失われた計画
俺たちは団長の本体を探していたのだが、どこを探しても見つけることはできなかった。
直接話しておきたいことがあるからだ。
まぁ今すぐ話しておきたいことではないからな。また今度会ったときに話せばいいことだ。
「今度見つけたときに話しておくか」
「一番安全な場所にいると思いますからすぐには見つけることはできませんね」
すると、息を整えてセシルが俺の方を向いてきた。
「団長に話しておきたいことって何?」
「そこまで重要なことではないのだがな。議会と聖騎士団について確認したいことがあっただけだ」
「そう……あんまり仲は良くないって聞くしね」
俺は彼らの関係のことはあまり知らない。
知ったところで今の俺は学生のため、何かができると言うことはないだろうからな。
「それにしても本当に静かなものね」
団長を探し出した頃にはすでに分身たちは消えていたのだ。
どこかで戦っているような音が聞こえるわけでもなく、ただ風が建物の間を通り過ぎる音だけが聞こえている。
周囲には精霊の宿っていない剣だけが転がっているだけで、それ以外は何もなかった。
「私たちも帰りましょうか」
「そうだな」
それから俺たちは帰ることにした。
片付けのことは聖騎士団らに任せることにしよう。
自宅に戻ると、アレイシアが心配そうに俺たちの帰りを待っていた。
そして、俺の顔を見るなり嬉しそうな顔をした。
「エレイン、無事だったのね」
「ああ、別に大したことはしていないがな」
「それでもよかったわ」
そう言って胸を撫で下ろして安心した彼女はゆっくりと紅茶を飲み始めた。
湯気が立っていないことから冷たくなっているのだろう。
俺が帰ってくるまで落ち着いて飲むことができなかった証拠だ。
「アレイシア様、入れ直しましょうか?」
その様子を見ていたユレイナがアレイシアにそう声をかけるが、彼女は軽く首を振って断った。
「そこまでしなくていいわ。冷たくてもおいしいからね」
「……そうですか」
すると、俺の横に立っていたリーリアが前に出てアレイシアに話しかけた。
「団長のことについて何か知っているのですか?」
どこか真剣な顔で彼女はそう聞いた。
確かにアレイシアは団長について俺たちに話していないことがある。
無理に俺は聞き出すことはしなかったがな。
彼女の質問にアレイシアはゆっくりとカップを置いて、真っ直ぐな目で答えた。
「団長は議会を変えようとしているわ。そのためにこんな事件を起こしたとは考えられないけどね。でも議会が必死になって何かを始めようとしているのは確かだわ」
「議会が裏で何かをしていることは知っています。団長側は何かしているのですか?」
「工作員のような人を何人か議会に送り込んでいることまでは調べたんだけど、それ以上の情報はないわ。彼の考えていることがよくわからないし」
言われてみれば俺も団長の考えていることはよくわからないことがある。
裏で俺の情報をかき集めていることはリーリアから聞いたが、それ以外でも何か企んでいるのかもしれない。例えば議会を乗っ取るとか……
確定した情報ではないからそこまで考える必要はないか。
「……それにしても団長やろうとしていること、私たちはどうすればいいのでしょうか」
「わからないわ。とりあえず、エレインが無事に上位で卒業できることを考えましょう」
「はい」
実力的には俺が学院でも一位に匹敵するほどの力を持っているのは明らかだからな。
だが、何らかの妨害があれば上位での卒業も難しくなってくる。
少なくともあと二年は自由に動くことができないのだ。
「あの、エレインはどうして上位にこだわるのかしら?」
何も知らないセシルは二人の会話を聞いてそう疑問に思ったようだ。
「セシル、あなたはどうして聖騎士団に入りたいの?」
「私は父の意志を引き継ぐために入団したいのよ」
「エレインもセシルと同じく意志を引き継いで入団しようとしているわ」
言ってみればそれに近いことだ。
彼女は実父の意志、俺は帝国の意志だ。規模は違えど、同じことには違いない。
「そうなの?」
彼女は俺を見上げてそう聞いてきた。
「まぁざっくりと言えばそうだな」
「なら私たちは一緒なのね」
「……一体感を持って欲しくないから言っておくけど、エレインは渡さないからね」
アレイシアがちょっとムッとした表情でセシルにそう言った。
だが、セシルは俺のパートナーだ一体感を持って何が悪いというのだろうか。
「私はエレインのパートナーよ。学院に正式にそう登録されているから」
「それは学院の中だけよ」
「今は私のパートナー、そうだよね?」
そう言って俺の方を向いてくるセシルは少しだけ微笑んでいた。
