本当の目的……
夕食を食べた後、女性たちは風呂に入り始めた。
俺は一番早く食べて風呂に入ることで一人の時間を作ることができた。
そして、今は俺は一人で部屋にいた。
「ご主人様、怒っていますか?」
「別に怒ってはいないが、面倒なことになっているなと思っているだけだ」
クロノスが剣から飛び出してそう話しかけてきた。
「そう、ですよね。私の不備でこのようなことになってしまって申し訳ないです」
そう言って頭を下げる彼女は今までの行いを悔いている様子でもあった。
確かに彼女に問題がなかったわけではないだろう。最初からこうして堕精霊にでもなっていればもう少し未来は変わっていたのかもしれない。
しかし、人間の感情などを予測することは難しい。この問題に関しては議員の暴走に違いないのだからだ。
当然彼女が本当に悪いわけではなく、議会が悪いと言っていい。
「気にしない方がいい。起きてしまったことは仕方ないからな」
「そうですか?」
「ああ、これから何とかなればいいだろう。一度の失敗で全てが失われることなどほとんどない」
「確かにそうですね。これから議会を止めて正しき存在にしていきましょう」
そう言って意気込んだ彼女は少し自信が付いているようであった。
今まで全ての責任は自分にあると思い込んでいたのだろうな。そう言えばアンドレイアのことも自分が悪いと背負い込んでいた。
彼女は責任を感じやすい性格なのかもしれない。
「それより、一つ気になることがあるのだが……」
「何でしょうか」
「議会が企んでいることを教えてくれないか? さっきの会話で知っているそぶりだったからな」
「はい、知っていることは全てお話します」
そう言って彼女は俺のベッドに座り込んだ。
俺もその隣に座ると、剣からアンドレイアが少しムッとした表情で飛び出してきた。
「……二人でベッドに座るなど、何を考えておるのじゃ」
「あ、その……深い意味はないです」
アンドレイアの言葉に少し顔を赤くしたクロノスは俺の方を向いてそう何かを否定した。
そのようなことは俺も考えていなかったからな。アンドレイアの冷やかしだろう。
「気にしてないから話を進めてくれ」
熱くなった顔を手で仰ぐような仕草をしてからクロノスは話を進めた。
「まず、私たちは人類に対して精霊の能力を分け与えています。ただ、それは神樹の定めた掟の範囲内でのみでしか行うことができません」
そう、精霊が分け与えれる能力は限られている。聖剣であるのなら斬撃に関する能力だけしか強化されないのだ。
イレイラは刀身の質量をなくしているわけなのだが、ほとんどの聖剣は剣撃に能力が付与される。
そして、その言葉に続いてアンドレイアが話し始める。
「そこで、人間はこう考えたのじゃ。精霊の掟を破ればいいとな」
「その精霊の掟を破れば人間本体に力を分け与えることができるのです。しかし、それでは下位の精霊は存在力を維持することができなくなり、やがては消滅してしまいます」
精霊は神樹の加護があってこそ生きていくものと言っていた。神樹が下位の精霊も平等に存在力を分け与えている。
よって精霊は下位だろうと上位だろうと等しく生活できていた。
「なるほどな、上位の精霊だけが神樹の加護を受ければいいのではないか?」
「確かにそれができればいいのですが、話はそう簡単には行かないのです」
俺の言葉にクロノスは首を振った。
「本来であれば上位だろうと神樹の加護なしでは生きていけんのじゃ。わしらは上位の中でもかなりの最上位じゃから問題はないがの」
「そうなのです。私たちは精霊の中でも最上位の力を持っていますから加護がなくても存在力を維持することができます。しかし、ほとんどの精霊は維持することができません」
そう言えば堕精霊は多いが、魔剣が少ないことに気掛かりだった。
今日出会った堕精霊もいずれは存在力を失って消滅していく運命だったのだろうな。
「だから魔剣が少ないのか」
「そうですね。最上位の精霊だけが単体で生きていけるのです」
「それは議会は知っているのか?」
「知っていると思います。精霊が神樹から解放されることで精霊本来の力を引き出すことができる、それだけを狙った計画をしているのだとそう考えています」
