47.発見-3
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荷馬車の上はガタガタと揺れて、お世辞にも快適とは言い難かった。王族用の高級馬車ですら乗り物酔いするフェリクスにとって、この場所はひどく耐え難い。口元を押さえてなんとか吐き気を誤魔化していたところ、隣に座っていた町医者が薬を差し出してくれた。酔い止めか何かの類だろう。
調査には大人数割かれていたらしく、その中には町医者も含まれていた。山火事の可能性があるからして当然かもしれないが、ありがたいことだ。
フェリクス達は沢から急いでテオドアを引き上げると、すぐさま調査隊もとい町の男衆と合流した。荷馬車で約二日、過酷な旅になると伝えた上で頭を下げれば、心優しき医者はすぐに了承してくれた。親切心か王族の手前仕方なかったのか、本当のところは分からないが、そんなこと今はどうでも良かった。
テオドアの様子を覗き込む医者は、なんとも難しい顔をしている。無理もなかろう。こんなひどい火傷、小さな町医者がそうそう眼にするものではない。
「……持ち直すのは厳しいだろうか?」
「私からはなんとも。………正直、今の姿が奇跡的なくらいかと思います」
「だろうな。これだけの大火傷で、かろうじてとはいえまだ息があるのが不思議なくらいだ」
ボロボロの銀箱を眺めながらクォーツがポツリという。テオドアを発見した時、彼の右手に挟まっていた、なんてことない平凡な保冷容器だ。しかしクォーツはそれを見つけると、大事そうに懐にしまいそのまま離さなかった。悲しげに「ちゃんと返してやるからな」と呟いていたのを覚えている。
「それもそうなのですが……」
町医者の返事はいまいち煮え切らないものだった。歯切れの悪い物言いが気になり顔を上げる。眼鏡をかけた小太りの男が、困ったように眉を八の字にして、こちらの様子を伺っていた。
「気を悪くなさらないでいただきたいのですがね。私からすると、正直、この程度の火傷で済んでいるのが不思議なのです。オルトロスの炎で焼かれた事実、また焼き切れた服の跡からして、損傷はもっと酷くてもおかしくない。なのに彼の傷はⅡ度熱傷のそれだ。本来ならⅢ度が妥当だというのに……」
聖女のご加護でもあったのでしょうか、町医者が誰にともなく問いかける。医学に通じぬフェリクス達からすれば、これが軽傷扱いなのは俄かに信じがたかった。クォーツなどは少し気を悪くする始末で、投げやりに「だとしたらその聖女は随分未熟なことだ」と悪態をついていた。死にかけの友を前に軽傷などと言われれば無理もなかろう。町医者とてバツが悪そうである。
馬車の空気が悪くなる中、フェリクスは違うことを考えていた。町医者の最後の問いかけ、聖女のご加護――
(聖女……)
脳裏に一瞬だけビアの顔がよぎる。
(まさかな……)
口の端からふっと自嘲が漏れる。彼女に聖女の適性はなかった。それにこの件に彼女は全く関与していない。突拍子もない思いつきを早々に頭の外に追いやるとフェリクスはふたたびテオドアの様態を見守る。
城はまだ遠い。早くて明朝の到着になるだろう。聖女がもしいるのなら、一度与えたその慈悲のもと、最後までこの男を護り抜いて欲しい。そう思った。




