第16話 最終話 名前
ジャンヌは、マサミチを抱きかかえた。
「パパ、パパ! 嫌だ、離れたくない!」
叫ぶマサミチを抱えながら、ジャンヌは必死で走った。土煙の中を。この地下に、二人の家族が眠ることになった。ジャンヌは静かに念じた。姉さん、博士、さようなら。
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事件からしばらく経った。マサミチは、博士の姉に引き取られることになった。博士の姉は、既婚だが、若くして夫に先立たれたらしく、子どもがいないという。ジャンヌも少しだけ挨拶した。
ジャンヌとマサミチは、以前よく遊んだ庭に来ていた。博士と一緒に過ごした庭に。近くの研究室はほぼ倒壊し、まだ工事中だ。
「ジャンヌ、もう何もなくなっちゃった……」
マサミチはまだ、落ち込みから立ち直り切れてはいない。当たり前だ。ジャンヌですら、ショックを引きずっていないと言えば、嘘になる。
ジャンヌはしゃがみ込み、マサミチの肩に手を置いて、頬にキスをした。
「大丈夫。まだ君には、君自身がいる。君がいる限り、そこは君の居場所なんだから。すぐに立ち直らなくたって良い。それに、これもあるでしょ?」
ジャンヌは、あるものをマサミチの手に渡した。ひびの入った、オルゴールだ。
「これは……」
「瓦礫の中で、見つけたんだ。じゃあ私はもう行くよ」
「どこへ?」
「誰か、助けを求めている人のところへ。この力で誰かを助けられるなら、それが私の居場所だから」
ジャンヌは立ち上がった。
マサミチは頷いて、ジャンヌの顔を見上げた。
「あ、そうだ。ジャンヌ、ファーストネームがあった方が良いかなって思って、ずっと考えていたんだ」
「ファーストネーム? なるほどね、今は『ジャンヌ』だけだものね」
「ジャスティス、なんてどう。ジャンヌ・ジャスティス」
「ジャンヌ・ジャスティス。良いわね。語呂もなんだかしっくりくるわ」
変身したジャンヌが、翼を広げて飛び立った。純白の翼が一枚、マサミチの足元に舞い降りた。
――岩に串刺しの女 完――