精霊本来の力を引き出すことができれば、魔族と同等の力を得ることになるだろうな。
まぁ魔族はただ身体能力が高いだけなのだが。
「確かに精霊の命を考えないのならその方が効率がいいだろう」
犠牲なくして勝利なし、その犠牲となるのは精霊というわけか。
順調に進めば確かに魔族を超える軍を作り出すことができるはずだ。とは言っても精霊はいくらでも存在しているわけではない。数はまだ多いが、そのような扱いをしていてはいつか絶滅してしまうのではないだろうか。
「効率がいいのはそうなのじゃが、わしらとて数は限られておる」
「はい。これから生まれてくる精霊たちの中にも私たちのような最上位の精霊がいると思いますが、数はそこまで多くはないでしょう」
「それに、精霊は人間のように交尾で増えはせんからの。あまり数は減って欲しくはないのじゃ」
「なるほどな。なら人間も精霊も犠牲を少なくすればいい、ということだな」
俺がそういうと二人は本当にできるのかと言ったそんな目で俺の方を向いた。
「不可能ではないだろう。人類がその分強くなれば問題無いのだからな」
「人間が強くなる? どういうことじゃ?」
「簡単なことだ。剣術を磨く、それ以外はない」
人間は魔族のように身体能力は高くない。しかし技術を磨けばどこまでも強くはなれる。
それは今も昔も変わってはいない。
人間は戦いを通して強くなっていく必要があるのだからな。
「皆は能力ばかりを求めたがるがな。本当の力というものはそうではない。自分自身が積み上げてきた経験だ。それがあれば魔族だろうと張り合える」
すると、アンドレイアは驚いた表情をして「ふむ」と頷いた。
彼女は魔族侵攻のことを覚えている。そこまで強くはない聖剣で俺は千体を超える魔族を倒していたのだからな。
そのおかげで聖剣も大聖剣へと進化し、魔剣も手に入れることができた。
「そうですね。ご主人様がそうであるように、私たちも本当の力を得る必要がありますね」
「わしらも能力ばかりを気にしていたな。反省するべき点なのかもしれぬ」
二人は俺を挟んで目を合わせていた。
どうやら俺の言葉に何か影響を受けたようだ。
「どういうことだ?」
「いいえ、なんでもありませんよ」
「お主は今まで通り、わしらを道具として使っておくれ」
どこか抵抗のあるような言葉だが、確かに彼女らは道具である剣だ。
「いや、道具ではない。俺の一部だ」
「「っ!」」
二人は顔を真っ赤にして俺の方を向いた。
血の契約をしたんだ。俺の体の一部と表現して何か問題があるのだろうか。
「問題か?」
「……そうではありませんが、そう思っていただけて光栄です」
「お主も変わった口説き方をするものじゃの」
別に口説いているわけではない。
何か勘違いをされているような気もするが、今は気にしないでおこう。
「それにしても議会は何が目的なんだ?」
「急に話を戻すのじゃな?」
「話は終わったからな」
すると、アンドレイアはムッとした表情を浮かべていた。
「おそらくなのですが、現議会の本当の目的は人類の頂上化だと思います」
言葉を整理していたのか少し考えた後にクロノスが口を開いた。
人類の頂上化か。
全ての関係性において人類が最頂点にいる存在、そして人類の国家間での関係でも頂上化を狙っていると思っていいだろう。
精霊を使役することができれば、聖剣という軍事力を支配することができる。
そして、超人的な軍も作り出すこともできる。
そうすれば世界を支配することなど簡単なことだろうが、そんな力では意味のないことだ。
「意味のないことを考えているものだな」
「はい。その通りです」
「わしらで正す必要があるの」
そう言ってアンドレイアは腕を組み始めた。
これからは少し忙しくなりそうだ。
こんにちは、結坂有です。
戦闘がなく、会話ばかりの回となってしまいましたが、重要な回でした。
どうやら議会は最も強い権力が欲しいようですね。しかし、そんな権力だけでは無意味だとエレインは思っているようです。
権力とは強大なように見えて実は不安定な力なのです。
それでは次回もお楽しみに。
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