表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

データ供養所

生まれ変わったら壁になりたい

作者: まい

 ジャンルの迷子。


 コメディーになりきれず、シリアスとも言い切れない。


 とりあえずでヒューマンドラマジャンルにお邪魔してます。

「こちらとしては大変ありがたいですが、毎回毎回、依頼に無い事までやって頂いてすみません」


 ぺこり。


「いえいえ、それは我々の営業努力。 また仕事を頂きたいのでしている事ですから」


 ぺこり。


「あはははは……ありがとうございます。 また何かあったら、依頼させて頂きますね」


 ぺこり。


「こちらこそ仕事の約束をありがとうございます。 ではまた何かありましたらお呼びください」


 ぺこり。


「ええ。 今日も本当にありがとうございました」


 ぺこり。







「ふぅ……」


 俺は学校の来客用駐車スペースに停めた、会社の車に乗ってヘルメットを脱ぐ。


「………………」


 そのままエンジンをかけ、アクセルを踏む。




 俺は電気工だ。


 主に教育機関関連の仕事を多く引き受ける会社に、就職した。


 そこへ就職したのには、理由がある。



 それは俺がまだ学生だった頃。


 俺がまだ女性……女子と言うだけでどんな子もキラキラして見えていた頃。 いや、今でも女性は可愛くてキラキラして見えているが。


 俺がまだ()と言う言葉が、プライドって言葉と(いこーる)で繋がっていた頃。



 女子だけが入れる場所。 特に裸にならなければいけない、プールの女子更衣室に強い関心があった。


 (のぞ)いてみたいが、それを恥として俺自身が許してくれなかった。


 が、求めてしまうものは求めてしまうので、学生でいる間はずっと心が葛藤(かっとう)していた。


 その結果として辿(たど)り着いた結論が。



 生まれ変わったら女子更衣室の壁になりたい。 あわよくばプールの。



 歪んでる? 笑いたきゃ笑え。


 今でもこの願望は消えてない。


 まあ既に俺は社会人になっているし、女子学生相手に(よこしま)な感情を向ける事自体に罪悪感まで持ってしまったので、(ほこり)まみれの願望になってしまったが。


 それでこうやって未練たっぷりに電気工になって、俺みたいだが実行力のある変態から守るように、仕事がてら盗撮カメラを仕掛けていそうな所も確認したりするのだ。


 実は今回()ひとつ見つけた。


 最終的に俺の心の聖域(せいいき)になってしまった、プールの女子更衣室で。


 たまにあるのだ。 どこの学校でも盗撮カメラや盗聴器などが。


 隠し場所がかなり巧妙で、見つけるのも取り外すのも毎回大変なのだ。


 俺はその隠し場所になりそうな所も詳しく点検するから、その流れで見付けてしまう事も多い。


 それで見付けるたびに思うのが、隠し方のクセから、どうもどこの学校でも仕掛けているのは同じ奴かも知れないって事か。


 俺自身の過去も有って、温情で見付けてもこっそり処分して学校へは知らせていないが、こんなモノはいつか学校側にもバレる。


 盗撮が学校へバレる前に、設置を諦めて欲しいものだよ。



 まったく。 女子更衣室は覗くものじゃなくて、中に入った女性のキャッキャする姿を妄想するものだろうが。


 覗きたい欲は否定しないが、法に触れるんだから()せよと。



「はぁ……」


 ため息と同時に目の前の信号が赤になったので、停止。


 この時間を利用して、次の現場資料の確認をするかな。


 なんて思い、仕事カバンからバインダーを取り出そうとした所で、()()に不思議な動きをする自動車を見付けた。 見付けてしまった。


 この道路は1.5車線ではないのに、対向車が正面に見える。


「なんだ? 逆走か?」


 仕事で車に乗る機会が多いと、(まれ)に見かけるヤバい車。


 それでも正面は赤信号だし、停止するだろう。 もし停止しなくても、停止しているこっちの車へ衝突(しょうとつ)しようとはしないだろう。


 そんな気持ちでその車を見ていたが、近付いてくるその車の運転手がまたヤバかった。


 顔を真っ赤にして正面を(にら)み、ハンドルを動かそうとせずにいる。



 そして赤信号を無視して交差点へ突入する頃になると、運転手の男性の口の動きまで見えた。


 俺には読唇術(どくしんじゅつ)の心得がないはずなのに、口の動きから何を言っていたのか、その時はなぜか理解できた。


‹キザイヲゼンブカエセ!›


 機材を全部返せ。


 それでピンと来た。


 コイツが、各学校で盗撮盗聴をしていたヤツだと。


 それを返せと言っている以上、ヤツの狙いは俺だと。


 背筋が粟立(あわだ)つ。


 アクセル! 駄目だ! 今から回避できる動きは出来ない!!


