新たな魔剣
クロノスと新たに契約を結んだ俺はまた血液を多く失った。
とはいえ、すぐに血液に生産能力をアンドレイアの能力で加速させたおかげで貧血になることはなかった。
それから俺は精霊の泉を出て、外で周囲の警戒をしてくれていたリーリアと合流した。
「エレイン様、大丈夫ですか?」
「ああ、血液を多く失ったが問題はない」
「それならいいのですけど……」
そう言って彼女は俺の腰後方にある魔剣を見た。
「あの機械仕掛けの柄に取り替えたのですね」
「取り替えれるようになっていてな。それでこんな形になってしまった」
「前も変わった剣でしたが、今の剣はかなり変わっています」
確かに以前と比べてさらに異様さが増している。
柄の部分には引き金のような物が取り付けられており、鍔には小さく時計のような物が埋め込まれているのだ。
誰が見てもこの剣は普通ではないということがわかる。
「そうだな」
「……それでもエレイン様はお強いのですから、不思議です」
そう言ってリーリアは俺の目をじっと見つめている。
それは尊敬の眼差しだ。いや、それ以外の感情も混じっているのかもしれないが、俺には読み取ることができなかった。
「とりあえず、帰るとするか」
「はい、夕食は鉄分を多く取れる料理にしましょう」
彼女はどこか嬉しそうに歩き出した。
俺もそれに釣られるように歩くことにした。
そうして家に戻ると、アレイシアたち以外の知らない人らが家に入っていることに気付いた。
「誰かいるな」
「そのようですね。とりあえず、開けてみましょう」
そう言ってリーリアが玄関の扉を開くと、そこにはスーツを着た人たちが集まっていた。
「エレイン、何も話してはダメよ」
「これはこれは、元英雄のエレインではないか」
柔らかい表情で俺を見つめてくる男はいかにも怪しい人間であると直感で分かった。
すると、リーリアがその男から俺を守るように前に出た。
「ザエラ議長、何が目的なのですか」
どうやら目の前の男性は議会の議長のようだ。以前、写真で見た人物と違うため新しく変わったのだろうか。
どちらにしろ、警戒しなければいけない相手なのには変わりないがな。
「ただ、奪われた剣を返していただきたくてな。その剣には精霊族の族長、クロノスが宿る予定なのだ」
「それならすでに済ませた」
俺はそう言って魔剣を取り出して彼に見せた。
「なっ」
「何か問題があったか?」
「刀身が黒い……何をした?」
先ほどの余裕そうな表情は今はなく、非常に焦った表情をしていた。
彼の護衛の人も額に薄らと汗が滲んでいることから、彼らにとって俺がこの剣を持ったことがそれほど想定外なことだったようだな。
「粗末な刀身だったからな。俺の魔剣と融合させた」
「魔剣と融合など、あの族長が許すわけが……っ!」
すると、俺の魔剣から美しい光とともに一人の少女が飛び出してきた。
「私がクロノスです。あなたとは一度お会いしたことがありますよね」
「ぞ、族長!」
「いいえ、今の私は堕精霊となりました。族長ではありません」
「エレイン、一体何を!」
すると、鋭い目で議長は俺を睨み付けてきた。
しかし俺は本当に何もしていない。ただ機械仕掛けの剣を奪っただけだ。
「俺は何もしていない」
「はい、私は主人に対して一方的な好意を持っています。もし、あなたたちが主人に傷つけるようなことがあれば、私が許しません」
クロノスは強い語気でそう断言した。
どうやら議長であるザエラも精霊とこうして会話をしたことがないようで、目を合わせようとはしなかった。
「くっ……」
「何か悪いことでもあったか?」
「聖剣の違法所持、貴様は未登録の聖剣をっ!」
すると、リーリアが広く開いていたスカートの中から魔剣である双剣を取り出した。
「聖剣の登録は義務付けられていますが、存在が曖昧な魔剣の登録は義務ではありません。議会の権力は法律によって制限されていますよ」
そう、彼女のいう通り魔剣の登録は義務ではない。俺の魔剣も登録はしていない。