策略の感じられる悪そうな笑みであったが、事実であることは変わりない。
俺はその笑みに対して小さく頷いた。
「っ! わ、私だってエレインのお義姉さんなんだからね!」
「姉は姉よ。それ以上でもそれ以下でもないかしら」
立場で言ってみればこの状況はセシルに軍配が上がる。
学院で正式に俺のパートナーであるセシルに対して、アレイシアは何もそれを否定することができない。
とは言ってもセシルもアレイシアに何も言えないのは確かだ。家族の関係に学院の関係と二人とも全く別々の関係だからな。
「まぁ、私と接している時間の方が長いわけだから、私の方が優勢ね」
「認めたくはないけれど、そうみたいだわ」
アレイシアはふんっとそっぽを向いてまた飲み始めた。
そして、彼女が冷えて渋味の強くなった紅茶に口を歪めていたように見えたのは気のせいだろうか。
◆◆◆
議会軍本部を襲撃してきた精霊撲滅隊はとりあえず制圧した。
私、ミリシアはユウナと一緒に団長が来るのを待っていた。
すると、ユウナがこちらを向いてきた。
「あの、一ついいですか?」
「何?」
少し言いづらそうに彼女は俯きながらゆっくりと口を開いた。
「ミリシアさんはどうしてそんなに強いのですか?」
「いきなりね。何かあったの?」
「何もないですよ。ただ少し気になっただけです」
そう言って水筒を取り出した彼女は少し自信がなくなっているようなそんな表情をした。
何もないと言っているが、それは嘘なのだろう。
「そうね。私も自分が強いとは思ってないの。でも、好きな人に少しでも近づきたいとそう思ったら自然と体が動くのよ」
「……それって恋の力、ですか?」
「そうなのかな。わからないけれど、その人のおかげで私は頑張れているって感じよ」
確かに私はエレインに対して恋愛的な感情を抱いている。
そして、それが原動力となって心身が動いているのは確かだ。ただそれが恋の力と呼べるものなのかはわからない。
「そうなんですね。少し意外でした」
「意外? どうして?」
「ミリシアさんはお強いから自分ばかり考えている人だと思っていたのですよ」
孤高の人と思われていたのだろうか。
私とて人間だ。もし最初から孤独だったらあの施設でここまで強くはなれなかった。
「私は最初から強かったわけではないわ。今もまだ弱いわけだし」
「全然、そんなことないですよ。こうして撲滅隊を一瞬で制圧できたのもミリシアさんのおかげですから」
「ええ、そうね。でもエレインならもっとうまくやれる。何なら一人で制圧できたのかも……そう考えると私は急に無力感に駆られるわ」
エレインは最強だ。
あの施設でどんな訓練を受けてきたのか、私は想像でしかない。
せいぜい私が難しいと思った訓練は張り巡らされた細い線に触れずに相手と戦うことだったりといくつもある。
しかし、彼は一つだけと言った。それは『完全感覚遮断戦闘』の訓練だそうだ。
私のグループではそんな訓練は行われていなかったが、彼のグループはそう言った訓練を行なっていたようだ。
ユウナも彼と同じグループで訓練を受けていたから似たようなことあったと言っていた。
もちろん、彼女は立つことすらできなかったと言っていたけどね。
「経緯はどうであれ、結果は同じですよね?」
「え?」
「だって、ミリシアさんでもエレイン様でも制圧できたわけなんですから」
確かに、私は聖騎士団の人たちをうまく使って制圧した。
エレインなら一人で堂々と戦って制圧したのかもしれないけれど、結果は同じだ。
「そうかもね」
「はい。ですから自分に自信を持ってください……って、私が言っても説得力ないですよね?」
「ふふっ、少し元気が出たからそんなことはないわ。お互い頑張りましょ」
「はい!」
そう元気よく彼女は頷いた。
すると、奥から団長がこちらに歩いてきた。
どうやら何かを情報を掴んできたようだ。
「二人とも、そこにいたのか」
「ええ、何かわかったの?」
私とユウナは立ち上がり、そう彼に聞いた。
「この二つの襲撃、計画的なものだったようだ」
「つまりは?」
「これは議会の自作自演だ」
そうはっきりと言った彼の目は明らかに怒りを含んでいた。
こんにちは、結坂有です。
何とか二つの襲撃を制圧することができたエレインたちと聖騎士団ですが、これが全て議会の自作自演だったとは驚きですね。
それに対して団長は激しく怒っている様子です。
果たして、これから議会はどうなってしまうのでしょうか。気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。
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