議会のもう一つの思惑
放課後、人の居なくなった商店街を逃げ出した俺はすぐにアレイシアのところへと向かった。
アレイシアの家までは堕精霊も追ってきていなかったようで、どうやら商店街のあたりだけを狙った攻撃だったようだ。
何を目的なのかはわからないが、すでに何人か被害が出ているとなればこれは戦争だ。
「アレイシア様、こちらが商店街の様子になります」
モニターには先ほどの商店街の様子が映し出した。
「……閑散としてるわね。私たちのところにはまだ何も連絡が来ていないわ」
どうやらここには団長も議会の人も訪れていないようだ。
あの様子だとついさっきの出来事だったようだ。俺らが一番遅く下校したこともあって、ほとんどの生徒があの商店街にいなかったがな。
とはいえ、いつもなら日が沈んだとしても賑わいは残っているものだ。
「アレイシアのところにも来ていないとなれば、ついさっきの出来事だったんだろうな」
「相手は堕精霊、だったのね?」
「ああ、明らかにな。どうしてこうなったのかはわからないが、あの場所には相当数の堕精霊がいた」
俺が完全に消滅させた保存の能力を持った堕精霊以外にもかなりの数があの商店街にいたことになる。
しかし、奇妙なのが俺たち以外に人間の気配がしなかったことだ。
逃げ出したにしても一瞬過ぎる気がする。
「ユレイナ、聖騎士団に連絡してくれるかしら」
「はい」
そう言ってユレイナは奥の部屋へと向かった。どうやらそこで聖騎士団本部と連絡を取るようだ。
「それより、これからどうすればいいんだ?」
「とりあえず聖騎士団の連絡を待ちましょう。それで応援に駆けつけるかどうかを決めるわ」
確かにその方がいいだろう。
あの数は一人でどうにかできる数ではないからな。
すると、魔剣の中からクロノスが現れた。
「彼らは普通の精霊よりも強い立場にある精霊だったのです。存在力があるから堕精霊になった後でも生き残っているのです」
「……」
アレイシアはまだ慣れないのか急に現れたクロノスに動揺している。
しかし、話は聞いていたようで小さく頷いているのがわかった。
「存在力があるということはそれなりに能力も強力だということです。強い聖剣を持っていない剣士がどうにかなるものだとは思えません」
クロノスは下位の聖騎士団だけでは不十分だと言いたいそうだ。
それはその通りなのだが、強い聖騎士団はそこまで多くはない。それに魔剣を持っている人もそこまで多くないと聞く。
それなら今回は襲撃が収まるまで待機するしかない。
「でも人が多ければ戦力も強くなるわ」
「数だけでは不十分です」
彼女のいう通りだ。
人の数が増えれば確かに戦力としては上がる。
ただ戦いというものは数で押し切れる場合とそうでない場合がある。
「それはどういう……」
すると、黒い刀身からアンドレイアが飛び出してきた。
「雑魚がいくら集まったところで雑魚のままだと言っておる」
「っ!」
「初めてじゃったの。泥棒猫」
アレイシアの前で現れるのは今回が初めてだ。
クロノスが現れたことで自分も姿を現しても良いと思ったのだろうな。
だが、彼女はさらに動揺しただけだった。
「それにしても、エレインの精霊さんはいっぱいなのね。それに美少女だし」
なぜかアレイシアは俺の方を向いて少し睨みつけるように目を細めている。
「何か問題か?」
「別に……ライバルが多いなって」
一体何のライバルなのだろうか。
そんなことを考えていると奥からユレイナがやってきた。どうやら聖騎士団と連絡が取れたようだ。
「アレイシア様、先ほど騎士団の方達と連絡が取れました」
「どうだったの?」
「状況は確認できたとのことですので、すぐに現場の鎮圧を図るそうです」
普通の対応だろうな。
団長ならこうしても問題はないだろう。ただ不安なのが、どれほどの人が精霊に対して効力を持っているのかが疑問である。
「ただ、気になることがありまして」
「何?」
「議会との連絡が私も騎士団の方も取れないようです。何か悪いことでも起きているのかもしれないですね」
すると、クロノスが口を開いた。
