対立する思想たち
精霊撲滅隊と呼ばれる人たちが議会軍に入ってきてから、数分経った。
私とユウナは当然のように彼らから見つからないように逃げていた。
剣を引き抜いて戦うこともできたのだが、私はそうすることはしなかった。なぜならここで議会に楯突くことはあまり好ましい結果にはならないからだ。
逃げ出しているとヴェイスにも出会った。
彼も異変に気付き、私たちのところへと向かう途中だったようだ。
「ミリシア、やはりこれは異常事態なんだな」
「ええ、とりあえず議会軍本部は壊滅ね」
「精霊撲滅隊って一体何者なんだ?」
「わからないわ。とりあえず、ここを離れましょう」
それから私たちはここから離れることにした。
精霊撲滅隊が議会軍の中で敵対関係にある兵士たちと戦っている中、私たちは逃げることを選択した。
「お前ら、一体どこに行くんだ?」
当然、私たちが逃げ出したのは他に行くべき場所があるからだ。
「私の本当の目的、聖騎士団に正式に入隊することよ」
「それは高度剣術学院を卒業するしか……」
「もう一つあるわ。団長に直接認めてもらうことよ。私はそのために議会軍に来たの」
私がここに配属される表向きの理由として聖騎士団に入隊するに値するかという評価を得るためだ。
ここで功績を挙げれば団長に認めてもらい、入団できるという理由でここに来ていたのだ。
「……これから聖騎士団本部に向かうのか?」
「ええ、当然よ。私のいるべき場所は議会軍ではないのだから」
「俺はあの場所に戻る。彼らを援護しなければいけない」
そう言ってヴェイスは踵を返そうとした。
それを私が引き止める。
「これは完全に議会の暴走よ。議会に対抗できるのは聖騎士団だけ、わかってるの?」
「……」
ヴェイスは議会に対して忠誠を誓った模範的な軍人だ。
しかし、今の議会は彼の思った正しき存在ではない。
そんな議会は私たちに必要ないのだ。
「私もミリシアさんに賛成です」
「そうか。わかった」
彼は模範的な軍人、部下の話をしっかりと聞いてくれる理想的な隊長だ。
なぜこんな規模の小さい部隊に配属される事になったのかはわからない。
「では、本部に向かうわ」
それから私たちは聖騎士団本部に向かった。
警備の人たちは私の仮面を見るなり、すぐに道を開けてくれた。
そして、団長室へと私たちは向かっていく。
団長はすでにこの事態については把握しているはずだ。
「団長、大変な事になったわ」
私は扉を開けてすぐに彼にそう伝えた。
「ミリシア、いくらなんでも無礼過ぎるだろ」
「いいのだ。私と彼女とでは縁があるからな。それで、具体的には何があった」
私はそのまま団長の前まで歩く。
「精霊撲滅隊と呼ばれる人たちが議会軍を乗っ取ろうとしているの」
ありのままを団長に伝えた。
議会軍が荷物を運び出している時点で怪しかったのだ。
その精霊撲滅隊が乗っ取るための準備だったという事だ。当然、部外者の私たちが手伝おうとするのを断ったという事だろう。
「ただ、それにしても不思議な点がある。議会は今別の計画を進めているはずだ」
「おそらくだけど、議員の暴走よ」
「どういう事だ?」
ヴェイスが私と団長の話に入ってきた。
何も知らない彼からすれば今の話に少しだけ違和感を感じた事だろう。
しかし、私たちはその問いには答えない。
「ヴェイス、と言ったな」
「ああ」
「聖騎士団に入団する気はないか?」
団長がそう切り出すと、ヴェイスは明らかに動揺した。
一体どう言った理由があるのか、それが気になっているのだろう。
「……それは」
「今や議会軍は壊滅、お前に居場所などないだろう。もちろん功績などは知っている。戦力としても期待できるからこうして勧誘しているのだ」
彼は確かに優秀な軍人だった。団長が彼をスカウトするのは自然な事だと思う。
それに議会軍が無くなった今は彼に居場所などないはず、それならこの誘いに受ける他ない。
「どうしてこのタイミングで勧誘を?」
「事情が色々と変化したからな」
「……もう少し考えさせてくれ」
「ああ、十分に考えろ」
すると、団長は私に視線を戻して先程の話の続きを始めた。
「それにしても精霊解放化計画が始まったとはな。どちらにしろ、厄介なのには変わりない」
「こうなったら強硬手段に出るしか……」
「当然だ。俺たちの使命は精霊を維持し、魔族から守ることだ。それを脅かそうとしている議会など、もはや不要だ」
そう言って団長は立ち上がった。
立てかけてあった聖剣を携えて、彼は部屋から出ようとする。
そして、振り返りヴェイスに声をかける。
「お前がするべき使命はなんだ? 議会に忠誠を誓ったのはなぜだ? 今一度考えろ」
そう言って団長は扉を開けた。
私とユウナは彼に続いて部屋を出る事にした。
本部の廊下を静かに歩いている中、私は団長に声をかけた。
「あの人、どうするつもりなの」
「どうするも何も、入団してくれることを願っている。彼は議会軍で高い評価を受けていた。それに戦果も挙げている。何も問題はないだろう」
「あなたの独断で入団させることができるのなら、エレインはどうしてすぐに入団させられないのよ」
「俺自身の独断ではない。高度剣術学院を上位で卒業すれば、すぐに聖騎士団に入れるのだ。それ以外の方法は議会軍で戦果を挙げることしかない」
どうやら彼をこうして招くことができたのも、議会軍の戦果があってのことのようだ。
もちろん、エレインを議会がどう利用しようとしているのかはわかったものではない。それなら自由に動くことのできる聖騎士団に入ることは何も問題ではないということのようだ。
だが、一度でも議会軍に所属してしまった時点で私たち聖騎士団が彼を招くなど簡単ではないということだろう。
「他には議会軍から成り上がるしか方法はないのね」
「そういうことだ。俺の独断で決めることができるのは護衛騎士だけで、それ以外は無理だ」
団長の権限でも無理なものは無理なようだ。
もちろん押し切ることができるかもしれないが、そうすれば周りからの視線もあるからできないようだ。
団長ともなれば他からどう見られるかわからないことだ。
「それに議会軍で起きていることと同時に商店街も攻撃されているようだ」
「何それ、初耳だけど……」
「今伝えた。俺はその鎮圧に向かう」
「え、ちょっと、私たちは!」
「精霊撲滅隊の鎮圧、それしかないだろう」
そう言って団長は駆け出した。
「ユウナ、少し忙しくなるかも」
「はい。そのような感じがしますね」
そう言って私たちは他の聖騎士団の人たちと共に議会本部へと向かった。
こんにちは、結坂有です。
議会内でもいろいろな思惑があるように、団長にも思惑があります。
果たして本当に解決するのでしょうか。気になるところですね。
次は戦闘ばかりのシーンになりそうです。
それでは次回もお楽しみに。
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
感想などもTwitter等でコメントしてくれると励みになります。
Twitterではここで紹介しない情報やアンケート機能を使った企画なども考えていますので、フォローしてくれると助かります。
Twitter→@YuisakaYu




