深まる対立
病院から帰ってきた俺たちはすぐに夕食にすることにした。
アレイシアは長距離を歩いたことで少し疲れており、すぐに椅子に座った。
「アレイシア様、足は大丈夫そうですか?」
「ええ、少し疲れただけだから」
「そうですか。私はすぐに夕食の準備をしますね」
そう言ってリーリアは厨房の方へと向かって、夕食の準備に取り掛かった。
昼間の間に買ってきた食材を冷蔵庫から取り出し、手際よく料理を進めている。
「ねぇエレイン」
「どうした」
椅子に座ったアレイシアが俺の方に向いて少し真剣そうな表情で見つめてくる。
「襲ってきたのは精霊だったの。どうして私たちを襲ってきたのかわかる?」
「いや、俺もそこまで詳しくは知らない」
族長クロノスからある程度は聞いているが、詳しい内容までは知らない。だが、明らかに俺たちの脅威になりつつあるということだけは知っている。
そして、彼らに対する対処法も知っている。
どうやらアレイシアやユレイナもある程度は理解していたようだしな。
だから、二人で対処できたのだろう。
「そうなんだ。エレインなら賢いからすぐわかると思ったのだけど……」
「俺はここにきて一年半ほどだ。まだ理解できていないことの方が多い」
ここで生きている期間的に見ても俺はまだ知らないことの方が多いのだ。学院の授業以外でもセシルやリーリアから色々とこの国のことを教えてもらっているからそれなりに追い付いてきていると思っているが、まだまだだろうな。
「さすがにそうだよね。精霊と私たちの関係とかまだ知らないよね」
確かにこの国は精霊と共存関係にあると聞いている。しかし、どう言ったところで共存関係なのかは聞いたこともない。
「ああ、知らないことだらけだ」
「……エレインってさ、セルバン帝国でどう言ったことを勉強していたの?」
「主に剣術のことや魔族のことだが、一般的な教養に関しても多く教え込まれていた」
「そっか」
そう言ってアレイシアは俯いて何かを考え始めた。
まぁ俺たちに教え込まれていることなど、そこまで重要なことではないだろうな。
あの国の技術力は確かにすごい。だが、俺はそんなことを学んだことはない。素晴らしい剣術の数々を学ぶことができたとはいえ、帝国の技術力を理解できるほどの知識を得ることはできなかった。
「聞きたいことはそれだけか?」
「この国についてどこまで知っているのかなと思ったのだけよ」
そんな会話をしていると、厨房の方からリーリアが声をかけてきた。
「もうすぐ出来上がりますよ」
どうやら夕食の準備ができるようだ。
心地よいまな板の音はしなくなり、盛り付けの段階に入っているのだろうな。
それからしばらくすると、リーリアがいくつかの皿を持ってリビングへとやってきた。
「今日はサラダとスープになります」
この二つの料理はリーリアが得意としている料理だ。
どちらもシンプルながらも食材が活かされており、健康的な料理となっている。もちろんユレイナも料理がうまいのだが、彼女は肉料理が得意なようだ。
どちらも健康的で体力も付く料理を作ってくれているのだ。
そのためか、アレイシアも俺も体の調子は毎日良好だ。
「毎日美味しい料理、ありがとね」
「いいえ、エレイン様のためでもありますから」
「……私も料理、しないとね」
そう言ってアレイシアは何やら対抗心を燃やしていたのであった。
翌日、昼過ぎにユレイナが帰ってきた。
集中治療を終え、血液量も安定してきたことで早期退院することができたようだ。
「昨日はありがとうございました」
「私の方こそ、助けてもらったわけだし……」
「エレイン様も私を運んでいただきありがとうございました」
「別に気にすることではない」
アレイシアから聞いたところ、不意打ちだったようだからな。
それをよく気づき、彼女を守ったものだ。
「私の鍛錬不足でもあります。これからも精進したいと考えています」
「その意気込みはいいのだが、頑張りすぎも良くはないよ?」
