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戦場となった放課後

 色々あった夕食を終えた俺は自分の部屋に戻ることにした。

 風呂へと入るという選択もできたのだが、以前のこともあるからな。俺は少し時間をおいて入ることに決めた。

 それにしても今日の三人は積極的過ぎたような気がする。

 何が彼女たちをそうさせたのかは分からないが、何か心境に変化があったのだろう。


「お主よ。浮かれておるな?」

「何がだ」


 部屋の鍵を閉めた途端にアンドレイアが飛び出してきた。

 少し遅れてクロノスも現れる。


「ご主人様は大きい方がいいのですか?」

「……大きさが全てではないだろう」


 俺はそう言って反論するが、彼女たちはそれでも納得はしないようだ。


「どう考えても浮かれておったじゃろ」

「まぁそう思うのは勝手だがな」

「私たちにも魅力、はありますよ?」


 そう言ってクロノスが上目遣いで問いかけてくる。

 すると、アンドレイアが彼女が前に出るのを制止し、目を細めて俺の方を見た。


「お主、クロノスの誘惑に負けるでないぞ」

「アンドレイアさん、私はただ質問をしただけです」

「その目が誘惑していると言っておるのじゃ!」


 そう言ってアンドレイアは憤慨しているが、クロノスはそれがよく理解できていないようだった。

 それにしても二人がいるとなれば、これからはより騒がしくなるな。


「それよりだ。俺と契約していいのか?」


 俺は一つの疑問をクロノスに聞くことにした。

 彼女は俺のことを好きだと言ってくれていた。精霊が人間に対して一方的な感情を抱くことは掟によって禁止されている。それでも俺のことを求めて堕精霊へとなった。

 そこまでするメリットはあったのだろうか。


「はい。ご主人様は非常にお強い方です。私にとってそのようなお方の力になれることは本望ですから」

「我が主を奪おうなど盗人猛々しいわい」

「別に奪おうなどと考えていないです。みんなで協力すればご主人様はもっと強くなれるのですから」


 確かにアンドレイアの”加速”にクロノスの”減速”とどれも使い方次第では強力な能力になる。


「まぁその通りだな」

「私たちの力とその大聖剣イレイラを組み合わせればとてつもない技が作れると思います」

「できるじゃろな。未来予見などと言った荒技はもうしたくはないがの」


 少し聞いた限りだが、二人が普通の精霊だった頃に未来予見をして魔族の侵攻を予測していたそうだ。

 第二次魔族侵攻はそれによって防ぐことができたと聞いた。

 セルバン帝国を襲った第三次魔族侵攻はアンドレイアがいないため、それができなかったようだ。

 しかし、それでも直前に予見できたのは帝国がクロノスに向けてなんらかの合図を送ったからだと言われている。おそらくなのだが、機械仕掛けの剣が関係しているはずだ。


「どちらにしても速度に関する二つの能力を手に入れたわけだ。ただでさえ強力なのには変わりない」

「そうじゃの」

「はい」


 すると、クロノスは少し身を捩りながらアンドレイアの方を向いた。

 何か言おうとしても言えない、そんなモヤモヤを抱えているような感じだ。


「クロノス、何か言いたいことでもあるのかの?」


 そんな彼女を見て、アンドレイアは口を開いた。


「アンドレイア、さん。私を許してはくれないでしょうか」

「……許すわけがなかろう。じゃが、かつての親友として信頼はしておる」


 そういうとクロノスは真っ直ぐ彼女の目を見た。


「信頼ですか?」

「うむ。過去のことは過去のことじゃ、これからは新たな未来を作っていくのじゃろ?」

「……はい。その通りです」


 そう言ってクロノスは溜まった涙を拭った。


「泣いておるのか?」

「……堕精霊(せいれい)は涙を流しませんっ」


 そう茶化すようにアンドレイアが言うと、クロノスもそう弱々しくも断言した。その時の彼女は頬を緩めて笑みを浮かべていた。

 どちらにしろアンドレイアは彼女本人に対して怒っていたわけではない。行為に対して怒っただけなのだ。


「無事に仲直りできたのならよかった」

「……約束は果たしました」


 そう言って爽やかな笑みを浮かべた彼女はどこか幸せそうでもあった。

 親友を取り戻すことができたと言う安心感とでも言ったところだろうな。




 翌日、俺は普通に学院に向かった。

 変わった剣は学院に一度見せることですぐに許可が下りた。

 聖剣でも剣の形が変わることがよくあるそうだ。柄や鍔の部分は特に持ち主によって調整されたりするものだからだ。

 俺の剣も刀身はほとんど変わっていなかったことだしな。


 その様子を後ろで見守っていたのはリーリアの他にセシルもいた。


「無事に許可が下りたのね」

「ああ、刀身が以前と同じだからな」

「それにしても変わった柄ね」

「そう言うセシルも少し変わっているようだがな」


