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第5話 決裂




 また二年ほど経った。ジャンヌたち双子は、もはや成人女性と変わらぬ体格へと育っていた。むしろ、肉付きのよく、たくましさも大人らしい艶やかさもある体格であった。


 二人はやはりうり二つで、目の色と髪の色だけが違っていた。ジャンヌは金、アシレーヌは黒。二人が並び立つと、そのコントラストがより際立った。


 博士の家の庭、緑の芝生の上で、ジャンヌはマサミチの人形遊びに付き合っていた。ジャンヌの方があとに生まれたはずなのに、精神年齢的には完全にジャンヌの方が上である。


 マサミチは立ち上がると、ジャンヌをそばに立たせ、その顔を見上げた。


「ジャンヌ、数年前は僕と同じくらいの背丈だったのに、今はずいぶん高くなったね」


 ジャンヌの身長は、もはや160センチを超えていた。今のジャンヌとほぼ同じ身長だ。


「まあね。どうやら、私は人間たちより成長速度がはやいらしい」

「そうみたい」


 そんな話をしていると、家の中から大きな物音が聞こえてきた。壁に強くぶつかったり、食器が壊れたりする音が聞こえた。それに、家全体が震えているようにすら見える。実際、震えていたのだ。


「ど、どうしたんだろう」


 マサミチの声が震える。


「近くにおいで」


 ジャンヌがそう言うと、マサミチはジャンヌのからだにぎゅっと掴まって、胸の下あたりに顔を埋めた。


 すぐさま、博士が放り出された。窓を割り、その体が庭へ飛び出してくる。


「パパ!」とマサミチ。

「博士!」とジャンヌ。

「く、来るな! 来るんじゃない」


 そう言う博士の元へ、一人の黒い影が現れる。アシレーヌだ。すでに変身しており、漆黒の羽毛をまとっている。


 くいしばった歯をむき出しにし、今にも博士に飛びかかってきそうだ。


 ジャンヌとマサミチは、一瞬目を合わせた。どうしてこういう状況になったのかは分からないが、ともかく、博士がアシレーヌにズタボロにされ、これ以上の暴力を受けそうなことだけは事実だ。


 マサミチは博士のところへ走って行った。ジャンヌは、アシレーヌの前に立ちはだかって、手のひらを見せた。


「まあまあ、落ち着きなって」

「ジャンヌ、そこをどけ!」

「何があったの?」

「トラブルよ」


 アシレーヌはジャンヌの肩を押しのけて、ぐんぐんと博士の方へ迫っていく。


「説明ヘタクソかよ」


 というジャンヌを無視するアシレーヌ。アシレーヌは胸下に生えている羽毛を抜いて、握りしめた。手の中の羽毛はぐんぐん伸びていき、柄の黒い剣へと変化した。これはアシレーヌの持つ特殊能力で、体毛を抜いて武器に変われと念じることで、剣を生成できるのである。


「パパ、あたしの体を元に戻して! でないとひき肉にするわよ」

「そ、それはできない。お前は凶暴過ぎる」

「ただいまの回答で、ひき肉決定!」


 アシレーヌが剣を振り上げた。本当に博士を真っ二つにするつもりだ。そばにいるマサミチも、巻き込まれる可能性大だ。止めなければ。


「ジャンヌ、変身!」


 ジャンヌは変身し、一気にアシレーヌに飛びかかった。相手の体に後ろから両腕をまわし、動きを止める。


「姉貴、てめえなんてことしてるんだ!」

「あたしの邪魔するんじゃないよ!」


 アシレーヌがひじ打ちをして、ジャンヌを突き離した。そして、ジャンヌの方を向いて剣を構えた。


「ジャンヌ、あなたも死にたいみたいね」

「本気で言っているみたいね。てめえ、博士も私も殺したら、孤独になっちゃうでしょ」

「ふんだ。別にいいもん。パパが何を考えているかは分かるわ。あたしが強すぎるから、あたしのこと、怖くなっちゃったんだ」

「はあ? 何の話だ?」


 アシレーヌは説明不要とばかりに、剣を振るってくる。風を切る音が響くほどの、猛スピードだ。ジャンヌは左右に避けながら、自らの胸下の羽毛を引き抜いた。


 そして、剣に変われと念じる。アシレーヌと同じ能力、体毛を剣に変える能力だ。純白の羽は、柄の白い剣へと変わった。二人の剣が交差する。

 交差した剣の向こうから顔を覗かせ、相手が高笑いする。


「ウフフ、アハハ! ちょうどいい! ジャンヌ、あなたを殺せるかどうか、試してみたかったのよ! ずっと前からね!」

「殺す、殺すって、てめえはそればっかりだな」

「あなたは違うの? ジャンヌ」

「私は守るために戦っているだけ」

「意味分かんない。戦うために戦うのよ。あたしたち姉妹はそのためだけに生み出された。パパだってきっとそう言うわ!」


 ジャンヌは何か言いたかった。アシレーヌの言っていることは、どういう意味なんだろう。戦うためだけに生み出されたの? だとしたら、寂しすぎる。けれど、何か言う前に、アシレーヌが切りかかってきた。


 剣でそれを振り払うジャンヌ。マサミチと博士の方を見ると、二人は手を取り合っているものの、博士はかなりボコボコにされていて、素早く走るのは難しそうだ。


「マサミチ、博士、できるだけ遠くへ行って!」


 マサミチは、「ありがとう、ジャンヌ!」と叫んで、博士の手を引っ張っていった。


「あら、あなたに他人の心配をしている暇があるのかしら」

「暇も何も、あの人たちが死んだら戦っている理由自体がなくなってしまう」

「あなたがあたしに負ける理由が分かったわ」

「アシレーヌ、聞いて。あんたを傷つけたくない」

「できないだけでしょ!」


 アシレーヌが剣を一閃する。避けきれない。ジャンヌの横腹が、音を立てて裂けた。緑色の血が、地面に垂れる。


「ぐっ!」


 痛みに声が出てしまう。こちらも、加減している余裕はない。

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