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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

I am only your model

作者: sumisode

あなたはこの世界に生きていてはいけない。この世で一番低俗な存在で、自分を偽って媚を売って人に好かれようとするあなたにはこの世界で生きていく価値なんてない。

あなたと最初に会ったのは確か中学の頃だった。私は小さい頃から友達なんてあまりいなくて孤独に過ごしていたけど、そんな私にとって唯一友達でいてくれたのがあなた。私は今までの人生の中で幾人かの人から優しくされたことがあるけれどその人たちは私の本性を知るに及んで幻滅していずれも私から離れていく。私は自分に優しくしてくれる人のことを自分の理解者だと思い込んでその人に自分の心の内をすべて吐露してしまう癖があり、でもそうすることで事前に抱いていたイメージと実際とがあまりにかけ離れていたことにみんな気づいて私と距離を取る。だからずっと人から優しくされることが嫌いだった。私に優しくしてくれる人間はみんなクズで私を弄んでいるだけなんだと思い込んでいた。だからあなたのことも最初は反吐が出るほど嫌いで、ある日あなたと一緒に帰って別れ道で離れた後にあなたはこんな風に優しく接してくれていても裏で私を馬鹿にしているのではないかと思い込んでふと殺したくなった。でもあなたはいつまでも私から離れてくれない。そのうちだんだんあなたはそういう私を馬鹿にする人たちとは全く違うんじゃないかと思えてくる。ある時、あなたは私のことを自分と同じだって言ってくれた。あなたも私みたいに人との関わり方が分かっていなくてだからこそ私に親近感を覚えているんだって言ってくれて、それで私は嬉しかった。自分のことをわかってくれる人がいたことが嬉しくて、私はあなたの1番の友達になりたいと思えた。

あなたは歌うことが得意で音楽に詳しかったのも私があなたに親近感を抱く理由のうちの一つになった。私はピアノを習っていたので音楽については周りよりはちょっと一家言がある。中学3年の夏の日、あなたはとあるバンドに影響を受けて自分もバンドがやりたいと言ってきた。私はあんまりそういうの好きじゃなかったけどあなたの願いなら私はなんでも受け入れられる。だから私はあなたのその計画に加担してメンバー集めなんかして本当にバンドを始めてしまった。

それからは毎日ずっと楽しかった。曲作りはできないので他のメンバーに任せてるけどでもあなたとこうやって一緒に生きられていることが楽しくて楽しくて仕方なかった。バンドが売れなくてもずっとアマチュアでもインディーズの会社からも声がまだかかっていなくても私はあなたと一緒にいられるだけでそれが楽しかった。でもあなたはそう思ってくれない。あなたはせっかくやるからにはメジャーにならなければならないって私たちに言ってきた。そういう野心なんてまるで私にはなかったのに、あなたがそう言うならそれが一番いいんだろうと思って私もあなたに賛同した。そうして色んな曲を作って演奏して、高校に入ってからも活動を続けて結成から1年くらい経った後に初めてインディーズから声がかかってデビューすることができて、でも私は有名になれるなんて思ってなかった。どうせインディーズだしそんなに大したことにはならないと考えてばかりいたけど、でもその時にあなたが作って売り出した曲がなぜか人気を獲得してしまってだんだん知名度が上がっていく。私はバンドをやってることなんて親に知らせてすらいなかったので怖くなってきた。これ以上有名になったらダメだと思った。これ以上有名になったらどうなるかわかったものじゃないから、あなたにそういう気持ちを話したこともあったけど、でもあなたは変に心配しなくても大丈夫だよなんて軽く受け止めてきてもっと不安になった。そのうちなぜかメジャーデビューしてしまう。確かそれは高校2年の頃で、結成から数年でそこまで上り詰めてるのは大したものだと思うけどそれはきっとあなたに才能があったからだと思う。そのまま作った曲がなぜか毎回人気になるようになって、今までにない独特な方向性の新人バンドとしての地位が着々と作られていくようになってきて、私はそれが怖い。私は人前に出てはいけない。私は自分の存在が大衆に知られればきっと不幸になる。私はあなた以外の全ての人から失望されてきた。今はまだよくてもいつかみんな私の本性に気づく時が来て、そうしたら私は何万人もの人から失望されることになる。それが怖くて怖くて仕方がない。あなたも他のメンバーもバンドがどんどん売れる度に喜んでいるようだったけど私はとても喜ぶ気になんてなれない。いつも鬱屈とした表情で参加していた。

