第四十八話 双子の選択
レチェリアさんの髪飾りから微かに戻った記憶から、もしかしたら今塔にいるのはルフェリアさんかもしれない。
私はもう一度ジェイミさんに塔の上の姫様に会えないかお願いしに行った。
「申し訳ありませんが、姫様のお気持ちは変わりませんよ。」
「そうですか……。あの、ジェイミさんに聞きたいことがあるのですがよろしいですか??」
「なんでしょうか??」
「ルフェリアさんが旅立った後、姫様達の使用人を解雇させたと聞きました……どうして、レチェリアさんの使用人まで解雇させたんですか??」
「……ルフェリア様も旅立ち、レチェリア様も塔に閉じこもるようになり、お世話に関しても私のみでするようにと命令されましたので。……暇になった使用人たちは解雇することになったのです。」
「そうですか……それは、レチェリアさんがルフェリアだと遅かれ早かれ気づかれる前に2人の使用人を解雇したのではないのですか!?」
「……何のことでしょう??もう仕事に戻ってもよろしいでしょうか。」
ジェイミさんが足早に立ち去ろうとするので私は慌てて引き留めた。
そして、ポケットから昨日ルカが持ち去ってしまった緑と黄色の宝石が埋め込まれた髪飾りを取り出した。
「私、思い出したんです!!昔レチェリアがお姉さんと髪飾りを交換して入れ替わっていることを。そして、ルカはルフェリアさんに懐かないことも!!だから、今塔にいるのは……!!」
「……わかりました。こちらへどうぞ。」
ため息をついたジェイミさんが自ら私達を塔の上の部屋へと案内してくれた。
「少しお待ちください」、とジェイミさんが先に部屋の中に入ると、2人が話す声が聞こえた。
そして、しばらくするとドアが開けられてジェイミさんが中に入るように私達を招き入れる。
「はぁ……、記憶喪失なら私達の事を思い出さないかと思ったけど……レチェリアも2人だけの秘密だったのに教えちゃうんだもの。困っちゃうわよね。」
「じゃあ、やっぱり貴女がルフェリアさん??」
「正解よ。ルカを上手く使ったわね。……あの子は私がレチェリアのドレスと香水も同じものを付けても私を見破るからずっと遠ざけていたの。」
レチェリア……ではなく、彼女の姉のルフェリアは不機嫌そうに私を睨みながら言った。
相変わらず、机や床には難しそうな本が大量に積みあがっている。
「でも、流石に私も疲れたわ。……もう引きこもっているのも限界ね。」
「あの、どうして2人は入れ替わったんですか??」
「だって、おかしいじゃない。教皇の立場は中立だけど、やはり聖都側についているようなものだし。貴方達がフランジェに来る前から私はお父様の政治にも関わり始めた……それを聞いた聖都の国王が私を勇者に選ぶように教皇に仕向けてフランジェの後継者候補の私を潰そうとしたんじゃない??」
「まさか、そんな……。」
「いや、あの国王ならありえるぞ。リデルと違って血の気の多い王だったからな。」
ルフェリアとレチェリアは私が伝えた教皇様の言葉を不審に思い、水面下で敵国の王がフランジェ国を弱体化させようとしてるとしていると考えたらしい。
そこで、自分たちの両親にも内緒で2人は入れ替わったようだ。
「計画ではレチェリアが戻ってきて何事もなかったかのように私は私に戻ろうかと思ったけど……まさか、行方知らずになっちゃうなんてね。」
「ごめんなさい……私達だけ帰ってきて……。」
「……はぁ、この前は私も言いすぎたわ。ねぇ、あの子は私と入れ替わった事何か言っていた??やっぱり後悔していたんじゃない……??」
私は緑と黄色の髪飾りを大事に見つめながら、レチェリアと旅立った時の事をゆっくりと思い出した。
ルカが私の服の裾を銜えて引っ張るので着いていくと、部屋の中で2人が入れ替わる事を話しているのを聞いてしまった。
部屋から出てきたのは青と紫の髪飾りを付けて、ドレスから旅に適した服装に弓矢を担いだルフェリアだった。
だけど、ルカがルフェリアの手に甘えるように頭を摺り寄せているのを見て私はびっくりしてレチェリアの顔を見る。
『ねぇ、貴女はレチェリアだよね??』
『何言ってるの??私はルフェリアよ。』
『ごめん。聞こえちゃったの……2人が入れ替わろうって言ってるの。』
『聞かれちゃったか……。』
レチェリアはふにゃりと笑ってまだ、頭をすり寄らせているルカを撫でる。
するとレチェリアは私に内緒話をするように耳元に口を近づけて言った。
『教皇様のお言葉を無碍にするのは申し訳ないけど、大事なフランジェ国の継承者を危険な旅に行かせるわけにはいかない……それに私の弓の腕前のほうが、魔王退治にものすごーく役に立つと思わない??』
『……そりゃあ、すごく助かるけど。』
『リアムとクロアには適当に言っておけば誤魔化せるでしょ。いざと言う時はリヴィが上手く言っといて!!』
『レチェリアは本当にこれでいいの??』
『もちろん。この選択を後悔なんてしないわ。』
私はリアムとクロアに言う言い訳を考えながら、レチェリアとお城の出口へと向かう。
2人の選択を私が止める権利なんてない……教皇様の言いつけは本当に正しいのだろうか……??
『ルフェリアさんもお城に残されて大丈夫かな??』
『大丈夫!!ルフェは頭がいいから上手くやるよ。きっと、私達が魔王を倒す頃にはフランジェの女王様になってるかもね。』
『……じゃあ、必ず生きて帰ってこようね。』
『もちろん!!この髪飾りだってちゃんと返さないとだからね!!』
記憶の中のレチェリアは笑っていた……後悔も不安も感じられなかった。
私はルフェリアの手を取り、持っていたレチェリアの髪飾りをそっと乗せた。
「レチェリアはそんなこと言ってなかった。それと”勇者”の称号と一緒に名前を返すって。そしてルフェリアがフランジェの女王になって国を導いている姿を見るんだって。」
「……私はすぐにでも女王になっちゃいそうなぐらいよ……だから早く帰ってきなさいよね……ばか。」
受け取った髪飾りを両手で抱き締めると、決心したようにルフェリアは顔を上げた。
「この事、お父様達に正直に言うわ。そして、今まで通りレチェリアとして生きていくわ。」
「そっか……。」
「だから早く貴女はレチェリアを見つけ出してちょうだい。じゃないとおてんば娘のレチェリアが女王になるっていうことになっちゃうじゃない。」
「……うん、まかせて。必ず見つけてみせるよ。」
少し意地悪そうに笑ったルフェリアはどこかすっきりした表情になっていて、髪飾りをもう一度見つめてから自分の美しい銀髪に付けたのであった。
一件落着??・・・だけどこのままでは終わりません。