まぁこの先、アレイシアが狙われないという保証はないからな。ユレイナには強くなってもらって問題はないと思う。
「いいえ、頑張りたいのです。エレイン様、今度お手合わせをお願いしたいのですけど、よろしいでしょうか」
「ああ、俺で良ければ大丈夫だ」
「ありがとうございます」
そう言って、ユレイナは丁寧に頭を下げた。
「ユレイナ、くれぐれも体には気をつけてね? 怪我だってまだ完治しているわけではないんだから」
「今まで訓練をしてこなかったのです。少しは頑張らないといけません」
すると、彼女は腰の剣に手を添えた。
昨日の一件で、彼女は自分の実力不足を感じたのだろうな。
それにしても彼女とは一度も一緒に戦ったことはない。彼女の実力も気になるところだ。
「まぁゆっくりでいいからな」
俺がそう彼女にいうとリーリアが手を叩いた。
「ユレイナも帰ってきたことですし、昼食にしましょう」
「そうだな」
そう言ってリーリアが厨房の方へと歩いていくとユレイナも剣を置いて、彼女の後についていこうとする。
「私もお手伝いを……」
「ユレイナは大丈夫ですよ。まだ怪我が治っていないのですから。サンドイッチなので一人で十分です」
サンドイッチか、確か好きなものだったな。
アレイシアも好きだが、ユレイナもかなり好きだと聞いたことがある。
退院祝いのようなものだろうな。
それから昼食を食べた俺は部屋で一人でゆっくりとしていた。
すると、何やら気配のようなものを感じた。
『また来よったの』
アンドレイアからそう言った声が聞こえた。
以前にも感じたことのあるこの気配はやはりクロノスのもののようだ。
「お久しぶりです。エレイン」
光の中から一人の少女が出てきた。
美しい髪をした少女はクロノス、精霊族の族長だ。
「急にどうしたんだ?」
「あまり良くない情報です」
俺がそう聞くと、彼女は深刻そうな表情をして俺の目を見つめてくる。
「言ってみろ」
「議会に動きがありました。そして、精霊の掟を破った堕精霊もそれに参加しているようです」
「なるほどな」
「聖騎士団団長も色々と動いてくれていますが、それでも止めることはできないようです」
そう彼女がいうと、アンドレイアが剣から飛び出してきた。
「我が主は人間じゃ、人間の命は一つしかない。それはわかっておるじゃろ?」
「……はい」
「主とて死ぬときが来るのじゃよ」
「アンドレイア、俺の心配をしている場合ではない」
「……」
俺のことを心配しての発言だ。
嬉しいのだが、するべきことには変わりないのだ。
「それで、俺は何をすればいい?」
「まずは堕精霊の鎮圧をお願いしたいです。あとは団長が議会軍の相手をしてくれると思います」
「わかった」
「……」
俺がそう返事をすると、彼女は少し言いづらそうに顔を背けた。
「まだ何か言いたいことがあるのか?」
「いえ、これは私の問題ですので」
「別に気にすることはない。言ってみろ」
すると、彼女は地面に足をつけてゆっくりと俺に近づいてくる。
その色気を含んだ美しい顔が俺の耳元をくすぐる。
「私の器を取り戻してほしい、です」
「クロノス、わしの主に何を!」
「場所は『714』倉庫です」
「わかった」
「それでは健闘を祈っています」
そう耳元で小さく囁くように言って彼女は光の中へと消えて行った。
「主、クロノスの色仕掛けは無視するが良い」
「まぁそれができればの話だがな」
「……」
クロノスの器、つまりは聖剣ということだろう。
中身のない聖剣を取り戻すなど、俺でなくとも手にすることができる。何も難しいことではない。
こんにちは、結坂有です。
エレインは議会軍と聖騎士団、そして堕精霊たちとも戦うことになりそうですね。
果たして、その全てに打ち勝つことができるのでしょうか。
そして、クロノスの聖剣についても気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。
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