それがあなたにも気取られて、ある日何をそんなに悩んでるのか教えてほしいって言われて、私は自分の気持ちを全て言ったら失望されそうだから言わなかったけど大分省略した表現で私の思っていることを伝える。私の言葉を全部聞き終わった後、あなたは私を励ましてくれて、誰も私に向かって失望する人なんていないって言ってくれて、私はそれだけで嬉しくてもう悩みもなくなった。とてもあなたの言葉を信じる気になんてなれなかったし私にはきっと誰もが失望するんだってことを当たり前のいつか必ずくる未来だと思っていたけどそれでもあなたに励まされてあなたは私から離れていかない事実が嬉しくて私はもう全てを許せたし自分を愛せた。

そのまま活動をしばらく続けていって安定した地位を築き上げて、それで当面は良かったけどある日私はあることに気がつく。それは曲を聞いてる人の一部があなたをアイドル視していてあなた自身もそれを否定するわけでもないということ。なぜか、自分でも理由がよくわからないけど、私はあなたがアイドル視されることが本当に吐きそうになる程嫌いだった。一部の人たちがあなたをそういうふうに扱うたびあなたにそういう目を向けるたびあなたがそれを諌めないたび私はいつも眩暈がした。そしてその対象は私にも向けられているようで、私をアイドル視してくる人がいる。私はアイドルになんかなろうと思ってないし私はアイドルの気持ちが理解できない。大衆に媚びを売って思ってもない言葉を吐いてそれで失望されることも恐れずに平然としていられる気持ちがわからない。私には到底できないもので成り得ないもののはずだった。でも大衆は私をそういう目で見る。それがどうしても怖くなって、あなたがそう思われているのも腹立たしくなって、ある時、誰かがあなたに恋人はいるんですか?と聞いた時、あなたが「全世界の人が私の恋人」なんて言葉を吐いてはぐらかしたのを聞いて、それは咄嗟に出ただけできっと深い意味合いはないだろうけど、それを聞いてその一部の人たちが熱狂したのを見て、私はあなたを心底軽蔑して今目の前にいる何千人かのファンを全員殺してやりたくなった。堕ちるところまで堕ちたと思った。もうこんなところで私は生きていけない。せっかくあなたはその唯一無二の才能でここまできたのに凡百の低俗な媚売りアイドルに堕ちたと思った。完全に焼きが回ってる。私はその日の終わり頃にあなたにもうこんなことはやめて普通の人に戻りたいって言った。それを聞いてあなたは私を励ましてくれるどころか、そうするのはあなたの自由だけどでも私はこれをやめる気はないなんて言う。あなたがやめる気がないなら私がやめられるわけがなかった。だって私はあなたなしで生きていけないしあなたも私なしで生きていけないってそう信じてたから。だから毎日毎日吐きそうになって殺したくなる気持ちを抑えてずっと活動し続けて、中にはそれに耐えられなくなって脱退していった人もいてメンバーの入れ替わりも色々あったけど私だけは7年経ってもまだあなたと一緒に活動を続けていた。もう随分いい年になってきてそろそろ先のことも考えていかなきゃいけないけど私にそんな余裕なんてない。ただあなたの隣に居続けることで必死だった。あなたを失いたくなくて、あなたに失望されたくなかったから。

