第七話 いってきます
リデルに記憶の手がかりになるかもしれない神聖都市ステラエーンに行くことを許可してもらった私は嬉しくてすぐに旅の支度をし始めた。
ステラエーンはこの聖都から北にあり、歩いて5日ほどで到着するらしい。
本当はステラエーンへの遠征は第三部隊の役目だったらしいが、クロアに私を連れて行かせればいいのでは??と考えてくれたリデルの計らいでクロア率いる第一部隊が代わりに行くこととなった。
クロアはすごい不満そうだったけど、”クロアとまた一緒に旅が出来るなんて嬉しい!!”と言ったら上機嫌になった。ちょろかった。
そして前の旅では神託を受けるために全部で5か所の神殿を訪れないといけなかったらしく、ステラエーンは一番最初に訪れた場所らしい。
私の聖魔法のお師匠様がその神殿を管理しているとのことだったのでその人にも会って話してみたいと思う。
クロアも騎士団で遠征準備などで忙しかったが、出発の1日前には騎士達の英気を養うために業務はなしにして休暇を取るようだ。
その1日間だけはクロアの自宅で一緒に過ごすことになった。
一緒に城下町で買い物をしたり、クロアに料理を教えてもらって一緒に作ったり。
私は新鮮な気持ちだったが、クロアにとっては今までと当たり前の日常だったらしい。
そして遠征出発の当日。
旅の支度をソラやアンナに手伝ってもらう。
膝下らへんまであるワンピースは上は黒、下は群青色のグラデーションになっている。
黒い手袋をはめて、金色の星をモチーフにした控えめな刺繍が所々にほどこされている外側に黒、内側に群青色の2枚のヴェールを被せる。
金髪の髪は腰まであるので、邪魔にならない様に下の方で二つに結ぶ。
「この服にはちゃんと意味があるんですよ。……リヴィリカ様は最初の神託で女神さまからお告げと聖なる力を授かったとき、夜空には沢山の星が輝いていたようです。それを見た聖職者の方々があなた様を”星屑の聖女”と言ったそうです。この聖女の服は貴女様が世界を救った聖女様であるという証なのですよ。」
「そうだったんだ……ちゃんと意味があったんだね。」
なんだか少し誇らしくなった。これは私が私である証の一部なんだ。
支度を終えてソラとアンナにまた後でね。と声を掛けてリデルのいる大広間へ向かう。
「リデル、準備できたよ。」
「その服なつかしいな。またその姿を見れてうれしいよ。」
「そう??……いろいろわがまま言ってごめんね。でも私知りたいんだ。」
「かまわないさ。それにクロアが一緒なら俺も安心して送り出せる。……実力は確かだからな。」
するとリデルは私の腕を引っ張って腕の中に引き込まれ抱きしめられた。
力強く抱きしめられ、頬にはリデルの跳ねた毛先が当たりくすぐったくてちょっと笑ってしまった。
「どうか気を付けて。リヴィリカ、君の旅路に祝福があらんことを。」
「ありがとう。リデルもちゃんとお仕事してね。」
「……努力するよ。」
そう言って2人で笑っていると、あとから大広間にやってきたクロアが早歩きで私たちのところまでやってきて、私とリデルを引き離してリデルの頭に軽く手刀を食らわせた。
「準備が出来た。行くぞリヴィ。」
「いてて……、別れの挨拶をしてただけだぞ。そんなに睨むなよクロア。」
「ケンカしないでね……じゃあリデルいってきます!!」
2人のケンカが始まったら出発が昼間になりそうだったので、クロアの腕を引っ張る。
城の門には第一部隊の騎士達が50人ぐらいいて、いつでも出発する準備はできているようだ。
城の入り口でリデルやソラ、アンナ、宰相さん、といろんな人が見送りに来てくれた。
名残惜しいがそろそろ出発する時間だ。
「……では、陛下。行ってまいります。」
「うむ、気を付けて行ってこい。」
無表情でクロアはリデルに出発することを伝える。
私もソラやアンナにもう一度声を掛けてから、クロアの隣に並び開いた城の門をくぐる。
早朝にもかかわらず、城下町の人々も私たちを見送る為に集まってきてくれたらしい。
そしてついに街の入り口の大きな門へとたどり着く。
この門をくぐれば外の世界に行ける。
「まったく、リデルのバカのせいで折角の聖都でリヴィと楽しく暮らす計画が台無しになった。」
「……うん、クロアもリデルと一緒だよ。騎士様、ちゃんと仕事しようね。」
大きな門がゆっくりと開かれている時に隣にいたクロアがぼそっと呟いた。
この人第一部隊の隊長だよね??大丈夫かな……。
「……はぁ、みんな出発するぞ!!気を抜くなよ!!」
「「はい!!」」
門が完全に開くとクロアが他の騎士達に呼びかける。
私はひたすら草原しかない風景の先に何が待っているのかが楽しみで力強く一歩を踏み出した。
主人公は15歳から3年間旅をして、そのあと1年眠っていたので19歳ぐらいなんですけど眠っていたことと記憶喪失の関係でちょっと精神年齢は幼めです。