第9話 再会
ジャンヌが振り向くと、アシレーヌが漆黒の翼を羽ばたかせ飛んでいた。すでに変身を済ませてあるようだ。アシレーヌはジャンヌと向かい合うように着地した。
「なんだかもう滅茶苦茶だぞ」とジャンヌ。
「ふん、さっきのは、あたしが生み出したカメレオン男さ。どんな人間でも、一度見た相手には変身できるのよ」
「姉貴にピッタリな、姑息な手段だね」
「死に損ないめが! もう一度地獄に落ちな!」
「ジャンヌ、変身!」
ジャンヌの体はより逞しくなり、純白の羽毛に包まれた。
アシレーヌが飛びかかってくる。そのパンチを目で捉え、すべて受け止めた後、ジャンヌは反撃の拳を繰り出した。アシレーヌが後方へ吹っ飛ぶ。
「前の戦いより弱くなっているね。博士に何かされたか?」
「くそ、あなたそこまで知っているのね」
図星らしい。アシレーヌは嘘をつくのが苦手だ。ともかく、博士が日記に書いていた、アシレーヌを弱くする作戦は成功したようだ。もっとアシレーヌの情報を掘り下げたい。
「それとも、怪人を生み出すと自分の体力を消耗するのか?」
「うるさい!」
これも図星らしい。アシレーヌは、怪人を生み出せるが、それほど都合の良い能力ではないのだ。もしも無制限に生み出せるなら、これまでだって一体ずつではなく、何体も一気に生み出して、マサミチを連れ去っていただろう。
今日は、コウモリ男にクモ男、カメレオン男も使役したから、そうとう弱っているはずだ。
「酒のつまみにしてやる!」
アシレーヌは体勢を立て直し、また飛びかかってくる。さっきよりも素早い。体が温まってきたのかもしれない。
ジャンヌは躱したが、鋭い爪が頬にあたり、緑の血が飛び散った。仕返しに、相手の腕を掴む。
アシレーヌは逃れようとするが、ジャンヌのギリシャ彫刻じみた逞しい腕がそれを許さない。
「パワーも落ちているな、姉貴」
「ぐぐぐ……!」
そのとき、アシレーヌの腕の力が一気に弱まった。そのまま折ることができそうなほどに。見ると、その腕は、人間の女性のものに戻りつつある。
アシレーヌはそれを見て、自身でも驚いたようだ。
「くそ、もう時間か」
「なに? 変身できる時間に制限があるの?」
「ハンデにはちょうど良いでしょう」
隙を見て、アシレーヌは腕を振り払った。それとほぼ同時に、翼から羽を引き抜き、剣に変えた。ジャンヌを岩に串刺しにしたものと同じ、切れ味抜群の剣だ。
「懐かしいね、私が前に貰ったつまようじじゃないか」
「今度は心臓を刺してあげる」
「やめておけ、これ以上やってもケガを増やすだけだわ。それより博士の居場所はどこ? 生きているの?」
「ふん、教えるわけ、ないでしょう」
「てめえな、五体満足なうちに答えることをオススメするぞ」
「ジャンヌ。良い気になっているみたいね。確かに、今のあなたならあたしの攻撃を避けられるでしょう。けど、普通の人間はどうかしらァ!」
「なに!」
ジャンヌは、鳥肌がたつのを感じた。アシレーヌが、何かとんでもない作戦を思い付いたらしいからだ。
目線をアシレーヌから逸らすと、すぐそばで高校生くらいの女子がしゃがみ込んでいた。戦いに集中して気付かなかったが、しばらく前からそこにいたのだ。ジャンヌたちの戦いに驚いて、腰を抜かしているらしい。
「ボサッとするな、早く逃げな!」
ジャンヌが叫ぶのとほぼ同時に、アシレーヌが剣を投げ飛ばした。少女目がけて。