1話 決戦!邪神にとどめを!
おぞましく蠢く闇そのもの――。
この世界を覆う闇の元凶である邪神……!
ついにここまで追い詰めた。
「うおおおおおっ!!」
仲間の一人、戦士が攻撃するも、邪神にダメージを与えられない。
邪神の触手が鞭のように唸り、戦士を直撃。
パーティの治癒役、僧侶が治療に走る。
「くそっ!」
邪神の触手がハエを叩き落とす人間のように、乱雑に振るわれる。
俺は手に持った聖剣で辛うじて触手を退けるが……。
「ダイスケ、もうダメだ」
魔導士が、杖を地面に突き、泣き顔になっている。
邪神は想像以上に強く、ここまで有効打を当てられていない。
既に何時間戦っているかもわからない程の長期戦……。
心が折れる気持ちもわからなくはない。
だが、ここで諦めては、これまでの旅の意味は無に帰すだろう。
数カ月という短い期間ではあったが、俺たちは心を通わせ、互いに信頼し合い、ようやくここまでたどり着いたのだ。
しかし、このままではパーティが全滅……。
「まだ、まだだああああっ!!」
戦士が猛る。
彼を戦士たらしめる由緒正しき斧が、暴風を生み出し、邪神を切り裂く。
「やったか!?」
確認するまでもない、一時的に邪神の勢いが弱まっただけだ。
冗談じゃない、あと一歩なのに、諦めきれるわけがない!
「こうなったら、アレをやるしかない!」
「アレ!?」
「やるのか、アレを!!」
ここまで一回しか成功していない、とっておきの合技。
今ここで成功させなくては、何のために俺が勇者として異世界に召喚されたかわからない!
「みんな、頼む!」
二人に指示を送り、カバーに入る。
戦士には暫く無茶を強いることになるが、彼もそれは承知の上だ。
「準備できたよ!」
「始めてくれ!」
俺たちの行動に何かを察知したのか、邪神の触手がその数を増して迫って来る。
戦士と俺がお互いの武器で触手を斬り払う。
まず、この作戦は、魔導士と僧侶を守ることが肝要だからだ。
ここで失敗すれば、もう次はない。
「クリムゾン……フレアーーーーッッ!!」
魔導士の放った特大火球が、僧侶を襲う!
だが、これでいい!
「マジック・カウンターッ!」
僧侶のマジック・カウンターによって弾かれた火球が、戦士の元へ!
「頼んだぞ……ダイスケぇぇぇぇっっ!!」
斧から繰り出される暴風が火球の勢いを増す!
方向がいい! これなら成功する!!
「これで……終わりだぁぁぁっっ!!!!」
火球に聖剣の力をプラスする必殺の魔法剣。
あまりの火球の強さに聖剣が耐えられず半壊……!
だが、斬撃と一体化した火球は一直線に邪神へと向かい、直撃した!
「グォアアアアアアアア!!」
邪神の断末魔と共に、俺の身体を包む、青い光。
そして訪れる、静寂――――。
* * *
――異世界に憧れるかい?
多くの人はYesと答えるだろう。
今の自分や、今の世界に満足している人はきっと多くはない。
――異世界は素晴らしいところだと思うかい?
もしそう思っているなら、半分正解で、半分は外れだ。
戦闘でも内政でも何でも、チート能力があれば、そりゃあ楽しいかもしれない。
実際楽しかった事はある。
昔は自分だけ異世界に召喚されて、調子に乗っていた。
俺こそが選ばれた人間だ――とね。
多くの異世界を救った。
多くの人に感謝された。
だが……今にして思えば、召喚なんてロクでもない技術だ。
滅んでしまえばいい。そう願っているのに、決して召喚が止む事はない。
残念ながら、同様に召喚を経験した人に会った事もない。
おっと、自己紹介が遅れたな……。
俺は皇 大輔。
18歳。大学生。異世界転移の常連だ。
立派な名前だって? 俺の名前は大きく人助けするって意味らしい。
人助けだってさ。普通、人助けは自分の意思で行うものだろ。
でもな、どんなに嫌だと思っても、勝手に召喚されるんだよ。
どんなに居心地が良くても、その異世界に居つけないんだ。
召喚されれば、頼み事をされる。
それが人助けだっていうのなら、人助けは行ってるし、漠然と死にたくはないという気持ちはあるから、常に全力は出している。
6歳の時、初めて異世界に召喚されて以後、大体1年に1回召喚され続けてきた。
多いときは年に2.3回あることもある。
10歳になるまでは楽しくて仕方がなかったんだ。
学校を休み過ぎだと怒られても、親にどれだけ心配をかけても、異世界を救っていたのだから仕方ないと思ってた。
だが、10歳の時の異世界は……。
――あああ! 思い出したくもない。
転移はロクでもない、どうせなら転生させてくれればいいのに…。
やっぱり命を落としてないからダメなのか。
トラックに轢かれてみるか、工事現場で鉄骨が落ちるのを待つか、屋上から飛び降りてみるか。
……やめよう、一縷の望みに賭けて命を捨てられるほど、俺の覚悟は強くない。
――日本は平和だな……。
ぼーっと窓の外に広がる青い空を見る。
遠目で種類はよくわからないが、雀のような鳥が数羽飛んでいく。
講義中だというのに、よそ見をしている俺のモチベーションは極めて低い。
これで召喚さえなければ、俺もただの落ちこぼれ大学生なのに。
――あいつら元気かな。……。
召喚には送還がつきものだ。
送還条件を満たせば、どんな状況だろうと別れは一瞬。
前回の異世界から無事に帰ってこれたってことは、あの合技で邪神は倒せたってことなんだろう。
いいさ、異世界を救った俺は間違っていない。
間違って、いない……。
* * *
休憩時間になり、中庭に出た俺は、大学で一番大きな木の幹に体を預けた。
温かくなってきたとはいえ、まだ風が肌を刺すこの時期、わざわざ風通しの良い中庭に来る学生は少ない。
「よー、大輔」
少ない、と説明したばかりなのに、早速話しかけられてしまった。
気安く話しかけてきたこの男は、木村 頌路。
濃いめの茶髪に、整った顔、背丈もあるし、明るく朗らか。
なんでこんな大学にいるのかわからないぐらいの男だ。
黙っていればただのイケメンなんだが……。
黙っていればな。
だがこの男は、異世界に対して異常な情熱を燃やしている変態だ。
思えば、大学の入学式でこの男に絡まれたのは運命だったのかもしれない。
ふと話した異世界転移の話を興味津々に聞くばかりか、真に受け「俺も連れて行け!」とまで、のたまった。
本気か冗談かは正直わからない。
だが、それ以来よく頌路に絡まれてるし、俺がタメ口で話せるのは、家族とこの男ぐらいだ。
存外、頌路といるのは、嫌ではないのだろう。
だからこそ、この男と争う事になるような異世界には行きたくない。
「大輔が言うような異世界があるなら、オレも行ってみたいぜ~」
――異世界はな、ロクなもんじゃないぞ……。
頌路は俺にウザ絡みがしたかっただけだったようで、くるりと踵を返して校舎へ向かって行った。
初夏の風が木々を揺らし、俺の頬を優しく撫でる。
彼に続いて俺も校舎に戻ろうとしたところ…。
ふと体が青い光に包まれた。
突然の青い光。
もはや見慣れた光。
校舎へと消えていく頌路を見ながら、俺の思考は実に冷静だった。
――ああ、またか。