第二話 もう1人の勇者
目覚めてから4日目。
いろんな情報を取り込んで気絶したあの日から、いろんなことを教えてもらった。
国王の名前はリデルって言うらしい、リデル様って言ったらやめてくれって言われた。
リデルは私と同い年で、数年前まで前国王の補佐をしていてその時から私や他の勇者達とは友人のような関係だったらしい。
少しずつ周りの人の名前も覚えていき、私が目覚めた時にすぐ最初に見たメイドはアンナ。初老のメイド長はソラさん。
この2人には日常的にお世話になっている。身の回りの世話や歩くリハビリにも付き合ってもらい、今では普通に歩けるようにまでなった。
「リヴィリカ様。今日は貴方様のお目覚めお祝いパーティですね!張り切って綺麗にしちゃいますよぉ~!!」
「お目覚めお祝いパーティーってなに……。初耳だよ?」
「アンナ変なパーティー名にしないで頂戴。リヴィリカ様の功績を称えるパーティーでございます。
ようやく主役の方がお目覚めになりましたからね。」
世界が救われてすぐ、どこの国でもお祝いがあったらしい。
でも、救った勇者の3人は行方不明で残り2人は重傷とずっと眠りっぱなしだったから主役なしで開催したという。
でも私が目覚めたことでちゃんとしたパーティーを改めてするようだ。
「それじゃあ、もう1人の勇者とは会えるのね?」
「そうですよ!今日このために隣国の警護から一時的に帰ってきてくれるみたいです!!」
「名前……なんだっけ??」
「クロア様ですよ。とてもお強い騎士様です。第一部隊長をされているんですよ。」
そう、もう1人の生き残りであるクロアにも今日のパーティーで会えるらしい。
もちろんまったくどんな人だったのか憶えていない。顔も性格も何もかも。
アンナに髪の毛を梳いてもらいながら見た鏡には、不安そうな顔をした自分の顔が映っていた。
「できました!! リヴィリカ様今日もお綺麗です!!」
「本当にとても素敵です。」
「あ、ありがとう……」
姿鏡に映った自分は膝下丈の黒いワンピースに、裾からは群青色のフリルが覗かせている。
頭には同じく群青色のヴェールの上からもう1枚白いヴェールを重ねて、髪の毛にはユリの花や花びらが編み込まれていてとてもいい香りがしてくる。
「さぁ、参りましょう。皆様きっとお待ちしていますよ。」
「うん、行こう。」
緊張しながら会場となる城の大広間へと歩いていく。
城の中には貴族の人達が私が現れたことで通路の端に立ち、道を作る。
みんなお辞儀をしてくれるので私も一人一人軽く会釈をしていく。
沢山会釈をして少し首が痛くなってきたときやっと大広間についた。
その入り口には国王のリデルがいつもより豪華な服で立っていて、私に気づくと優しく微笑んでくる。
「やぁ、とても素敵だよ。」
「ありがとう。リデルもいつもより国王の威厳が出てていいね。」
「ええー?いつも国王の威厳は出てるだろう。」
「……でもこの前宰相さんが、リデルが仕事中に逃げたって言ってたよ。国王としてどうなの??」
「国王だって適度な休憩は必要なのさ。……さぁ、みんな世界を救った聖女様をお待ちかねだ。準備はいいかい?」
私といるときのへにゃっとした笑いから、国王の威厳ある顔つきになると大広間の閉じられた門に目線を移したリデンの横顔はものすごくかっこよかった。
私は一回深呼吸をしてから、リデルが差し出してきた左腕に手を置く。
すると大きな大広間の門が開いて、中の様子が見えた。
大広間いっぱいに着飾った人たちがいて、門が開いたことで一斉に人の目線がこちらにくる。
「行こう。」
「うん。」
リデルが私の震える手の上に反対の手を優しく包み込んでくれた。
そしてそのまま大広間の奥にある王座へと進んでいく。
距離がないはずなのに大座までの道が長く感じた。
王座の前にやっと行きつき、他の来賓の方々の方を見る……ひぃ、みんなこっち見てる。
すると、1人長身の男が私の隣に並んだ。
ちらりとその男を見ると、黒髪短髪の男が立っていた。
こちらの目線に気が付いたのか、視線だけこちらを見る。
鋭い眼光をしていたので思わず目線をこちらから逸らしてしまった……。
「皆の者!!ようやく世界を救った聖女が目覚めた!!今一度世界の平和と勇者たちの勇姿を讃えようぞ!!」
リデルがそういうと会場が歓声に包まれた。
私はその光景を他人ごとのように見ることしか出来なかった……。
リデルと一緒に貴族の方々にご挨拶をしてやっと自由行動になった。
ずっと笑っていたので明日は顔全体が筋肉痛になってそう……。
アップルジュースをもらってこっそり誰もいない中庭のベンチで座った。
「リヴィリカ。久しぶりだな。」
声を掛けられてやっと人が近づいていたことに気づいた。
ビクッとして声の方を見ると、そこには私と一緒に世界を救ったという勇者がいた。