番外編 悪魔に魂を売った海賊 4
自分の意思では指一本も動かせなかった体の自由が戻り、安心感で私は力が抜けて後ろへ倒れる。
すると、ランフェル様の手が届く前に、後ろにいたマーレが受け止めてくれた……そして私の肩に手を回すと守るように胸に抱き寄せられる。
そして、イザックの方に目を向けるとその表情は怒りで満ち溢れていた。
「まったく、今日は本当にうまくいかない日だ。マーレ、お前まで邪魔をして……仲間である俺を裏切るのか??」
「お前とは長い付き合いだったが、まさか知らねぇ間に悪魔に魂を売っていたとはな」
「海賊よりも、魔王になる方が面白そうとは思わないか」
「はっ!!くだらねぇ!!」
マーレは傷の痛みに耐えながらイザックを睨みつける。
イザックの背後にいる赤いフードは沢山の魂を吸い取り徐々に大きくなっていくと私とマーレに手に持ったナイフで切りかかってくる。
「っと!!あぶねぇな!!」
「マーレ、ここは協力しましょう。私が聖魔法を発動させるまで時間を稼いでください」
「私がバリアを張るから防御はまかせて!!」
「これでも怪我人なんだが……。出来るだけ早くしてくれよ!!」
絶えず赤いフードの悪魔がナイフでマーレを攻撃する……そのタイミングで私がバリアを張り、隙を見てマーレが銃弾を撃ち込む。
私達の後ろではランフェル様が退魔魔法を発動させるために両手を組んで祈っている。
「さぁ、耐えられますか??”浄化の光よ……鋭き刃となり敵を貫け……!!”」
「”ぐあぁぁっ!!ち、力が抜けていく……!?”」
「やったか!?」
ランフェル様の強力な退魔魔法は、イザックではなく後ろの悪魔を貫くと、悪魔の邪悪なオーラを消し去り、力を失くしたのか悪魔はイザックの影へと逃げた。
「これで、あの悪魔はしばらくなにも出来ないはずです」
「やるじゃねぇか、神官長様!!……さぁ、あとはこいつだけだな」
ランフェル様のお陰で赤いフードの悪魔の弱体化には成功した。
だが、イザックはまだ何か手段を隠し持っているのか余裕の表情だった。
「ちっぽけな魂を集めても仕方が無いが……、この都市全ての魂を刈り取れば多少の力にはなるだろう」
「おや、私のステラエーンで好き勝手はさせませんよ」
「”もう遅い。すでに俺様の手下が街のやつらを襲ってるさ”」
イザックの影から、悪魔の声が聞こえる。
街の方向から人々の叫び声や、人ではない者の雄たけびのようなものが聞こえてきた。
「大変……!!早く街の人達を助けに行かないと!!」
「リヴィリカ、大丈夫ですよ。街の事は”彼ら”が何とかしてくれます」
まだ力の入らない体を無理やりにでも動かそうとするが、ランフェル様に止められてしまった。
首をかしげると、人々の悲鳴は歓声へと変わった……そして、上空から二つの影が現れてクロアとリアムが船の上に華麗に着地した。
「ランフェル殿!!街に現れた魔物はほぼ片付けた!!」
「街への被害は最小限に抑えた。あとはステラエーンの聖職者たちだけでなんとか出来るだろう」
「ご苦労様です。念のためにお二人に街の事をお願いしておいて正解でしたね」
「”ふんっ、使えないやつらめ……!!”」
クロアとリアムはイザックに向かって剣を構える。
今度こそ万策尽きたのか、イザックは後ずさりをした。
「まさかこれ程とは……甘く見すぎていました」
「”しょうがねぇ、いったん引くぞ”」
「仕方がありませんね……っうぐ!!」
イザックが海の方へ後ずさると、銃声が聞こえた。
心臓の辺りからおびただしい出血をしている……銃声の方を見るとマーレが銃を構えていた。
「マーレ、お前には親友の俺を殺せないと思っていたが……」
「悪魔に魂を売ったやつとは親友のままでいられないんでね……しかも俺達の殺さずの掟を破った。お前は結局死ぬ運命だ」
