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『戦場に咲いた愛』~侯爵子息と子爵令嬢の身分違いの恋~  作者: 蒼あかり


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14/16

~14~


 辺境伯爵夫妻や、周りの助けを借りながらヴェリテを育てたパトリシア。


 父親に似た顔立ちと運動神経の良さを引き継いだヴェリテは、物心つく頃から木剣を振り回す、聞かん坊に育った。

 誰に似たのか言い出したら聞かない頑固者で、口よりも先に行動してしまうような我儘、そのくせ母の姿が見えなくなると泣きながら探し回る甘えん坊だった。

 

 普段は強気なくせに、少しでも自分の姿を見失うと慌てて探し回る姿を見て、寂しい想いをさせてしまっているとパトリシアは心を痛めていた。

 だが、ことあるごとに父であるブラッドリーの事を話して聞かせ、父に負けぬ立派な騎士になるようにと言い聞かせていた。



 王都から遠く離れた国境を守る最果ての地でも、王都の話は伝わってくる。

 

 あれからブラッドリーは、王族を守る近衛騎士となっていた。そして最短最年少で、近衛騎士団団長に上り詰め、今では国王からの覚えもめでたいと聞く。

 王都でも筆頭の花婿候補と呼ばれ、騎士を夢見る子供たちからも憧れの存在になっているらしい。それなのに、浮いた噂ひとつ流れることはなく、婚約者がいると言う話も聞こえてこない。


 季節は廻り、いやおうなく年月は過ぎ去って行く。

 グリッドの辺境地でヴェリテと二人、周りの人たちに見守られながら看護婦として働くパトリシア。

 彼女もまた浮いた噂ひとつ聞くことはなく、穏やかに日々を過ごしていた。



 そして、ヴェリテは七歳を迎えようとしていた。

 ここグリッド辺境地では、男子は七歳になると短剣を持つことを許される。

 それまでは木剣であったものが、簡単に人を傷つけることの出来る物を持つ資格を与えられるのだ。それはすなわち、自身もその危険にさらされる可能性があることを示す。

 国境を守る者は常に戦と隣合わせだ。この地が突破されれば国中が危うくなる。

 それを食い止めるのが辺境の地を預かる者達の務め。

 わずか七歳と言えども、行く末は騎士道を選ぶ者も多い。早い時期から殺傷能力のある武器を持つことで、命の在り方と心構えを植え付けるのだ。


 そして七歳で持つ短剣は父親が騎士の場合、父の物を譲り受けることを習わしとしていた。


 父のいないヴェリテは憂いていた。母を心配させたくなくて父の話を自らすることはない。母であるパトリシアもまた、父の話はすれど、名や立場を話してきかせることはなかった。そして不思議なほどにこの地の人たちは、ヴェリテの父の名を口にすることはない。

 だから未だにヴェリテは父の本当の姿を知らずにいた。

 王都では最短最年少で近衛騎士団団長になったブラッドリーの絵姿が溢れかえっているというのに。

 



 雪の降らないこの辺境地でも、冬を越す支度はしなければならない。

 保存食を作り、暖炉の薪を十分に確保する。

 年の瀬に生まれたヴェリテは、もう十分に手伝いのできる働き手だ。日ごと、少しずつ冬の準備を手伝っていく。


 いつも家の手伝いや勉強の時間の合間を縫って、ヴェリテは剣の稽古をしていた。

 近くの子供たちと広場で木剣の手合わせをした後、パトリシアがむかえに来るまで一人剣の稽古を続ける。

 

 ある晴れた日の事。夕方近くになりパトリシアがいつものように剣の稽古をしているヴェリテを迎えに広場に向かった。


「ヴェリテ」


 自分を呼ぶ声に気付き、母の元に駆け寄る。


「汗をかいたのね。すぐに拭かないと風邪をひくわ」

「大丈夫だよ。僕、そんなに弱くはないから」


 パトリシアの腰に手を回し、見上げるように話すヴェリテ。息子の髪を手櫛で直し、自分のハンカチで額の汗を拭く。そんな穏やかで温かい、いつもの光景だった。


「母さん、今日の晩御飯はなに?」

「ふふ、なんだと思う? 今日は鴨をいただいたのよ。ローストしていただきましょう」

「やったぁ! 楽しみだ」

「さ、暗くなる前に帰りましょう」


 そんないつもの親子の会話に、突然馬の嘶きが聞こえて来た。

 パトリシアは咄嗟にヴェリテを庇うように抱きしめ、少し離れた所からこちらを見つめる男に目を向けた。

 馬上にいる男はこちらに視線を向けたまま、ゆっくりと馬から降りる。

 夕日に照らされて映し出されたシルエットは、マントをまとった騎士のように見える。



 夕日の逆光で眩しそうに眼を細めながら、男を見るパトリシア。



 その腕の中のヴェリテがパトリシアの手を振り解き、突然走り出した。



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