番外編 悪魔に魂を売った海賊 5
「ええ、罰を与えましょう。――貴方にはこのランフェルの元で働いてもらいます」
「……は??」
ランフェル様が笑顔で言うと、マーレは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
その顔を見てランフェル様は楽しそう続ける。
「貴方はステラエーンを守るあの海流を乗り越えてきたと言いましたね??貴方のその船を操る腕はとても素晴らしい。その腕を買って言っているのです」
「ははっ。神に仕える者が悪である海賊を従えようってか。いいのか、そんなことして」
「ええ、命を奪うより、私の元で貴方を正しい道に導くことを神はきっと許してくださいます」
「……俺や他の奴らも助けてくれるのかい??」
「もちろん。貴方方をこき使って……いえ、導くことでみなさんの罪は消えていくでしょう」
「え、今こき使うっていったか??可愛い顔して随分腹の中真っ黒だな……」
あきれたように笑いながら、マーレは胡坐をかいた格好から姿勢正しく跪いた。
そして忠誠を誓うようにランフェル様に言った。
「神官長様に忠誠を誓いましょう。貴方の手助けをさせていただきます」
「はい。よろしくお願いします。……早速お願いがあるのですが」
「なんだ??」
「ステラエーンの少し北に行ったところに、女神様が祀られている神殿があるのですが、そこまで船でここにいる聖女達を乗せて行って欲しいのです」
「それはお安い御用だが……ん??まさか、そのお嬢ちゃんが魔王を倒す聖女様ってやつなのか??」
「うん、一応ね」
「まさか、お嬢ちゃんが聖女様だったとは……それなのにあんな危険な目に合わせるなんて。本当に悪かった」
「大丈夫だよ。私はほぼ無傷だったし」
再びびっくりした表情で私を見て、マーレは頭を抱え始めた。
マーレが私に向かって申し訳なさそうに謝ってくれた。
「そうと決まればすぐに解放してあげます。……もし逃げたらどうなるかわかっていますね??」
「おいおい、逃げ出したりしねぇって」
ランフェル様は牢屋のカギを開けてマーレを解放する。
マーレは怪我をした脇腹を押さえながらゆっくり歩いて牢屋から出てきた。
「ランフェル様、マーレの傷を癒してもいいですか??」
「ああ、もちろんですよ。お願いできますか??」
「はい。”癒しの光よ……”」
一応ランフェル様に許可を頂いてからマーレに回復魔法を施す。
マーレの体を優しい光が包み込み、痛みに歪んでいた顔は穏やかになった。
「ほお、これが聖女様の回復魔法か。ありがとな」
「うん、どういたしまして」
マーレは大きなで私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
ごつごつとした手は、見た目では想像できないほどとても優しくて温もりのある手だった。
「――って、感じだったな。なかなか刺激的な出会い方で今でも鮮明に憶えてるぜ」
「そうだったね……」
マーレと話しているうちに思い出すことが出来た。
その後マーレに巡礼地の神殿に連れて行ってもらい、無事に女神様の加護を受ける事が出来た。
現在もステラエーン近くの海域を巡回し警備をしてくれていて、マーレ達はすっかり街の人達に慕われている。
「ランフェル殿が言うには悪魔に魂を売ったやつはその悪魔を殺さない限り、死んだ後も肉体を使われるようだ。だから、俺はあいつを悪魔から解放してやりたい」
「あの後もイザックの死体は見つかってないんだよね……」
「ああ。海流で流されてそのうちステラエーンに流れ着くんじゃないかと思って隈なく探したがあいつの亡骸は結局見つからなかった」
「じゃあもしかしたらまだ悪魔に従っている可能性もあるってこと??」
「ありえるだろうな。少し前にイザックに似たやつを見たと他の海賊仲間が言っていてな。情報を追って行ったが見つけることはできなかった」
「そっか……。私も何かわかったら伝えるよ。イザックの顔も思い出したから少しは探すの手伝えるかもしれない」
「ああ、ありがとな」
マーレはニカッと白い歯を見せて笑うと私の頭を少し乱暴に撫でた。
彼がいつか、大切な友人を救えることを私は心から祈った……。
マーレ編おわりです。長くなってしまった。




