第六十話 穏やかな海
私達はフランジェ王国を出発し、まずステラエーンへと向かっていた。
迎えに来てくれたマーレの船に乗って、今までは激しい海流が危なくて外の景色なんてゆっくり見たことが無かったが、今では甲板に出て海の景色を楽しむ事ができる。
「この海ってこんな色だったんだ!!」
「綺麗なエメラルドグリーンだろ??俺も初めて見た時はびっくりしたよ。なんせ、いつも波打ってる海しか見たことがなかったからね。」
「……こんなに穏やかなのにクロアはどうしてまだ船酔いしてるんだろ??」
「あはは!!相当トラウマなんだろうな!!まぁ、そのうち慣れるさ。」
リデルの魔法のお陰でステラエーンの北の海流は穏やかになったのに、なぜか船酔いしたクロアをベッドで看病して眠ったのを確認してからリデルと一緒に海の景色を見に来ていた。
透き通ったエメラルドグリーンの海を覗くと、あまりの透明感から魚が泳いでいるのが見て分かる。
「リヴィリカ、あそこを見てくれ!!」
「なんだろあれ……イルカかな??沢山泳いでるね。」
「こら、危ないからあんまり身を乗り出すんじゃない。」
「わっ……!!」
私が船の下の方にいる、イルカを見ようとして覗き込むと、思っていた以上に身を乗り出していたのかリデルが私のお腹と手すりにあった手に自身の手を回してきた。
少し力強く後ろに引き寄せられ、私の背中はぴったりとリデルに密着する……するとリデルの体温がじわじわと感じられる。
「リヴィリカが毒入りの紅茶を飲まなくて本当によかった……。」
「でも私の代わりにリデルが危なかったじゃない。……苦しい思いをさせてごめんね。」
「俺は君の聖魔法がどれほど優れているか知っているからね。だからこうして後遺症もなにも残らなかった。本当にありがとう。」
リデルは私の肩に顔を埋めるとより強く抱きしめてくる。
ふんわりとリデルからは以前シャロンのお店で買った匂い袋の香りがした……まだ、あの匂い袋を使ってくれているのだろうか。
リデルの胸の鼓動を感じ、それほど密着しているのだと気づくとなんだか恥ずかしくなってきて私はお腹に回った腕を叩いて離してもらうように合図する。
「うん??苦しかったかい??」
「そうじゃなくて、離してくれる??」
「リヴィリカって体温高いから、湯たんぽみたいで温かいから離れたくない。」
「人を湯たんぽにしないで。寒いなら中に入ろう……クロアの様子も見てこないと。」
「……そうだね、そろそろクロアが目を覚ましてリヴィリカが居ないことに不安がるだろうし。」
リデルは名残惜しそうにゆっくり私から離れると、手を引いて船内の中へと入って行った。
クロアが寝ている部屋に入ると、ベッドに腰かけた状態でクロアが起き上がっていた。
「クロア、大丈夫??気持ち悪くない??」
「ああ、大分気分がいい。」
「なんだ、元気そうじゃないか。……じゃあ、俺は自分の部屋でやることがあるからまた後で。」
リデルはクロアの元気そうな姿を確認して、自分の部屋へと戻って行った。
私はクロアの隣に座ると、ふとベッドサイドに置いてあった一冊の本が気になった。
「ねぇ、クロア。この”夜明けを告げる星の女神”っていう本いつも読んでるよね。どうして??」
「これは、俺の亡くなった両親から貰ったんだ。先祖代々大事にしている本らしくてな……つい、何度も読み返してしまうんだ。」
「そうなんだ。私も読んでみてもいい??」
「……まぁ、リヴィにならいいだろう。」
そう言ってクロアは本を取ると、私に見やすいようにページをめくってくれた。
中身は絵本のようだ……文字もそこそこ多いが、子供でも読みやすいようになっていて所々に挿絵も入っている。
「あらすじは星の女神と妖精の王が眠っている者に悪戯をする悪魔を退治する、という話なんだ。」
「へぇ、挿絵が凄い綺麗だね。最後はどうなるの??」
「星の女神と妖精の王で力を合わせて悪魔を退治し、2人でずっとまた悪魔が悪戯をしないように協力していくんだ。」
「素敵な話だね。ちゃんと読んでみてもいい??」
「もちろんだ。俺のずっと大事にしている本をリヴィにも知ってもらいたいからな。」
私とクロアはステラエーンに到着するまで、一緒にその本を読んだ。
星の女神と妖精の王の物語を読み進めていく……その物語は初めて読んだはずなのに、どこか懐かしいと思えた……。




