第三話 優しい瞳と怖い瞳
「やっと起きたんだな。ずっと心配していた。」
「えっと……おはよう?」
確か騎士のクロア。私と一緒に魔王を倒した勇者。重症だったけど私と一緒に戻ってこれた人。
身長は190㎝以上ありそうで、短髪の黒髪、青色の瞳に切れ長の目をしていた。
銀の糸が刺繍が施された青いマントと黒と青を基調とした騎士の服を着ていて、腰には剣を下げている。
「リヴィが目覚めてすぐにこっちに戻ってきたかったんだが騎士団の立場上すぐに現場を離れられなくてな。」
「そうだったんだ。……私の事は聞いてる?」
「記憶喪失になったんだよな。俺の事も忘れたか。」
「ごめん、あなたの事も他の3人の勇者の事も貴方たちとの旅の記憶も何もかも無いの。」
私は申し訳なくて俯いてしまった。
クロアはゆっくりと私に近づいてきて頭にそっと手を置いて撫で始める。
「いいんだ。お前が無事なら……これから沢山思い出を作っていけばいいのだから。」
「ごめんね。ありがとう。」
先ほどの鋭い眼光はどこへ?私を撫でている表情はすごく穏やかで私を映している瞳は優しい。
……身長差がすごくて私の首はすごく疲れるけど。
「あの、クロアに聞きたいことがあるの。他の3人の勇者のこと……」
「他の3人??……あいつらの行方は俺でもわからない。どんなに探しても見つけられなかった。
だからそんな奴らの事なんて思い出さなくていい。時間の無駄だ。」
「え……でも」
先ほどの優しい雰囲気から一気に怖い雰囲気になる。
私の両肩を掴んでいるクロアの手に徐々に力が込められていく。
そして、再びあの鋭い眼光になり私を見つめてくる。私は指一本動かせないほどの恐怖に包まれていた。
「許さない……あいつらなんて思い出さなくていい、探さなくていい。ずっと俺だけといればいい。
あいつらはいらない、俺とお前だけいれば。」
「どうして……。」
クロアの様子がどんどんおかしくなっていく。
……リデル!!心でリデルの名前を呟くと、赤いマントをなびかせ、伸びてきた腕がクロアと私を引きはがす。
暖かい腕の中に引き込まれ、恐る恐る目を開けるとリデルがマントで私を包み込むように覆っていた。
「クロア、何をしている。リヴィリカが怯えているじゃないか。」
「チッ、お前は引っ込んでいてもらおう。リヴィが眠っている間も俺の代わりに守っていてくれたことは感謝する。だが、リヴィが目覚めたならお前は用なしだ。これからリヴィは俺が守る。」
「おいおい、この状況を見て素直に応じるわけないだろ。リヴィリカだって子供じゃないだ。
今後どうするかはこいつが自分で決める、お前が決めていいわけない。」
すると、クロアが腰に下げている剣を鞘から抜いた。切っ先をリデルに向ける。
「はぁ。国王様に剣を向けるとはいい度胸だな……見つかったら処罰ものだぞ。」
「うるさい!!リヴィリカから離れろ!!さもなければお前の首をはねる。」
それを聞いてリデルが私をより強く抱きしめた。
気に入らなかったのか、クロアは顔を歪ませてリデルに向かって剣を振り上げる。
「だめ!!」
私は咄嗟にリデルの前に出て庇う。振り下ろされた剣はすぐそこまできていたので私は目をつぶった。
……いつまでたっても痛みがこない。うっすらと目を開けるとそこには薄いガラスのようなものがキラキラと輝いて私の前現れていた。それがクロアの剣を止めている。
「……聖女の力は衰えていないようだな。」
「バカ!!なんで俺を庇おうとするんだ!!危ないだろ!!」
リデルに怒鳴られ、私は腰を抜かした。もしバリアが発動しなかったたら私は……そう思ったら顔から血の気が引いていった。
「ねぇ、クロア。私ね、他の3人の勇者の事も旅の事をちゃんと思い出したいし、探しに行きたい。」
「もう死んでるかもしれないのに?探す価値があるのか?」
「それでも、探さないといけない気がする。」
「旅はつらい事ばかりだった。それならいっそ忘れたままの方が幸せじゃないのか??」
するとリデルとクロアの大声を聞いた城の警備の人がこちらに近づいてくる。
それを見てクロアは剣を鞘に戻した。
「今日はここまでにしておこう。……リヴィ、俺はお前を諦めてはいない。また会おう」
「え……」
クロアは警備の来る方とは違う方向に歩いていく。
やっと緊張がほぐれて体の力が抜けた。すると後ろからリデルが抱きしめてきた。
「ああー!!もう!こっちの心臓が止まるかと思ったぞ!!もう2度とあんな真似するな!!」
「えー、だって私のほうがリデルより死ぬ確率低いよ?もし当たってもクロアが途中で手加減してくれるかもだし……」
「危ないからやめろ!!」
お互い言い争ってるのを止めてくれたのは遅れてやってきたリデルの家臣の方たちだった。
別名ハイパー過保護クロアです。
リデル陛下も主人公のことは妹みたいな感覚ですかね……”今は”。