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第6話 封印



「あーもう! やるしかないのか」


 ジャンヌは素早く剣を振ったが、アシレーヌが反撃し、素早い剣さばきでジャンヌの手から剣を叩き落とした。


「なに!」

「それじゃあさようなら、ジャンヌ」


 次の一閃は避けられない。ジャンヌがそう覚悟したとき、アシレーヌの動きが鈍った。なよなよとふらめいたかと思うと、その腕が人間のものに戻り始めている。鳥のようなかぎ爪のある腕から、人間の腕に。


「ああ、もう時間だわ」

「お、おい、どうしたの?」

「来ないで! あなたに心配されるなんて、あたし屈辱だわ」


 アシレーヌの身に何が起こったかは分からない。変身が解除されようとしているのか? ともかく、今は距離をとるチャンスだ。


 ジャンヌは翼を開き、空中へ飛び上がった。


「逃がさない!」


 アシレーヌも追いかけるように空中へ舞う。一気に追いつかれ、ジャンヌは蹴りを放った。その蹴りをするりと避け、アシレーヌはもう接近してくる。そのまま、剣をジャンヌの腹へ突き立てる。


「うっ!」

「一生寝ていなさい、ジャンヌ!」


 そのまま、アシレーヌはグリグリと剣をめり込ませてくる。痛みで頭がおかしくなりそうだ。全身の力が抜け、変身が解けていくのが分かる。


 剣が腹に突き刺さったまま、ジャンヌの体は落ちていき、大きな一枚岩の上に串刺しになった。痛みと最悪な気分を味わいながら、ジャンヌは目を閉じた。



**



 そのあと、どれくらい岩の上で眠ったかは分からないが、ジャンヌは生き延びて、目覚めたのである。


 ジャンヌは立ち上がった。見える景色は、神社と、少し離れたところで怯えているマサミチ、そして、立ちふさがるコウモリ男。


 数年分の出来事を一気に思い出していたが、どうやら数分と経っていなかったらしい。


「あ~」ジャンヌは、くらくら痛む頭を抑えながら立ち上がった。「なんか思い出してきたわ。アシレーヌ、てめえのところまで辿り着いてやる」

「ジャンヌ! 良かった」


 マサミチが顔をほころばせる。「思い出したんだね、ジャンヌ」

「ああ、断片的にって感じだけどね。パワーの使い方もな」

「シャー!」


 コウモリ男が、ジャンヌ方へ飛びかかってくる。


 変身したジャンヌは、自分の翼から羽をむしりとって、頭の中で剣をイメージした。すると、その羽は柄の白い剣へとみるみる変わっていく。羽を剣に変える能力だ。


「細切れにして冷凍出庫だ!」


 ジャンヌは、コウモリ男とすれ違うようにして、剣を持ったまま走り去った。常人の目には、ただ二体がすれ違ったようにしか見えない速度である。だが、ジャンヌの剣には、緑色の血が滴っている。


 ジャンヌは剣を振り払って、その血を飛ばした。地面に血が着く音がする。


 次の瞬間、コウモリ男の体に八つ裂きにされたかのような跡がはしり、その体はいくつものパーツに分解してはじけた。


「す、すごい! ありがとう、ジャンヌ」


 マサミチが駆け寄ってきた。


 ジャンヌは変身を解いて、人間の女性の姿に戻ると、マサミチの頭を撫でた。


「で、これからどうする? こうやって向かってくる刺客を倒していくだけじゃ、キリがないわ。もっとも、何体来ようが負ける気はしないけれど」

「僕の家に行って、パパの研究室を見てみよう」

「そこに何かあるの?」

「分からないよ。けれど、アシレーヌはパパや僕を殺したがっている。何か、迷惑なことがあるんだ。パパの研究室に行けば、分かるかもしれない」

「なるほどね。私も、自分が生まれた水槽を見てみたいわ」


 そうと決まれば、二人とも行動が早い。マサミチの家は二階建ての一軒家で、それとは別に、庭をはさんで研究室があった。


 とにかくだだっぴろい部屋に、水槽、図書、何かを表示し続けているパソコンなどが置かれているが、どれもホコリをかぶっている。


 マサミチが咳き込んだ。


「コホッ、コホッ。学校の理科室みたいだ。ホコリっぽいところを除けばね」

「へえ、理科室ってこんな感じなの」


 学校というものがほとんど分からないジャンヌ。


 ジャンヌは、濁った溶液が入った、円柱状の水槽に近付いた。大人がすっぽり入りそうな大きさだ。だが、ジャンヌには分かる。この水槽に入っていたのは、大人ではなく二人の赤ちゃん。ジャンヌ自身と、アシレーヌだ。


 その冷たい水槽に、そっと触れた。冷たい表面。裏腹に、心は暖かくなっていく。うっすらと、深層にある記憶がよみがえってくる。この水槽で、ジャンヌとアシレーヌは何か月も一緒だった。


 博士の声を聞いたのも、マサミチに初めて話しかけてもらったのも、この水槽の中だ。何も知らぬまま、とにかく、博士たちの声や、アシレーヌの暖かさだけを感じていた。ジャンヌたち姉妹は一心同体だった。


「姉貴……」


 私たちは、どうして争ってしまったのだろう。どうして今も争っている?


「ジャンヌ、こっち来て。パパの書いた本がある」


 マサミチの呼ぶ声で、ジャンヌの憂鬱な回想は上塗りされた。


 マサミチの方へ行くと、本がいくらか詰まれてある。本と言うよりは、メモ用のノートといった感じに近い。マサミチがパラパと捲っているのを覗き見ると、ところどころデッサンのような絵も描かれてある。


「どんな内容なんだ?」

「漢字が多くて読めないよう」

「ああ、そうか、小学生だもんね」

「ジャンヌ、読んでよ」


 言われるまま、手に取ったノートを捲ってみる。それには、ジャンヌとアシレーヌの身体的特徴や、成長過程が描かれていた。ジャンヌの全身像や、身長の伸び具合、パンチ力や百メートル走の記録などもある。


「自分が本に載るっていうのは悪くない気分だが、ここまで細かく書かれると気持ち悪いわね」


 ところどころ声に出して読んでみたが、自分のスリーサイズの記録だけは黙読した。しばらく経過したらしいところに、走り書きで、「もはや二人の体格は、大人と言える。バストもヒップも成人女性の標準をゆうに上回る」と書かれてあった。

「これガチでキモいぞ」


 あくまで研究者としての筆記だろうが、さすがに声に出てしまった。


「どうしたの、ジャンヌ?」

「ともかく、このノートにはアシレーヌと私の肉体データが書かれているみたいね。博士とアシレーヌがどうなったのかは、分からないわ」

「じゃあこっちのはどう? 『何月何日』とか書かれてあるみたい。これ、たぶんパパの日記だ!」

「どれどれ」

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