第五十七話 死者からの招待状
リデルと楽しく話していると隣の部屋からルフェリアとクロアがこちらを見つけて近づいてくる。
ルフェリアはげっそりとした表情をしていて、クロアからはピリピリとした雰囲気が出ていた……。
「ダンスホールで見かけないと思ったらこっちに来ていたのね。……リヴィリカ、もう限界よ。クロアを引き取って。」
「ど、どうしたの??」
「他の貴族達と会話をしようにも、クロアの不機嫌オーラのせいで皆逃げていくのよ。」
「そうだったのね……。クロアが迷惑かけてごめん。」
そういっている間に、クロアは座っていたリデルをどかして私の隣に座った。
その様子を見て、リデルはため息をついてルフェリアに向かい合った。
「まぁ、よくもったほうじゃないかな??……では、今度は私がレチェリア王女をエスコートしよう。」
「ええ、お願い。……あそこにいる貴族はもしかして。」
「どうしたんだい??……あれはフランジェ王国の同盟国の貴族だね。」
「ジュピター卿よ。今回の平和条約をよく思ってなくて、お互いの国が不利になるような噂を広げているようなの。」
「……ほぉ、それは聞き捨てならないな。ちょっと挨拶をしに行こうか。」
「そうね。これ以上変な噂を流されたらたまったものじゃないわ。……強めに忠告しておかないと。」
「……ほどほどにしてね。」
2人は怖い顔になって、ジュピター卿の元へ歩いていった。
その背中は戦場に赴く戦士のような凛々しい姿だった……思わず笑ってしまった。
「ふふっ、意外とあの2人って気が合うのかな??」
「そうかもな。」
2人が他の貴族達と談笑しているジュピター卿に話しかけた……すると一瞬だが話しかけられた本人はルフェリアとリデルに話しかけられるとは思っていなかったのか少し顔を引きつらせていた。
お気の毒に……そう思いながら私は2人の背中から目を離した。
「リヴィ、俺と一曲でいいから踊ってくれないか??」
「もちろん!!ダンスホールに行こう。」
クロアがソファから立ち上がって手を差し伸べてきたので、その手を取った。
隣のダンスホールへ戻り、ダンスをしている人達に混ざりステップを踏み始める。
「先程のリヴィのダンスを見ていたが、完璧なステップだったな。やはり、リヴィはやる時はちゃんと出来る子だ。」
「でしょ??……内心、足を踏みそうでヒヤヒヤしながらだったけどね。」
リデルにはああいったが、内心は足を踏まないかヒヤヒヤしていた。
クロアは先ほどまでの不機嫌はもう治ったみたいだ。
そしてあっという間に一曲分のダンスを踊り終えた……すると、クロアは手を引いてダンスホールから出る。
「クロア、どこに行くの??」
「リヴィは人が多い場所が苦手だろう。……会場の2階に休憩用の個室が設けられているから、そこで少し休むぞ。」
「……ありがとう。実はちょっと人酔いしてたの。」
慣れない雰囲気と、あまりの人の多さ、そしてご令嬢とご婦人からする強めの香水の香り……それによって先ほどから頭痛がしていた。
クロアにはそれがお見通しだったらしく、ゆっくりと手を引いてダンスホールを出てから大きな階段を上り、とあるドアを開けて入るとそこからはダンスホールの様子を見下ろすことのできる部屋になっていた。
「リヴィ、大丈夫か??ほら、早く座るんだ。」
「うん。ふぅ……やっと落ち着ける。」
部屋は吹き抜けになっていて、先ほどより控えめに流れてくる音楽が心地よい。
私はソファに座り一息つくと、少し頭痛が和らいだ。
「飲み物を貰ってくるからリヴィは休んでいてくれ。」
「ありがとう。よろしくね。」
そう言ってクロアは部屋から出て行った。
私は周りを見渡し、外の風景を見ようと大きな窓の前に立った。
「……外に誰かいる??」
雪が積もる庭園は、所々にランプの光が照らされていている。
そのランプに照らされて、ポツンと立っている人物がいた……。
よく見ると、深く被ったマントからは銀色の髪がなびいている……あの姿は見覚えがあった。
「ルフェリア??……ううん、違う。あれはレチェリア……??」
ダンスホールを見ると、深緑のドレスを着たルフェリアがいる……だからあれは……!!
私は、部屋を飛び出して階段を駆け下りて外へと出ると、先ほどのレチェリアが立っていた場所に向かった。
「レチェリア!!レチェリアなの!?」
ポツンと立つ人物に向かって声を掛けたのだが、その人物は何も言わず身を翻して私とは逆方向へと歩いて行ってしまう。
私はドレスの裾を踏まない様にしながら走る速さを上げた。
そしてついに、庭園の端にある場所でレチェリアらしき人物は止まった。
「あなたはレチェリアなの??」
「……ふむ、これほど簡単におびき出せるとは。貴女はつい昨日まで命を狙われていたというのに些か不用心すぎるのでは??」
「え……??」
こちらへ振り返った人物は確かにレチェリアの姿をしていた……だが、一瞬で姿がぐにゃりと歪むとそこには赤いメッシュの入った灰色の髪に、モノクルを付けた男性になった。
「ですが、こちらとしては好都合。初めまして、リヴィリカ様。私は赤い天使の教団、教皇であるベネディッタ様にお仕えしているミグレムと申します。以後、お見知りおきを。」
「ベネディッタ様の!?……今度こそ私を殺しに来たのですか??」
「いいえ。貴女様にお渡ししたいものがありまして参りました。こちらです。」
ミグレム、と名乗った男は豪華な装飾のされている小さな箱をこちらに投げてよこした。
私の前で落ちたそれを持ち上げると開けるように言われる。
「その中には、お三方への招待状が入っております。」
「招待状??なんのです??」
「2か月後、死者の国ニブルヘイムにて死者の祭り、”ファンタスマゴリア”が開催されます。」
「”ファンタスマゴリア”??」
「浄化されない死者の魂が集まるお祭りになっております。ですが、死者が生者に会いたいと思っている場合、特別に1人だけ生きている人間を招待することができるのです。」
私はその小さな箱を開けてみる……すると、3枚の封筒が入っていて一番上には金色の文字で”リヴィリカへ”と書かれた手紙があった。
「一通目は聖都の教皇フィカート様からリヴィリカ様へ、二通目は海賊イザック様からマーレ様へ、そして最後の三通目はベネディッタ様から特別にランフェル様への招待状になっております。申し訳ありませんが他のお二方にも渡して頂けますでしょうか。」
「あの、どうして暗殺しようとした私を招待するのです??」
「今回貴女は生き残った、そして死者から招待を受けております。私達は死者の願いを無碍には出来ないのですよ。……招待した以上、貴女を意味なく殺そうとはしませんのでご安心を。」
つまり、殺す理由が出来たらすぐにでも殺す、という事だろうか。
私は思わず手に持っていた箱を強く抱きしめた。
「では、私はこれで失礼します。……勝手ながら、ジュノはこちらですでに引き取らせていただきましたので。フランジェ国王にもそうお伝えください。では、2か月後に会えることを楽しみにしております。」
「待って!!……消えちゃった。」
ミグレムさんは霧のようなものに包まれると、姿を消してしまった。
すぐに、窓の外から私を見つけたクロアが迎えに来てくれてた。
私は少し混乱したまま、三通の封筒の入った箱を強く抱きしめながらお城の中へと入って行った……。
ファンタスマゴリアって言葉の響き大好きなんです・・・。
さて、次章からはついにベネディッタ様も登場です。
今年中に2章終わらせたかったけど終わるかな。




