61.コイントス-1
「五分五分、ですか――」
宮廷の調査員からの報告を聞いたビアは、その微妙な数字に何ともいえない顔になる。この報告結果とは、適正審査再開後から作成した道具に、通常以上の特殊効果が発現した割合である。
「はい。しかし審査を再開してまだ十日。以前は特殊効果の発現がまったく見られなかった上で、この短期間でこれだけの成果が上がっているのは実に素晴らしいことですよ!」
ビアとは対照的に、調査員の若い男は顔に満面の笑みを浮かべる。人の良さそうなその顔に嫌みたらしい雰囲気は微塵もなく、純粋にその結果を喜んでいるのがよく分かった。
「……でも、前のレモネードの時ほどの効果はどれも出ていないんですよね?」
「ああ、くだんのレモネードですか。僕は話でしか聞いていないですが、あれは別格との評価を受けています。……何も召喚されし乙女が毎回コンスタントに本領発揮できていたわけではありません。ましてやオクトーバー様は召喚時に本をなくされている身、そこまで気に病むことではないと思いますよ」
「そう…でしょうか……」
「ええ。なのであまり気負わず、前向きに続けていただければ大丈夫です。………おっと。ビア様、お客様がいらしてます」
そう言った男の悪戯っぽい目配せの先を見れば、奥の扉からフェリクスが顔を覗かせているのに気づいた。
「精が出ますね、ビア様」
「フェリクス様!いったいどうしてここに?」
ビア達がいるのは研究室の一室。ちょうどポーション作りに勤しんでいたところだ。城の離れに建てられたこの場所に、政務で忙しいフェリクスがわざわざ顔を出すような場所ではない。何事かと慌てて駆け寄れば、フェリクスは嬉しそうにはにかんでみせた。
「いえ、たまにはビア様の励まれているご様子を見てみたいなと思いまして。お邪魔でしたらすみません」
「そ、そんなことは全然……!!……ただ、ちょっと恥ずかしい気がしなくもないですが……」
いかんせん五分五分でしか発現しない力だ。運任せに等しいものを人様にお見せするのは気が引ける。それにあらたまって観察されたらそれこそ失敗する確率が上がりそうで怖い。
ビアが少しだけ目を泳がせたとき、後ろで話を聞いていたらしい先ほどの調査員が満面の笑みで小さなボトルを差し出した。
「そういうことでしたら、ちょうどこちらに。先ほどオクトーバー様に作成いただいたマジックポーションですが、鑑識の結果、成功とのことです。どうぞご覧ください」
「ほう、これが……」
フェリクスは差し出されたボトルを慎重に受け取ると、光にすかしながら観察するようにまじまじと眺めた。
「……一見、特別何か違うということはないんですね。一般の品に紛れていても全然気づかないな」
「ええ、でも効能は大違いです。ぜひお試しいただきたいところですが……残念ながらこのあと調査を行うため、こちらは預からせていただきます」
「ああ、引き続き頼んだ」
フェリクスがボトルを返すと、調査員は恭しく頭を下げその場を去っていった。どうやら調査室の方に持っていくつもりらしい。
いきなりフェリクスとふたりきり残されてしまった。さて何を話したものか。ここのところいやに距離が近いせいか妙に緊張してしまう。なるべく無難な話題をと、ビアが頭を悩ませたのも束の間のこと。
「ところでビア様、五日後はお休みと伺っておりますがあっておりますか?」
さいわいにも、口を開いたのはフェリクスだった。
「えっと、五日後ですか?……確かそうですね。その日は適性審査はなく、ゆっくり休むよう言われております」
「それはよかった!ちょうど僕もそこで休みが取れたんです。……それで、もしビア様のご都合さえよければ、城下町にふたりで遊びに行きませんか?」
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