そうやってずっと続けていたある日、あなたはいつになく真剣な顔で、私に話があるなんて言ってきて、それが何なのか私も怖くなってきて、聞いてみると、それはバンドをやめて一人で活動をしたいっていう内容だった。捨てられた、私はこんなにあなたのためを思って7年間毎日毎日吐きそうになる思いも堪えて辛くて辛くて仕方なかったのにそれでもあなたの為だけにやっていこうと思っていたのに、そんな私の気持ちも知らないで、私を勝手に切り捨てて勝手に自分一人でやっていこうとしている。私は結局あなたに、あなたに必要とされてなかった。大切に思ってたのは私だけで、私は結局、結局は都合のいいバックバンドの操り人形のうちの一人でしかなかったんだっていう感情が込み上げてきてあなたにもそういうことを言ってしまったけど、それを聞いて、こともあろうにあなたはあなたで私は私で別れてやった方がもっと自分の個性を強調できるなんて言ってくる。そんなはずあるわけないのに、あなたがいたからこういうことやってただけであなたがいなかったら私は音楽なんて一生無縁の生活を送ってたはずなのに。私はあなたを信じられなくなる。そこであなたに対してずっと溜めていた恨みつらみが噴出した。自分でもよくあんな酷い言葉を言えたものだと思えるほどの口調であなたの媚びない姿勢が好きだったのに今は大衆に媚びて斜に構えた人たちのご機嫌を取るだけの痛々しいサブカルバンドの元締めになってしまったとかいつも見苦しくてあなたを見てて気持ち悪かったし全世界が恋人なんて言い出した時はもう私の手で今のうちにその命を絶ってあげたほうがあなたのためになるんじゃないかなんて思ったりなんかしたとかそういう言葉を吐いた。でもだんだんあなたの目の色が変わってくるのに気づいてふと口をつぐむ。あなたのその目は私に対する悲しみでも怒りでもなかった。もっと冷めた感情、そう、それは失望、私に対して失望して軽蔑している。私は人から失望されて軽蔑されるのが一番嫌い。あなただけは決してそうならないと思っていたのに、あなたも、あなたも結局私に失望した。それでもう色々と諦めがついて、私もあなたにそういう目を向けることができた。結局ありもしない幻影を求めていただけのクソみたいな人生なんだって思ってもう全部どうでもよくなって解散しようが続けようが生きようが死のうがもうなんでもいい気分になってきて、それで解散することも素直に受け入れられた。

よくこの手のは解散ライブなんてやったりするけど私はあなたに向かってそんなものをやるのなら私はあなたを殺して生きてるのを後悔したくなるくらいに痛めつけたいなんて脅したからあなたも真には受けなかっただろうけど流石に私の気持ちを汲んでくれたみたいで、そういうものもやらずに解散した。ファンの間では色々と不満があってよくわからない噂が立っていたらしいけどそんなことはどうでもいい。私は一応大学を留年しながらも通っているのでそのまま卒業して普通の職業について普通に過ごす。そうしている間あなたは一人で活動を続けより神秘主義的で偶像崇拝的な教祖様的ポジションになり、私はそんなあなたを見ていてずっと軽蔑していた。解散以降は一度も会わず、ただあなたの新曲が出るたびに全部聞いたしアルバムとかも買ったしライブにも毎回行ったけどでもあなたの教祖的な言動をするのを見るたびそれにファンが熱狂しているのを見るたびあの時どうして殺してあげられなかったんだろうと後悔した。それでもあなたを嫌いになれずになぜかあなたの影を追ってしまう。あなたは本当に何か新興宗教でも開いたほうがいいんじゃないかと思えるレベルでカルト的な人気を獲得したけど私はそういうあなたを軽蔑しながらあなたの姿を見るたびいつも恍惚としてる。

そんな日々を4年くらい続けた後、仕事からの帰り、偶然あなたと会った。あなたは私に対して昔みたいに優しく接してくれて、音楽をまたやってみないかって言ってくれる。私はもう二度とそういうことをしないって心に決めていたしあなたのことも嫌いになったはずだったのに、面と向かって喋られると懐かしくて嬉しくてつい了承してしまい、それでまた音楽に舞い戻ることになってしまった。私はあなたのバックバンドだけは絶対になりたくなかったから自分で独自にやることにして、それで自分とあともう一人昔のバンド仲間だった人と一緒に活動していた。あまり売れなかったけどでもそうすることでまたあなたの顔が見れてあなたと一緒に対等にいられるのがあなたが私を認めてくれるのが嬉しくてやめる気になんてなれなかった。そのうちまたバンドを再結成するなんていう話が持ち上がってくる。私はもうあんな苦しい思いはしたくなかったけど、でもあなたに1年限りの期間限定で復活する案を持ちかけられてそれならまあいいと了承してそしてバンドが復活する。それはまた話題を呼んだようでなぜかよくわからないけどまた昔みたいな人気のあるバンドとしてやっていくことができた。あなたは相変わらず教祖様みたいな言動をする。私はそれはもう見て見ぬふりをするしかなかった。むしろ私も自分の中で何が変わったのか知らないけれどそういう教祖様的なものに少し加担したりした。私があなたへの抵抗感を無くした分、昔やっていた時の何倍も楽に1年間やって今度は円満に休止することができた。活動を終える日、あなたは私に感謝を伝えてくれて、私はもうそれで全部許せる。教祖様だろうがなんだろうがあなたは大切な友達だったんだって改めて思える、そう、私は結局あなたに認められたかった。あなたに認められることが1番の幸福でそれが叶った今もうやるべきことなんてない。私は惰性で活動を続けて周りからもう諦めろお前は所詮あのバンドのメンバーとしてしかやっていけない一発屋だなんて言われたりしたけどそんなことは気にならないしむしろ当たり前のことで、それで私はあなたと一緒にいられることが嬉しかった。

