白
それは暑い夏の昼下がりのこと。
縁側に寝そべり、クレヨンと1枚の画用紙を並べる。
その2つだけで何でも生み出せそうだった。
好きな色を手に取り、思うままに世界を作っていく。
やんちゃに水色を塗りたくる。
楽しそうに赤を塗る。
少し慎重に黄を乗せる。
時に頬杖をつきつつ、何かを考えながら緑を重ねる。
風鈴がちりんと鳴る。世界に汗が落ちる。
気にせず彼は塗り進める。
やがて画用紙には、立派な空が映し出された。
堂々とした水色の空。元気そうな真っ赤の太陽。
下の方には細かく描かれた向日葵が咲いており、青々とした山がどっしりと構えていた。
しかし少年は不満げだ。
このB4サイズの空には、等身大の空と大きく異なる点がある。
雲だ。
夏の風物詩でもある大きな入道雲。
それを描き忘れていた。
クレヨンの箱をまさぐるが、白は入っていない。
「消しゴムで消せば良いじゃないか」
眺めていた父が言う。
しかし小さな絵描きは、それを良しとしなかった。
「いいんだ、これで」
彼は白を乗せることを諦めた。
画用紙の白は、白じゃないから。
空の上に白を乗せてこそ、それは雲になるのだから。