第二十五話 また会いましょう
ラン様に頬にキスされて固まっていると、それを見たクロアが鬼の形相になった瞬間、丁度良くネイサンさんが入室してきて、朝食の準備が出来たことを知らせてくれた。
ラン様は何事もなかったように「では、食堂へまいりましょうか」と1人で先に部屋から出て行ってしまった。
「お二人ともどうなさいましたか??」
「あ、いいえ、何でもないです。私達も食堂へ行こうか。」
「ああ。その前にリヴィ。」
「なに??……いたっそんなにこすらないでよ!!」
ネイサンさんも食堂へ先に行ってしまった後、クロアが私の頬を――先ほどラン様にキスされた部分を服の袖で拭き始めた。
拭き終わる頃には、私の頬はさっきまでラン様のせいで恥ずかしくて赤くなっていたが、今度はクロアが強く擦ったせいで赤くなっていた。
「ひどいよ、クロア……ヒリヒリする」
「すまなかった。だが、リヴィは油断しすぎだ。言ったはずだぞ。ランフェル殿は12歳の皮を被った腹黒じじいだと」
「なんか前よりワードが増えてるんだけど……」
「はぁ……不安だ」
「そういうクロアは心配しすぎ!!私だって警戒する時はちゃんとするよ!!」
「……ほぉ??」
私が隣にいるクロアに自信満々に笑って見せるとクロアの顔が少し怖くなった。
すると、クロアの顔があっという間にラン様がキスした反対側の頬に近づいてきて……キスされた。
「……ほら、隙だらけだな。やはり俺がずっとそばにいてリヴィを守らなければ」
「……クロアのばか!!ばーーーか!!」
ニヤリ、と笑ったクロアに私は頭に思い浮かんだ精一杯の暴言を吐いて食堂を目指して走る。
でも、クロアに足の速さで勝てるわけもなく……追いつきそうで追いつかない速さで後ろを追いかけてくる……もう、なんなの!!
なんだかむしゃくしゃしたので、朝ごはんに出てきた大嫌いなブロッコリーをクロアにお皿に全て移してやった。ふんっ。
「聖都までの帰り道、どうか気を付けてくださいね」
「はい!!ラン様もお元気で!!……あの、たまにお手紙送ってもいいですか??」
「ふふふ、もちろんですよ。私も送りますからね」
「ありがとうございます!!」
ラン様とネイサンさん、リーシェさんや他にもお世話になった人たち……エリオットさん達も見送りに来てくれた。
すると、クロアが近づいてくる。
「リヴィ、そろそろ出発するぞ。……ランフェル殿、お世話になりました」
「そんな怖い顔で言わないでくださいよ、悲しいですねぇ……まぁ、それでこそクロアですね」
「ラン様……」
「おやおや、どうしたのですか??今生の別れではないのですからそんな悲しそうな顔をしないでください」
たしかに聖都からこのステラエーンはそこまで遠くないし、手紙を交わす約束もした……でも私は握ったラン様の手を離せずにいた。
「リヴィ、よく聞いてください。最初に貴女と出会いそして次に会った時、貴女は全ての記憶を失くしていましたね……でももう魔王を倒す旅は終わったのです。貴女はもう力と代償に何かを失うことはないんです。だから次会う時は、貴女は私達の事もここであった出来事も失ってはいない。だからお別れを怖がらないでください」
「……っ、はい、ラン様。また必ず会いましょう!!」
「ええ、リヴィ。私もネイサンもリーシェもエリオットも、他の者も、貴女にまた会えるのを楽しみにしています」
私は涙がこぼれそうになるのを必死にこらえ、ラン様に笑った。
……少し怖かった、もしまた忘れたら??きっと今回のステラエーンでの思い出は最初に訪れた時と同じくらい大切なものだ。
私はラン様の手をもう一度強く握ってからそっと離した。
「では、ラン様。それに他の皆様。お世話になりました!!」
「ええ、リヴィ。いってらっしゃい」
「はい!!いってきます!!」
そうしてラン様や他の人達に見送られ、私達はステラエーンをあとにした。
少し街から離れてからもう一度振り返る。
そこには、全く同じ景色だったのに来た時とは違う、懐かしいと思えるステラエーンの街が見えた……。
ちゃんと帰るまでがステラエーン編です。
ちょっと寄り道してから聖都へ帰ろうと思います。