でも、私が戻ってきてから6年くらい経った時、あなたはある日私にもうそういうのはやめて新しいことをやれって言ってきた。今のままやっても人気なんて出ないし新しい形態の活動を始めた方がいいって、でも私はそう思えない。私は人気になるためにやってる訳じゃないって伝えたけど、でもあなたはどうせやるなら人気にならなきゃ意味がないってそう言い返してくる。私は昔のことを思い出してあの中学の夏の日からずっとあなたは変わってないんだと思った。あなたはいつも私と意見が合わない。ずっと私と分かり合えないはずだったのになぜかそこを無理やり無視して無理して活動してきたんだってこと。あなたはそれが目標なのかもしれないけど私はあなたのように教祖みたいなことやってまで人気になりたいと思わないって言ったらそれが癇に障ったみたいであなたは怒り、私のことをいつまでも成長できてないし自立できてない人だって貶してきた。成長できていないのはあなたの方で、そんなペテン師みたいな神秘主義のものに縋ることでしか人気を得られないあなたの方が劣っているって言い返してそこから喧嘩になってしまって、結局そのまま仲直りはできずに家に帰った。私はもう全てを終わらせたくなってくる。あなたのそばにいればいつかきっとあなたに失望することになる。最初はまだ幸せでもいつかあなたと私は相容れなくなってお互いに失望することになってしまう、あの時みたいに、それだけが嫌で嫌で仕方なくて私はそもそも活動すること自体もやめてまた一般人としての生活に戻った。あなたから離れるのは苦しいけどでもあなたを私の良い思い出として終わらせるためにはそうしなきゃいけないと思ったから。そしてあなたのことを今度は本当に忘れて生きていこうと努めてあなたを視界に入れないようにした。

それからまた5年くらい後、あなたがある日連絡をしてきた。私はその連絡を無視した。私はそこから2年前に結婚していてまだ子供はいなかったけど結婚式にあなたは呼ばなかったし呼ぼうとも思わなかった。中学の頃からの大切な友達なのに。それであなたからは毎日のように連絡してきて私はいつもそれを無視してそれから数週間経ち、流石に可哀想になって返事をする気になった。あなたからはまた自分と一緒に音楽をやってほしいって言われる。私はもうそういう気にはなれないから断ろうと思ったけど、でもあなたはこの5年間ずっと私のことを必要としてたとか私は一番大切な友達だとか言ってきて、そんな言葉に騙されないし靡かないって私は言ったけどそれでもあなたにそんな風に言われて年甲斐もなくまた昔の思い出が蘇ってきて楽しかった日々のことを思い出してまたあなたと一緒に音楽をやってみたい気分になってきて、結局自分は成長していないんだってこと、あなたに言われたことは正しかったんだってことを改めて感じながら家庭を放り出して仕事も辞めて結婚相手とも破局してまたあなたと一緒にバンドをやり始めた。しばらくは楽しかったけど1年くらい経ってまたいつもの失望が訪れる。こうなることはわかっていたはずなのに私はいつまでもあなたを求めてしまう。今だってあなたに必要とされさえすれば私はいつでも戻ってあげたいと思ってる。それでも失望がだんだん大きくなっていってそれから更に1年後にまた解散して一般人に戻った。私もあなたもお互いに分かり合えないのになぜかお互いを求めてしまうのは、無意識に自分と同じ存在を中学のあの日からずっと求めてるからかもしれない。だから二人とも10年経っても何年経っても大人になっても成長できていない。

あなたは私から離れた後に何か病気を患ってしばらく活動をやめ、私は毎日お見舞いに行った。私と会う時のあなたはステージの上の教祖様なんかじゃなくて私がよく知る中学生の頃と全く変わりないあの時のあなた、私はそういう姿を見られて嬉しくてあなたのことをまた大切に思えてくる。また一緒に音楽やったりしたくなってくる。もう私の人生なんてあなたのせいで大分狂わされてるのにそれでもあなたが、あなたが大切だから。

