堕精霊たちの意志
今まで団長の分身らとともに行動していた俺たちは彼らとは別の方向に向かっていた。
もちろん、彼らと一緒に行動した方がすぐに敵を見つけることができるのだろうが、早期鎮圧はできないと思ったからだ。
それなら二手に分かれた方が効率がいいと考えた。
「エレイン様、奥から戦っている音が聞こえます」
「そうだな」
俺たちはその場所に向かう。
すると、そこでは影のように黒い分身と戦っている堕精霊がいた。
あの黒い分身は団長が大量に放っているもので、そこまで強くはないが展開できる数が多い。
「あれ、大剣よね」
セシルが指差した。
確かに大きい剣を持っている。しかし、その形状が少し奇妙だ。
普通大剣は真っ直ぐなものが多いのだが、あの堕精霊の持っているそれは先端に連れて曲がっているものであった。
『大剣だが、能力は斬撃と非常に危険な相手じゃの』
『ご主人様、冷静に相手の攻撃を見極めてください』
そう二人がアドバイスを送ってくれる。
確かに強烈な斬撃を得意としているようだが、それよりも剣の形状が気になる。
「とりあえず、倒した方が良さそうね」
「ああ」
そう言って俺とセシルは同時に走り出した。
リーリアはすぐに俺たちを援護できるように絶妙な距離を取って別の場所で待機してくれている。
その立ち回りは非常にありがたい。
彼女の魔剣の能力が発揮されるまでには少し時間がかかるそうだからな。今のように援護型の立ち回りが最善と言えよう。
「セシル、相手の左側から攻めろ」
「わかったわ」
そう彼女に指示し、俺は相手の正面に立った。
堕精霊は真っ先に俺へと攻撃を開始してきた。
右上からの振り下ろし、強力なその一撃はイレイラでは防ぐことは難しい。
それを俺は右方向へと避ける。そしてその隙をセシルが斬り込んでいく。
「へっ! 見えてんだぜ」
「っ!」
堕精霊がそういうとセシルの攻撃が弾き返された。
剣は動いていないのに左側からの攻撃を防いだのだ。
『ふむ、あいつは能力をうまく利用して振り下ろした斬撃の向きを変えたようじゃな』
なるほど、そんなことができるのか。
今はそんなに感心している場合ではない。相手をどう倒すかだけを考える必要があるな。
「お前ら、俺たちをどうするつもりなんだ?」
「どういうことだ?」
すると、堕精霊は急に話しかけてきた。
余裕そうな表情は変えないままで少し真面目な眼差しを俺とセシルに向けてくる。
「知っているんだろ。ここまで暴れている理由をな」
いや、俺たちは堕精霊たちが暴れている理由を知らない。もちろん、クロノスやアンドレイアは知っているのかもしれないがな。
「悪いが俺らは何も知らない」
「あ? どうなってんだよ」
俺がそういうと堕精霊は明らかに不機嫌そうな表情をした。
今まで戦っているのは俺たちがその真意を知っているからだと思っていたようだ。
「まぁいい。俺たちはただ暴れるだけだからよ!」
そう言って堕精霊は大きく振りかぶった。
斬撃の向きを変えると言っていたな。それなら……
「ふっ!」
「え?」
振り下ろす前に、斬撃が生み出される前に倒せばいいだけだ。
セシルがその一瞬の出来事に驚いている中、俺は堕精霊の腹部を斬り裂いていた。
「うぅ、ぐっ」
その傷が大きく響いているのか奇妙な形をした大剣を落として膝を突いた。
「さっきの話だが、何が目的だ?」
「人間を滅ぼす……そうすれば俺たちは自由なんだ」
「お前ら、精霊撲滅隊を殺す。それが俺たちの最後の使命だった」
すると、クロノスが焦った表情で剣から飛び出してきた。
「まさか……精霊解放計画のこと、ですか?」
「その声はクロノスだな。ああ、その通りだ。堕精霊となった俺たちも精霊の地位を守りたい気持ちは変わらねぇ」
「でしたら、どうしてこんなことをしたのですか?」
目の前の堕精霊はその言葉を聞くと、少し恥ずかしそうな表情で口を開いた。
「俺はお前みたいに頭は良くねぇ。こうして間違った計画を立てることだってある。だけどよ、守りてぇって気持ちはわからないんだ。魔族に居場所を奪われてから色々と考えてたんだからな」
そう言って懺悔をするように堕精霊は拳を地面に叩きつけた。
その思いは怒り、怨みを含んだ復讐心のようなものに違いない。
「……」
「俺たちが間違った計画で商店街を制圧しちまったことには違いねぇ。罰を受けるけど、俺たちの意思もクロノス、受け取ってくれねぇか?」
「わかりました。私たちが精霊の地位を守り、人間も守って見せます。魔族になんかは負けません」
「ああ、ありがとよ。俺たちの族長さんよ……」
そう言って堕精霊は膨大な光の粒子となり、消えていった。
そして、その光の粒子は俺の魔剣の方へと吸収されていく。
クロノスは消えていく堕精霊を見た後、俺の方へと向いた。
「ご主人様、私たち精霊の思いまで引き継いで欲しいとは言いません。ですが、少しでも配慮してくださると嬉しいです」
「それはお願いか?」
「いいえ、ご主人様の意向を最優先とします。ご主人様が精霊を倒したいと思うのなら、私たちもそれに従います」
その場合は自分の意志を押さえつけているということだ。
それに彼女ら精霊も俺と同じなのかもしれない。本来の居場所を奪われた身だからな。
「まぁ精霊にはいつも助けてもらっているからな。人間も精霊も守る」
「……ありがとうございます」
すると、彼女は満面の笑みでそう感謝を伝えた。
「ちょっと」
そのやりとりを見て、セシルが横から話しかけてきた。
「なんでしょうか?」
「あなたじゃないわ。エレインに用があるの」
「すみません。私の方ばかり見ていたもので……」
「っ!?」
そう言ってクスッと笑ったクロノスは魔剣の方へと戻った。
「それで、話はなんだ?」
「……さっきの話だと、ここの襲撃は間違いだったってことよね?」
「そうみたいだな」
「ちょっと悪いこと、しちゃったかな?」
少し悲しそうにセシルがそういう。
確かにそれだと彼らは無駄死にだったということになる。意志のない戦いで死んだことになるからだ。
ただ、間違いだったからと言ってやったことの罪は変わらない。
「別に俺たちはただ俺たちの仕事をしただけだ」
「そうだけど、ちょっと悲しいなって」
「世の中はそう単純じゃないってことだな」
「なんか一言で片付けられると腑に落ちないけど、そういうことなのね」
それよりも気になることがあった。
それはさっきの堕精霊が言っていた精霊撲滅隊のことだ。一体なんのことなのかはわからないが、この話はまたクロノスらと話してから聞くことにした方がいいだろう。
「エレイン様、無事に倒せたようですね」
少し離れた場所からリーリアがやってきた。
「ああ」
「それでは別の場所にも向かいましょうか」
それから俺たちは周囲の警戒を始めた。
どうやらさっきの堕精霊が最後だったようで、他はもういないようだった。
こんにちは、結坂有です。
堕精霊たちは勘違いで商店街を襲撃してしまったようです。
しかし、どうしてその勘違いが生まれてしまったのでしょうか。その原因についても気になるところですね。
さらに精霊統合化計画と開放化計画、それらがどう対立しているのかも気になります。
それでは次回もお楽しみに。
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