、吸血鬼は俺の首から手を離して両手で目を押さえる。
”その瞬間、妖精の王は魔物の首を切り落としました。”
俺は、咳き込みながら落ちた剣を拾い蹲った吸血鬼の首に思いっきり剣を振り下ろした。
すると、断末魔が響き渡ると吸血鬼は灰になって跡形もなく消えた。
俺は緊張の糸が切れて情けなくその場に尻もちをついた。
リヴィが階段を駆け下りて、俺の元に走ってきて勢いよく抱き着いてきた。
「よかった!!間に合って……!!」
「リヴィ、怪我はないか??心配したんだぞ……!!」
俺達はお互いを力強く抱きしめ合った。
外にいた魔物も大方片付いたのか、大人たちが城の中に入って来たので俺達も残りの女性たちを探す手伝いをするためにお互いを支え合いながら立ち上がった。
「……いた!!グロリアとキリエ達を見つけたよ!!」
「本当か!?今そっちに行く!!」
2階にあった広い部屋に連れ去られていた女性達がぐったりした状態で椅子に座っている。
私は急いでグロリアとキリエの元に駆け寄り怪我をしていないか確認する……どうやら大きな怪我はしていないようで、念のため首元も見たが噛まれたような傷も見当たらなかった。
お城の所々の部屋にも女性が昏睡状態で横たわっていたようだが彼女達も辛うじて生きているようだ。
探し回っていたら随分時間が経っていたようで、少しずつ空が明るくなってきた。
連れ去られた女性達を大人達が担ぐと急いで山を下りていった。
私はそれをお城の2階の窓から見送ると、ひどい疲れを感じてその場に座り込んでしまった。
「リヴィ、大丈夫か??」
「ご、ごめん。安心したら力が抜けちゃって……。みんな無事で本当によかった。」
「そうだな。リヴィもよく頑張ったな。1人で城の中を歩いていたのか??」
「うん……早くみんなを見つけて一緒に逃げなきゃって思って……。」
「怖い思いをしたのだろう……。リヴィは勇気があるな。えらいぞ。」
とりあえず近くの壁を背に2人で座り込み、寒さを和らげるためにクロアの方に肩を寄せた。
背後にある窓から朝日が差し込んでくる……やっと、恐ろしい夜が終わった。
「リヴィ、空を見てくれ。とても綺麗だ。」
「本当だ。明るくなってきたのにまだ星が見えるって不思議。」
「夜明けの短い時間でしかこの光景は見れないからな。この景色はまるで……」
それはまるでお伽噺のような、美しい夜明けだった。
っていうタイトル回収がしたかっただけです。
こうしてあの本と同じ場面を体験したのだとクロアは思い、リヴィに過保護+恋愛感情を抱くようになりました。
そしてそのルンルンのテンションでリヴィにプロポーズっぽいことを言ったけど、眠気Maxだったリヴィはそのことをあやふやにしか憶えていません、残念。




