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55.正体-1

 ローアルデ城の客間のひとつ、今日の招集に使われたその部屋は城の西側に位置しており、ゴシック窓から差し込む夕陽が目に眩しい。その一方で、壁際などの光の差さぬ場所は、夕刻も相まって薄暗く、明暗のコントラストがはっきりした場所だった。

 ジミルに半ば引っ張られるかたちでこの場に参じたテオドアは、洗練された城内の雰囲気に既に萎縮気味であった。使用人に案内されるまま、おずおずとアンティークソファに腰をかける。横長のそれには左端にすでにクォーツが陣取っており、テオドアの存在に気づくと軽く会釈を返してきた。

 葡萄酒色をしたベルベットソファは、肌触りも座り心地も素晴らしく、簡素な木椅子に慣れたこの身には、かえってむず痒さを覚える代物だった。隣で堂々とくつろぐクォーツに、ある種の尊敬の念を覚えつつ、テオドアはそっと部屋を見渡す。

 その場に揃ったのは四人。呼び出し主であるフェリクスをはじめ、クォーツ、ジミル、そしてテオドアである。おそらく医師も呼んだのであろうが、あいにく仕事の都合がつかなかったのか、彼の姿は見当たらない。


 ローテーブル越しに座るフェリクスは、メイド達が各々の前に紅茶を並べ終えたのを確認すると、一つ咳払いをして話しはじめた。


「さて、どこから話しはじめたものか……あ、テオ、君はもう茶菓子に手をつけるのか。いや、いいんだが。うん、気にしないでくれ。あ、ブナンダーくん、肘鉄は大丈夫だ。一応、君の上司だから、ほら。……クォーツ、君はちょっとうるさいぞ。紅茶の銘柄?確認して今度教えてやるから後にしてくれ。あ、テオ、それは僕の分の茶菓子…あ、うん肘鉄は大丈夫……え?茶菓子の銘柄も?ああうんわかった…………ああ、もう、ええい!!」


「ちょっと落ち着かんかい」――その一言が、我が国の高貴なる第二王子から発されたことで、その場はしんと静まり返った。崇高なる王子からの厳粛なツッコミである。これはもう言うことを聞くしかあるまい。

 彼の前に並ぶ三人は秒で姿勢を正す――お行儀よく背筋を伸ばし、膝を揃え、両手はその上にきちっと添えると、真剣な眼差しで、「ええもう本当困っちゃいますよね僕は悪くありません悪いのは他の二人ですなのでお咎めは無しにしてください」とでも訴えかけるように、熱烈にフェリクスを見つめていた。


「………いや、分かってくれたならいいんだ」


 高貴なる王子は、その人柄も大変素晴らしく、この数分間が通常の十倍ほどストレス負荷が高まっていたにも関わらず、ひとたびその場が落ち着けば、いつも通り粛々とと話を進めはじめた。本当によくできた王子である。


「それでは本題に戻ろう。皆、既に噂を耳にしているかもしれないが、数ヶ月前、我が国で召喚の儀を行った。……まあ、それ自体は別段珍しいことでもないとは思うが……今回の召喚の儀は………なんと、成功したんだ」


 その一言に、三人が息を呑む。それまで緩みまくっていた空気が一変した。


「……それで我々の呼びかけの元、召喚に応じてやってきたのが、彼女だ」


 フェリクスが後ろに振り返り手招きをする。今更気づいたが、先程まで数人ほどいた使用人達は、いつの間にか姿を消していた。今いるのはここにいる四人と、フェリクスが呼びかけている、誰かだけ。

 奥から微かな衣擦れの音とコツコツという足音が聞こえる。尺のしれた室内でそれはだんだんと近づき、ついにテオドア達の目の前にまで迫る。



 前述の通り、この部屋は明暗のコントラストがとてもはっきりした場所だ。

 だからであろう。その光の奥からしずしずと女が近づいてきたとき、彼女が目の前に現れるまで、テオドアはその正体に気づくことができなかった。また彼女の服装がテオドアの知るいつものそれと異なっていたことも、余計に判断を遅れさせた一因だろう。


「……………ビア?」


 彼女の名前が頭によぎった時、テオドアの目は大きく見開いた。無意識のうちにその名を呼ぶ。

 それを聞いた女は、伏し目がちだった瞼をおもむろに開いた。若草の瞳が窓から差す光を映し、きらきらと瞬く。


 髪を下ろし、上品な薄化粧を施し、ディアンドルのような服を身に纏ったその女は、多少の見た目は違えど、確かにテオドアの知るビアであった。

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