「危険な状況ですね。アレイシアさんは精霊統合化計画について知っていますよね」
彼女がそういうとアレイシアは明らかに動揺した。
どうやら知っているようだ。
「ええ、でも私も父も反対派だったわ」
「知っています。それが今になって実行されようとしているのでしょう」
「それにしてはおかしくない? あの計画は精霊を使役するための目的だったはず……まさか、すでにいくつかの精霊を使役しているの?」
「堕精霊の中には神樹の力を借りずに生きるべきだと主張している者もいます。おそらくその思想を持った者が議会と組んだのでしょうね」
そう言って目を伏せて、推測するクロノスにアンドレイアが追加で説明を加えた。
「わしが堕精霊に堕ちたきっかけも議会内での対立が原因じゃ。まだ聖騎士団が発足して間もない頃の話じゃがな」
「確か十五年ほど前のことよね。確かに私の父はそのことで議会の人とよく対立していたわ。まだ子供の私でもそれには反対だったし」
聞けば精霊を奴隷のように扱うという計画だ。
本来、精霊とこの国の関係はともに共存関係にある。それを無視した計画のようだから当然だろう。
「どちらにしろ、お主らを巻き込んでしまったのはわしらのせいじゃ。許してくれないか」
そう言ってアンドレイアは俺とセシルの方を向いた。
「私もよくわからないけれど、別に怒ってるわけじゃないから。気にしないで」
そう言ってセシルは冷静に返答した。
確かに昔だろうが、今だろうが関係はない。今この事態が起きているというのは事実なのだからな。
「俺も同じだ。今も昔も対立は起こるものだろ」
「……そう言ってくれて嬉しいの」
「じゃ、私たちのやることは決まったわね。あまり手は組みたくはないけれど敵の敵は味方よ。聖騎士団の応援に行きましょう」
そう言って手を叩いたアレイシアに俺たちは頷いた。
◆◆◆
議会軍に今だけ所属している私、ミリシアはユウナと一緒に別のことをしていた。
「最近ですが、軍の動きが激しくなってきましたね」
そう彼女が呟く通り、昨日から移動であったり運搬であったりと色々と騒がしくなってきている。
私たちは全く何もしていない。何も命令を受けていないからだ。
何か手伝おうとしても断られるばかりで結局何をしているのかはわからない。
そんなことを思い返していると、外から怒号が聞こえてきた。
「話が違うではないか!」
「そんなことはない。お前たち軍の人間は議会の捨て駒なのだからな」
「ふざけている……」
「どっちのことだ? 上に逆らおうとしているお前らがふざけているのだ」
兵士の一人がどうやら議会の人と口論をしているようだ。
内容はよく掴めないのだが、どうやら捨て駒扱いしていることに不満を持った人がいたようだ。
確かにそのような扱いを受けては不満を持つのは当たり前だろう。
「精霊と人間、お互いに共存して生きていくのではないのか?」
「精霊が何もしないからこうして魔族が暴れているのだろう。そう思わないか?」
「いいえ、魔族は横暴な族だ。そんなことを考えている場合ではない」
「軍の人間は頭が悪いと聞くが、そのようだな」
「くっ!」
キャリィン!
剣が交える音が聞こえた。
「ユウナ!」
「はい」
私たちはそのまま部屋を飛び出した。
そこには議会の人間と思われる人と兵士の一人が剣を交えていた。
「議員は腰抜けと聞いていたのにな?」
「悪いが私とて軍あがりだ」
すると、議員の後ろから何人もの剣を持った人たちが集まってきた。
「今や議会軍は不要だ。我ら精霊撲滅隊が指揮を取る」
「っ!」
まずいことになった。
精霊統合化計画とはまた違うもう一つの危険な計画、精霊解放計画が今始まった。
こんにちは、結坂有です。
議会のもう一つの計画がついに始まってしまったようです。
実はそろそろと気付いていた方もいてたのではないのでしょうか。
これからは議会と聖騎士団の大戦が始まるようです。気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。
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