でもあなたは病気が治るとまたいつものカルトじみた活動に戻った。私はまたあなたを軽蔑する。そんなことでしか自分の音楽ができない悲しい人だって面と向かって言ったことすらあった。あなたはそれを否定するわけでもなくむしろそれを肯定して、それは私のせいでそういう人になってしまったんだって言った。私のせいなわけない、私はずっと等身大のあなたを求めてたのにあなたが教祖様になったのはあなたが勝手にやったことだって言ったけどでもあなたはそれを聞いて悲しい目をするだけで特に言い返してくれない。私は可哀想になってきて言うのをやめた。

もう一般人に戻ろうったって全てを捨てて飛び込んだんだから戻れるわけはなく、バイトの人として飲食店なんかに勤めたりして、最初は普通の会社で普通に会社員やれてたのに随分堕ちたものだと思ったけどでもあなたのためならなんだって許せる。あなたのためなら私はどんな目にあったっていい。でもあなたは最近覇気がなくなってきた。普通の友達として一ヶ月に一回会うけど会うたびにあなたは元気がなくなっていく。それと対照的にパフォーマーとしては更にカルト教団の教祖的な発言を強めていきファンもどんどん先鋭化していく。だんだん心配になってきて、私にできることだったらなんでもするからまた昔みたいに戻ってって言ったけどでもあなたは私の言葉に頷くだけで全然相談も何もしてくれない、それを腹立たしいとは思わないけどただ心配で仕方なかった。

ある時、あなたは私にまた一緒に音楽をやってくれないかって言ってくる。もうこれで4回目で、私は断りたかったけどでもあなたのその目や言動が今まで話した全ての時よりも悲痛なのを聞いて居た堪れなくなって、私が一緒にいてあげればあなたが幸せになれるんだったらそれで良いって思って私はまた一緒にやり出した。もう二人とも子供とは言えない年になってるのに、いつまでもそんなことでしかやっていけない。

最初は良かったけどまたあなたと分かり合えなくなってきて、でも分かり合えないからって離れたらあなたが不幸になるから無理して自分を演じていた。あなたの目の前では自分を演じずに本当の自分をさらけ出せるはずだったのに、いつしかあなたの前での私は一番自分を偽ってる。あなただって同じことで、あなたは大衆に向かって常に自分を偽り私の前でだけ心情を明かしてくれるけどでも完全に心を開いてはくれなくて、それで私のことをどこかで軽蔑していた。私はそういうのが耐えられなくなって、またファンの間でも4回も再結成してれば流石に過去の栄光に縋っているみたいな噂も立ってきて、別に過去に縋らなくたってあなたはやっていけるはずなのにそういう噂が立って、それで私もまたそろそろやめた方があなたのためになるって伝えたけど、でもあなたは絶対に自分から離れないでほしいなんて言ってくる。そんなこと言われたら私はもう離れられるわけがない。ずっと死んでもあなたと一緒にいたいなんて思えてしまう。

そのうちあなたは病気にまたかかって活動をやめ、私は毎日見舞いに行ったけど、そんなある日、あなたは私に向かって突然苛烈な口調で文句を言ってきた。私があなたのことを理解してあげられてないとか昔に比べて棘が無くなってるからバンドのメンバーとしても役割を果たせてないとかそういうことばかり、私はそう言われてつい言い返したくなったけどでも病気の人の前で言い返せるわけはなくて、それで私はそれを肯定した。そうしたらあなたはまた悲しそうな目をして、それで私を軽蔑してくる。私は殺してあげたくなってきたけどでも本人の前でそういうことは言わなかった。

しばらくして、今度はあなたの方からバンドをやめたいって言われて、私はどうしてか理由を聞いたけど答えてくれなくて、それで私は了承した。でもあなたは私が了承した途端に突然了承なんてしないで欲しかったって言ってきて、バンドを続けたいって言って欲しかったって言ってきて、いつのまにこんな面倒な性格になったんだろうとしか思えない。あなたはそういう人じゃなくてそういう役回りはむしろ私の方だったはずなのに。私が憧れてきたあなたとは確実に変わりつつあることを実感していた。それはもう長い月日が経ってるから当たり前だろうけど、でも人の本質は何年経っても変わらないはずなのに、あなたに至っては本質がよくわからないというか私の前でもずっと本質を隠してきていたんじゃないかと今も隠してるんじゃないかとすら思えるようになる。

