第四十五話 遠吠えの正体
ドアがノックされる音で目を覚ます……起き上がり、少し寝ぼけながら周りを見渡してからベッド脇の椅子へと目を向ける。
昨晩までいたクロアはいなくなっていて、延々と燃えている暖炉から時折火が弾けるような音だけがしていた。
「おはようございます。リヴィリカ様、朝の支度をお手伝いに参りました。」
「は、はい。今開けますね!!」
再びノックをする音がして女性の声がしたので急いでベッドから下りてドアのカギを開ける。
ドアを開けると4人のメイドさんと、王妃様がいらっしゃった。
「おはようございます。リヴィリカちゃんにどうしても着て欲しいものがあるの!!さ、みんな準備して頂戴。」
「え??お、王妃様??」
私はまさか王妃様がいるとは思わず、慌ててボサボサの髪の毛を手櫛で整えた。
そして王妃様がメイドに指示を出すと私はメイドさん達に取り囲まれた……。
「やっぱり、双子ちゃん達が昔来ていたドレスがぴったりね!!とっても似合うわ!!」
「ありがとうございます。……でもいいんですか??こんな立派な生地のドレスを私なんかに。」
「いいのよ。大切にしまっておいてもしょうがないもの。」
レースが何重にも重なった膝下が隠れる丈の白いワンピースに裾や胸元には白いリボンがアクセントとして付いていて、大きな銀色のボタンががついたケープを羽織ってレースの靴下と銀色のボタンがついたブーツを履く。
レースとお花のコサージュがついたボンネット帽子を被り首の下でリボン結びをする。
王妃様は懐かしそうに私……いや、ドレスを見ながらボンネットの微かなズレを直してくれた。
すると、再びドアのノックが聞こえメイドさんがドアを開けるとそこにはいつもと違う服を着たクロアがいた。
「頂いた服を着ましたが……。」
「クロア君もよく似合ってるわ!!男の子の衣装を考えるのも楽しいわね!!」
どうやらクロアも王妃様の着せ替え人形状態になっていたらしい……。
細身の青みがかった黒いジャケットとズボン、深い青色のシャツに黒いネクタイには金色の星をイメージしたネクタイピンが輝いている。
その上から黒いファーの付いたマントを羽織ってい姿はいつもの騎士の服とは違った気品さがあった。
「もう少ししたら朝食の時間だから、準備が出来たらメイドに食堂へ案内させるわね。それじゃあまた後で。」
「はい。私とクロアに素敵なお洋服をありがとうございました。」
「いいのよ。また明日も用意しとくわね!!」
王妃様は楽しそうにしながらメイド共と部屋から出て行った。
残された私とクロアはとりあえず椅子に座った……クロアも慣れない服に少し戸惑っているようだ。
「クロア、いつの間に自分の部屋に戻ったの??」
「リヴィが起きる前に、俺の部屋の方のドアがノックされたから戻ったんだ。……そしたら王妃とメイドに囲まれて、あれを着ろこれを付けろってこの服を押し付けられたんだ。」
「なるほどね。でもクロアその服似合ってるよ。王子様みたいですごくかっこいい。こういう姿のクロアも結構好きだな。」
「……」
「どうしたの??」
「いや、何でもない。リヴィも天使のような可愛さだ。とても似合ってる。」
クロアは少し俯きながら、いつもより小声気味に言ったのでどうしたのかと顔を覗き込んだ。
するとほんの少しだけ目元らへんが赤くなっていた……クロアが照れてる。
「ふふふ、お茶でも入れようか??」
「……ああ、頂こう。」
これ以上いじると反撃をくらいそうなのでほどほどにしておこう。
メイドさんが朝食の準備が出来て私達を呼びに来るまで私達は今日、どうやって過ごすかを話した。
「あの、レチェリアさんはどこのお部屋にいらっしゃるんですか??」
「城の端の塔の最上階にいるのだが……会いに行くのであればメイド長のジェイミを通してからにして欲しい。レチェリアの世話をしているのはジェイミだからな。」
国王様と王妃様と朝食を食べ、食後の紅茶を飲みながら私は陛下にレチェリアさんの事を聞いた。
4年前、姉のルフェリアさんが旅立ってからはお城の端にある塔の部屋にずっといるらしい。
そして王妃様から、私達が今使っている部屋は元々双子の王女様達が使っていた部屋だという事を聞いた。
「お願いしておいてなんだが、もしレチェリアが嫌だというのなら無理に話そうとしないであげてくれ。あの子の意志をどうか尊重してやってほしい。」
「はい、もちろんです。」
「フランジェ国王、この城内で自由に行き来していい場所はありますか??もしもの時用に城内を把握しておきたいのですが。」
「そうだな……あとで城内の地図をメイドに用意しておくように言っておこう。」
「2階にある図書室は沢山の書物が集まっていますし、おすすめですわよ。」
「ありがとうございます。」
すると、どこからかウルフの遠吠えのようなものが聞こえた。
この声、確か昨日の夜にも聞いた声と一緒のような……??
そのことについて聞こうとした瞬間、外に控えていたメイドが悲鳴を上げた。
「何事だ!?」
「陛下!!レチェリア様のルカ様が!!」
腰を抜かしたメイドの横を、大きなフローズンウルフが横切る。
昨日見たウルフと同じくらいの大きさで、周りを見渡している……すると私と目が合った。
そして、私に向かって走って来くる。
「リヴィ!!」
「え……わっ!!」
クロアが私の前に庇うように立ったが、ウルフは大きく飛ぶと私の後ろへと着地した。
あまりの速さに私は後ずさりしたが慣れないヒールのブーツで足がもつれ尻もちをついてしまった。
ウルフがこちらに近づいてきたので思わず目を瞑り、片手を顔の前に出して防御した。
……だが、一向に痛みは襲ってこず、私はそっと目を開けた。
すると、ウルフは私の前でお座りをしていて、顔の前に出した手にウルフの前足がそっと乗っていた……まるでお手をしているようだった。
「襲ってこない……??うわっ、ちょっと!!」
「ワン!!ワンっ」
ウルフは目を輝かせて私の顔に自身の顔を近づけて頬ずりし始めた。
私はくすぐったくて思わず笑ってしまった……どういうこと??
クロアがイケメン王子様に。
それからボンネット帽子を被った衣装をリヴィリカに着せたかった。