 彼女も精霊と深く契約を結んだわけだ。

 二本の聖剣の柄に彫られていた模様が前にも増して光っているように見えた。


「ええ、けれどあなたみたいに外見が大きく変わったわけではないわ」

「確かにな」


 それから俺たちは教室に向かった。




 授業も無事に終え、放課後。

 俺たちは練習をしていたため少し遅くなっていた。

 すでに日は沈みかけており、辺りが薄暗くなっている。


「日は沈んできたのにまだ暑いわね」


 学院に入って二ヶ月、六月のこの季節は確かに夕方になっても暑さが残っている。


「そうだな」

「……」


 セシルが服装を正そうとしているのか襟元をつまんでいた。

 すると、彼女は少し赤面してこちらを向いてきた。


「どうした?」

「私、汗とか大丈夫かしら」

「別に気にしていない」

「気にしてないって臭ってるの?」


 セシルから漂ってくるのは汗臭さよりかはシャンプーなどの甘い香りだ。

 放課後になった今も香りが続いているのは不思議なのだが、臭いわけではない。


「いや、いい匂いのままだ」

「……変態」

「何がだ?」

「エレイン様も香りがお好きなのですか?」


 一連のやり取りを聞いていたリーリアが俺の方を向いてそう疑問を投げかけてきた。


「別に匂いが好きと言うわけではない。シャンプーの香りがまだ続いているなと思っただけだ」

「そうなのね。少しびっくりしたわ」


 俺がそう言うとすぐにセシルはそうほっと胸を撫で下ろした。


「それより、リーリア。エレインもって言ったわよね」

「……知りません」

「リーリアはエレインの匂いとか好きなの?」

「お教えできません」


 彼女はそれ以上答えることはしなかった。

 まぁ彼女が何を好きでいようが、問題はないのだがな。


 それから商店街へと入っていくと、いつもと違う気配を感じた。セシルやリーリアもこの異変にすぐ気付いた。


「いつもより、人が少ないわね」

「いや、人がいないようだな」


 周りの建物から人の心音すら感じない。

 と言うことは人がいないのだ。正確には生きている人がいない、か。


「奇妙ね」


 すると、上方から何者かが大剣を振り下ろしてきた。


「っ!」


 それにすぐ反応したセシルは躱すことに成功した。

 俺はイレイラを引き抜いて、臨戦態勢に入る。


「また会ったな」


 議会を襲撃してきた大柄な堕精霊の男だ。


「へっ」

「この一帯をどうしたんだ?」

「しらねぇな。少し暴れたらみんな逃げ出したんだ」


 どうやらこいつが暴れたせいで商店街の人が逃げたようだ。

 彼の持っている大剣には血の跡がある。どうやら人間を何人か斬った後なのだろう。


「そうか。悪いが、これ以上死者を出すわけにはいかない」


 セシルもリーリアも剣を引き抜いて周囲を警戒している。

 彼以外に潜んでいる可能性があるからな。

 精霊や堕精霊は厳密には生物ではない。そのため心臓がなく心音などが発生しない。

 そのため空気の流れや目視でしか知覚できない。


『厄介な相手です。私の力をお使いください』


 そう脳内に話しかけてきたのはクロノスだ。

 確かに減速の能力を使えば、彼に保存の能力を使わせずに倒すことができるからな。


「ふっ!」


 俺は腰後方にある魔剣の柄に取り付けられた引き金を引いた。

 すると、カリカリッと歯車が回る音がして周囲の時間の流れが遅くなった。

 イレイラで動きが鈍くなった目の前の堕精霊を斬りつけると、すぐに時間の流れが戻った。


「なっ!」

「二度はない」


 そう言って俺はイレイラで男の魔剣を破壊した。

 そして、存在力すらも吸収し彼は完全に消滅していった。

 彼が消滅したと同時に周囲から堕精霊と思われる精霊が何体も出現してきた。


「エレイン様! こちらへ!」

「ああ」


 一旦ここは引く方がいいだろう。

 全てを相手にすることはできるかもしれないが、リーリアやセシルにまで意識を向けることができないからな。

 それから俺たちは商店街から逃げることにした。

こんにちは、結坂有です。


新たに手に入れた減速と言う能力をエレインは初めて使いました。

周囲の時間の流れが遅くなる、非常に強力な能力ですね。それ以外にも能力の使い道があるようですが、それはまたの機会に……

それにしても堕精霊がなぜ商店街を襲ったのでしょうか。気になるところです。


それでは次回もお楽しみに。



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― 新着の感想 ―
[一言] エレインだけ遅くならないのは、ちょっと強すぎるなー(^^)それとも自分には加速を使ったのかな? それならまー、能力としてはギリギリあり(^^)…とか思います。
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