私はもう一般人になんて戻れないのでそのまま惰性で違う人のバンドに入って活動を続ける。一度は普通の生活に戻ったものの夢が諦めきれなくてずっと活動再開と休止を繰り返しているというのが私に対する周りの評価、それでも私はそういうこと言われるのも仕方ないって思ってた。だってあなたという夢をずっと追ってることに変わりはないから。それでいつまでもいつまでも目標も決めずに流れで続けて、あなたとは1週間に1回くらい会って、それで幸せではないけど不幸せでもない生活を送っていた。

あなたの教祖様的パフォーマンスは更に過激になってきて、私は軽蔑はしなかったけどでもあなたのことを可哀想に思えてきてそれでどうにかして助けてあげたいと思う。私にそんな力があるかわからないけど、でもどうにかして救いになってあげたかった。

ある時、私はあなたと会い、その時にあなたは私にまた一緒にやって欲しいって言ってきたけど、でも私は断った。一緒にやったところであなたが幸せになれるはずはなかったから。何度か頼まれたけどそれでも断って、それで断られるたびにあなたは幸せそうな顔をしてくる。私はあなたがわざとこういうことをしてるんだって思った。私を試してるのかと弄んでるのかと思ってだんだん腹立たしくなってくる。それを本人に伝えたらあなたはそれを肯定して否定されるためにわざとそういうことを言ってるんだって伝えてきて、でも私はあなたの都合のいい道具じゃない。あなたが何を考えているのかなんてわからないけどでもあなたの気持ちを一方的に満足させるための道具なんかじゃない。そういうところがあるのは昔から知ってたけどでも私はそんなものじゃないからもう二度と言わないでほしいって伝えたらあなたは辛そうな顔をしたけどそれでも了解してくれる。そんな風に私の前でも神秘主義的な行動を取らないでほしかった。いつも思わせぶりで小手先の言葉と表情の機微を駆使して全ての人を手玉に取ってそうして私にも心を開いてくれずに、本当はもっと素直に悩みを打ち明けてほしいのに。でもあなたはそれをしてくれない。私はあなたの1番の友達になりたいと思ってるのにあなたはそう思ってくれない。思ってくれてるのかもしれないけどでも私の前で本心を見せてくれない。それにだんだん苛立ってきてあなたにそういうことを伝えたらあなたはまた辛そうな顔をして押し黙る。そういう風に黙るんじゃなくてもっと素直に心を見せてほしいって言って、そうしたらあなたは私もずっと自分の前で本心を隠してたくせに人のこと言えないなんて言い返してきて、確かにそれはその通りだったけど、でも私はいつも本当に辛くなったらあなたに偽りのない気持ちを伝えていた。あなたとは違う。でもそういう言葉をかけられてあなたはまた辛そうな顔をして、可哀想に思えるけどなぜか今日は追求したい気分になって私の前なんだからそういうのはやめて自分の本心を見せてほしいって伝えた。それを聞いたあなたは突然席を立って家へ帰っていく。喫茶店で話していたので全ての代金を私に押し付ける形で帰っていく。私にお金なんてないの知ってるはずなのに。

その日を最後にしばらく疎遠になってしまって、よく見かけるけどでも会釈をしてそのまま通り過ぎるだけで、私は教祖様としてのあなたを見る機会しかなかった。あなたはどんどん過激になっていく。よくわからない思想を出してくる。よくアーティストの末路で50歳くらいを過ぎたら突然思想を出し始める人とか見かけるけれどあなたはまだ全然そういう年じゃないのに思想をかなり出してくるようになった。ファンもかなり選別されていく。今のあなたに対する不平を述べる元ファンみたいなのも出てきてだんだん昔のような人気がなくなってきた。あなたに多くの人が失望し始める。私はそれを見ていてただ可哀想で、それである日あなたと偶然すれ違った時にそのまま会釈をして離れて行こうとするあなたを無理やり引き留めて話をした。