 まずい、ぶつk――――――――




〜〜〜〜〜〜




 ――――――――ん?


 気が付くと、一発で変な感覚に襲われた。


 視界が異様に広い。


 それと体が全然動かない。



 そしてその視界には、俺の同業者と(おぼ)しき仕事人と、土建屋。 ついでにそれらの使う機材一式。


 「ここ、女子更衣室部分の電線の作業完了です!」


 ぺこり。


「スケジュール通りで助かります。 これで工期に間に合いますよ」


 ぺこり。


「お互いお疲れ様ですね」


 ぺこり。


「いや(まった)くですよ」


 ぺこり。



 そこには見慣れたやりとりがあった。


 いやむしろ、俺もやっていたやりとりだ。


「ここの学校からいきなり、老朽化を理由にプールの建て替えをするなんて言われて大変ですよ」


「ああ、春からの着工で、夏のプール開きに間に合わせろって仕事でしたよね?」


「そうそう。 それに実は最近、盗撮被害がひどいってんで、そう言うのを隠せる(すき)が無い設計にしてくれって注文してくる学校さんが多くて……」


「知ってます知ってます。 この一帯(いったい)の学校の仕事をメインにしていたウチの業界の人が、謎の逆恨みで盗撮犯に殺された事件以降、こっちも似た相談がいきなり増えまして」


「お互い頑張りましょう」


「はい」


 仕事柄、よく顔を合わせる似た業種の人との愚痴(ぐち)り合い。



 これがまたストレス解消に良いんだ。


 似た悩みを抱えやすい所同士だから、お互いの話を理解し合える。


 (はげ)まし合える。


 もちろん顧客情報の漏洩(ろうえい)とかには気を付けるから、何でもかんでも話す訳じゃないが。





 じゃない。



 今この人達はどんな作業をしていると言った?


 プールの建て替えだと言ったよな?


 ここを女子更衣室と言ったよな?


 ってことはなんだ?



 俺はプールの女子更衣室の壁に生まれ変わったのか?






 ヒャッホーーーーーーーーイッッ!!!


 俺の願いが、叶っちまったぜ!!!!






 半年。


 …………も()たず、おおよそ3()月後。



 女子更衣室の壁に生まれ変わるんじゃなかった…………。


 妄想のまま、綺麗(きれい)でいたかった……。


 男の人間関係はシンプルってほどシンプルじゃないが、まだ分かりやすかったんだ。




 女子、こええ…………。


 女子だけじゃなくて、女性しかいない場所ってこええ。


 女性の人間関係ってもっとキャッキャしてキラキラしてるモンだと思ってたよ。


 知りたくなかったよ。


 覗き対策がされて、どこからも見られない空間があると、女性って怖くなるのがいるんだな。


 知りとう無かったよ、こんな真実……。




〜〜〜〜〜〜



補足



更衣室の壁が何を見たのか?


 どの程度って部分から、読者の皆様のご想像におまかせします。


 自分からは一切語りません。


 補足になってないけど、これだけは言っておかねばと思いました(全力で目逸らしー)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] またも着眼点よ。凝ったカメラワークのドラマを観たような気分。家具の隙間やカップの持ち手の穴からのアングルのよう。 なお視点は女子更衣室w 二次元ではキャッキャウフフの園だけど、現実はおばち…
[良い点] 夢が叶ってよかったねぇ~(目線反らしながら)。 [気になる点] 盗撮機材ってそんなに簡単に設置できるものなでしょうか? うーん、忍び込むのでさえ大変そうだと言うのに…… [一言] 女性のリ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