「ふん……、綺麗ごとばかり言いやがって。いつかお前達の魂、刈り取ってやる。覚えていろ」
そう言ってイザックは悪魔と共に船から落ちていった。
海は荒れていて、あっという間にイザックを飲み込んだ……。
私はクロアの慌てたような声を最後に意識を闇の中へと沈めて言った……。
「あれ、私……」
「リヴィ、大丈夫か??」
目を覚ますとクロアが安心した様子でベッドに横たわる私を覗き込んだ。
足元らへんにはリアムが座っていて、笑いかけてきた。
「おっ、やっと起きたなお寝坊さん。身体はなんともないか??」
「うん……イザックっていう人どうなったの??」
「亡骸は回収されていないがあの傷では生きていないだろうな」
クロアに手を貸してもらいながら起き上がる。
自分の手を握ったり開いたりしてみる……ちゃんと自分の意思で動くことに少し安心した。
すると、ドアがノックされてランフェル様が入ってきた。
「ああ、リヴィリカ。もう起きて大丈夫なのですか??心配しましたよ」
「はい、もう大丈夫です。ランフェル様、操られた私を解放してくれてありがとうございました」
「どういたしまして。貴女に怪我がなくて本当によかったです」
ランフェル様は私に優しく微笑みかけてくれた。
私はベッドから下りて、ランフェル様に海賊たちの事を聞いた。
「ところで、残った海賊たちはどうするんです??」
「そうですねぇ……私に歯向かった罰としてスパッと処刑しますか」
「え、慈悲とかないんですか。いきなり処刑一直線なんですか??」
ランフェル様の言う容赦ない言葉にリアムはつかさず突っ込んだ。
少し怖い笑顔で言ったランフェル様はしばらくしていつもの笑顔に戻った。
「冗談ですよ。……ですが、聞いた話ですといろんなところで悪さをしているようでしてね」
「で、でも、それほど乱暴な事はされませんでしたよ??」
「ですが、彼らのこのまま野放しにするわけにもいきませんし」
このまま解放すればたとえ命は取らなくても、金品を強奪したりと被害がどこかで起こるだろう。
私は困っているランフェル様にとある提案をした。
「……でも、彼らはあの海流を通り抜けてきたってことですよね。彼らに最初の巡礼地まで乗せてもらえないでしょうか??」
「なるほど。確かに遠回りをして行くよりは手間もなくていいですね。……彼らと交渉してみます」
「ありがとうございます。あの、その交渉私も一緒に行ってもいいですか??」
「貴女が行きたいというなら止めませんが……相手は貴女を攫って危険な目に合わせた人物ですよ??」
「大丈夫です。それにマーレはどちらかというと助けてくれましたから」
「そうでしたね。早速マーレの所に行ってみましょう。」
私とランフェル様、そしてクロアとリアムの4人でマーレと他の海賊たちが捕らえられている地下牢へと向かった。
そしてたった1人で牢屋に入れられているマーレの元を訪れた。
「おお、お嬢ちゃん。無事だったかい??俺の仲間が悪い事しちまったな。本当にすまなかった」
「こちらこそ、私を助けてくれてありがとう。あそこでマーレがナイフを弾いてくれなかったらランフェル様に怪我をさせてしまっていたから」
「俺達は殺さない海賊だからな。当たり前の事をしたまでさ。さて、俺達をタダでは帰してくれないんだろう??いいぜ、どんな罰でも受けるさ」
今まで彼がどんな悪行をしてきたのかはわからない……だけど、私を守ってくれて今もこうして心配してくれている。
本当は思っている以上に悪い海賊じゃないのかもしれない。……多分。
マーレは顔を上げてランフェル様を見ると、恐れることなく自ら罰を受け入れようとしていた。
次回でマーレ編が終わります。