あなたはもう私の存在はあなたにとって必要ないなんて言った。あなたは私に対して失望したし自分と違う存在であることを自覚したからもう二度と関わってこないでほしいなんて言ってきて、私はそれを本心だと思えなくて追求したけど、でも長い付き合いだからわかるけどあなたのその目は真剣だった。途中でこの人は本当に本心を伝えてくれてたんだって気がつく。やっと、やっと私の前で本心を伝えてくれた。それは私に対する失望と否定だったけどでも私はそれが嬉しい。ずっとこの世で一番嫌いだったはずの失望が幸せなものに感じられる。それで私はあなたに何を言われても許せたけど、でもあなたは本当に友人としての私に失望して私ではあなたの心を満たせないことに悟ったらしくて、それが私にとっては嬉しかった。私はあなたの信者なんかじゃない。都合のいい言葉を吐いてあなたの心を満たしてあなたに遊ばれるだけの道具じゃない。私は私であなたと対等な存在だから、だから友達だなんて思われなくても構わない。あなたにとっての友達がそんなお世辞を述べ立てる胡麻擂り人形であるなら友達なんかだと思われない方がマシ。あなたはやっぱりこの世界に生きていてはいけない、あなたみたいな他人に媚を売って媚を売られることだけを望んで自分にとって耳障りのいい言葉だけ求める可哀想な人はこの世に存在してちゃいけない。やっぱりあの10年くらい前のバンドやり始めの頃くらいに人気絶頂の中死んでた方がよかったんだってそう伝えて、それであなたはかなり怒っていたけどでも怒らせるつもりで言っていたから悲しくなんかない。私たちはそこで別れて、私はやがて住む場所や活動の形態を大きく変えたからあれからもう二度と会わない。

あなたは相変わらずいつも通りの活動を続けて今ではまた全盛期のような人気を取り戻しつつあり、心なしか私がそばにいた時よりも生き生きとしている。私もあなたと離れられて気がせいせいしてこの年になって初めて自分のために音楽をやりたいと思えるようになった。人気なんて得られないけどでも私はあなたなんかと違うからそれでもいい。私は今のあなたが反吐が出るほど嫌い、どこかで目を覚まして欲しいと今でも思ってる。でもそのためには私ではいけない、私以外の誰かがあなたの目を覚ましてあげないとあなたは近いうち破滅する。本人だってこういうことやってたらいつか破滅するし実際に破滅しつつあるってことを自覚してヤケクソでやってるんだと思う。もう往年のようなペテン師としての実力もない。本当の意味で凡百の媚売りアイドルに堕ちてきた。でも私はそれを見てもあなたのもとにまた行ってあげようなんて思えない。あなたに近づけば私はまた自分の人生を台無しにされるだろうしそれくらいあなたに魅入られてあなたを大切に今も思っているから。だからあえてあなたとは全く関係のないところで自分のやりたいことをやっている、思えば自分の本当にやりたいことなんてやったのは初めてなのかもしれない。あなたに支配されない、自分だけの生活。とても清々しい、あなたに苦しめられなくて済むから。私はもう一生顔も合わせたくないほどに思ってるけど、でももし会ってしまったら私はあなたに逆らえなくなる。それだから自分は結局成長できていない。でも私はもうあなたと関係ないところで生きなきゃいけないしあなたもそうした方が幸せだろうから、だから私はあなたを否定する。ファンの面前でも幾度となくあなたのことを詐欺師だとか宗教家のなりそこないだとか言って批判してきた。本当に嫌いになんてなれるわけないけどでもそれが私のやるべきことで私の役割だと思ってるから。いつだって私はあなたを否定する。あなたの逆を行って全てにおいてあなたに逆らいあなたの隣を離れてもずっとそうし続ける。そうすればあなたが本当に幸せになれるってそう信じている。

この前、あなたがどこかで私について少し語ったと聞かされて、それは私についての思い出はもうあまり話したくないという内容だったこと、私はそれを聞いてすぐ何か言い返そうと思ったけどなぜかその時は言葉が出てこずに泣きそうになってしまった。今すぐにでも会いたくなってくるけどでもあなたにはもう嫌われてるし嫌ってるからそんなことができるわけがない。それで私も、あなたについてはもう特に話したいこともないって言い返した。それは本心で、私の偽りのない本心、そう、きっと、私は今なら失望されることも軽蔑されることも恐れずにあなたという私と同じでそれでいて全く違う存在を否定できる。それはあなたのおかげ、こんなところまで来て、ようやく私はあなたのおかげで大人になれた。その時初めて、あなたのことをあなたの大勢のファンみたいに、すごく有難い存在だって、ただちょっとだけだけどそう思えた。

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