ただ大聖剣イレイラに関しては元々アレイシアの聖剣であったために、受継ぎで登録したことを覚えている。
「議長、彼女は公正騎士です」
「……」
「それに犯罪を犯しているのはどちらの方でしょうか」
リーリアはザエラ議長に追い討ちをかけるようにそう睨みつけた。
しばらく彼女は議長と目を合わせていたが、議長が先に目を逸らした。
「ここは引くとする」
そう言って俺の横を通り過ぎるように彼は家から出て行った。
それを目で追って危険がないと判断したクロノスはすぐに魔剣の中へと入って行った。
「エレイン……」
一連の出来事に口を開けて見ていただけのアレイシアは俺にそう話しかけた。
「すまないな。色々と巻き込んでしまって」
「いいのよ。私も議会と対立している立場だから」
彼女は首を振って俺の言葉を否定する。
聞いた話だと、フラドレッド家は第二の議会と呼ばれるほどの強力な存在だと聞いている。それなら対立することがあっても不思議ではない。
「それよりもエレイン、その剣は一体?」
「ああ、これは魔剣だ」
それから俺はアレイシアにこの魔剣のことについて説明することにした。
リビングで俺とアレイシアは椅子に座って夕食が出来上がるのを待っていた。
スープのいい匂いと肉を香ばしいタレで焼いた匂いがリビングの方へと漂ってくる。
「……その魔剣、エレインのことが好きなんだ」
「彼女たちはそう言っているな」
この魔剣に入っているアンドレイアとクロノスは俺のことが好きだと言っている。
「本当にエレインってモテるわね」
「モテる、か?」
「私も好きだし……って今のは無しっ!」
無意識に呟いたその言葉に彼女は赤面して否定した。
「まぁ別に悪いことをする堕精霊ではないから問題はないだろう」
「でも、私たちからすれば問題よ」
そう言って彼女は頬を膨らませた。
すると、奥からユレイナが美味しそうな肉料理を持ってきていたずら顔で口を開いた。
「アレイシア様は素直ではないのですよ」
「す、素直って何よ」
「こういうことです」
「っ!」
そう言ってユレイナは小さくとも確かに弾力のあるその胸を俺の肩に押し当てて料理をテーブルに置いた。
「ちょっと、何をしてるの!」
「ご主人様に料理をお渡ししただけですが?」
彼女はアレイシアにそう挑発するような視線を送った後、厨房の方へと向かって行った。
「エレイン、こっちに来なさい」
「どうした?」
「いいからっ」
そう言って彼女は俺を引っ張るとその豊満な胸に俺の顔を押し付けた。
「ん!」
「こっちの方が大きいでしょ?」
「……」
強く押し付けられているために、俺は声を出すことができない。
「何をしているのですか?」
すると、スープを持ってきてくれたリーリアが俺たちの方を死んだ魚のような目で見つめている。
「ただのスキンシップよ」
「エレイン様はそのようなスキンシップは求めていません。離してあげてはどうですか」
カタンッと強くスープをテーブルに置いた彼女はその光を失った目でアレイシアと俺を睨みつける。
正直、その表情は怖いの一言でしか表現できない。
「ふんっ、リーリアはずっと一緒でしょ。これぐらいは……リーリア?」
「私のエレイン様を返してください」
そう言ってリーリアはアレイシアごと抱きついてきた。
大きな胸にサンドされた俺は窒息寸前であった。
ただ、携えている二本の剣が大きく震えていることだけが感覚として残っていた。
こんにちは、結坂有です。
どうやら議会にとってクロノスがエレインの剣に宿ったことがそれほどに予想外のことだったのでしょう。
ただ、クロノスにとっては昔からこうなることを望んでいたようですが……
これから新たな魔剣はどんな活躍を見せてくれるのでしょうか、気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。
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