崩れた議会
私、ミリシアが向かったのは議会軍であった。
ここでするべきことはただ一つ、精霊統合化計画の妨害だ。
運よくことが運べば阻止することもできる。
ただ、無茶はしてはいけない。あくまで妨害が主体なのだからだ。
「……その仮面は外せないのか?」
「……」
警備の人に止められて数分、私は全力で団長の手紙を差し出しているのだが一向に警備の人は受け取ろうとはしない。
すると、奥から一人の男性が出てきた。
「どうした?」
「怪しい人が手紙を差し出してまして」
「これは?」
すると、その男性は私から手紙を取るとすぐに中身を確認した。
「聖騎士団団長からの手紙だ。そこの……仮面の女、こっちに来なさい」
「しかし、彼女は得体の知れない人ですよ」
「得体の知れない人? 聖騎士団の人だろう。なら招き入れない理由はない」
そう言って彼は私に手招きをした。
それからしばらく歩いていると大きな建物のある場所へと招き入れられた。
ここはどうやら兵舎の横に設置されている来客用の建物のようで、そこで私はソファに座っていた。
「なるほどな」
目の前の男性は手紙をたたみ、私の方へ向いた。
「団長から派遣されてきたみたいだが、見たところ聖剣を持っているように見える」
「……」
「まぁ話すことができないようだからな。もし自分が強いと自負しているのなら頷いて見せてくれ」
私は軽く頷いて見せた。
少なくとも下位の聖騎士団よりも強いという自信はある。
エレインや団長ほどではなくても私は強いはずだ。
「……そうか」
それから彼は少し考えてから口を開いた。
「ここにしばらくいるつもりなら、兵舎を案内しようか」
そう言って彼は立ち上がると、兵舎へと私を連れて行った。
兵舎の中は広々としており、議会軍の兵士たちもここに不満を持っている印象はなかった。
それどころか聖騎士団本部よりも設備が充実していることに驚きだ。
議会軍の資金が豊富だということはこれを見てよくわかる。
まぁ議会が資金を調達しているのだから当然ではある。
「そして、ここが君の寝泊まりする場所だ」
そうして最後に案内されたのは兵舎の空き部屋であった。
「急な入隊もあるからな。こうして幾つかは空きの部屋を作っている」
彼は私にこの部屋の鍵を渡してタンスを開けた。
「議会軍の制服だ。全サイズがこのタンスに入っている」
大から小までの様々なサイズの制服がタンスにしまってある。
急な入隊に備えてこうした予備も用意しているのだろう。
「紹介が遅れたな。俺がこの議会軍の第四聖剣部隊隊長のヴェイスだ。よろしくな」
「……」
私は無言で挨拶をした。
「団長の手紙に書かれていたが、君の名前はミリシア、でいいか?」
「……」
エレインにバレないかと色々と不安が過ぎったが、私は頷いて見せた。
別に彼にバレたからと言って何か弊害があるわけでもない。それにいつかは気付くのだ。
「では、ミリシア。明日には任務があるからそれまでゆっくりと休むといい」
そう言って彼は部屋から出た。
「はぁ」
少し緊張していたために小さなため息を吐いた。
しばらくこの部屋を調べてみたが、監視カメラのようなものはなく壁も軽く叩いてみたが反響している箇所もない。
ここはどうやら完全に個室となっている。
長時間この仮面を着けていると顔が蒸れて暑い。
すぐにでも外したいところだ。
そう仮面を外そうとした途端、扉をノックされた。
「ヴェイスだ」
まだ伝え切れていないことがあったのだろうか。
私は外しかけていた仮面の留め具を戻して部屋の扉を開けた。
「知っているか分からないが、第四聖剣部隊は一度解散になっていてな。俺を含めて三人しかいないんだ」
「……」
「特に目立った任務はないと思うが、よろしく」
そう言ってヴェイスは扉を閉めた。
三人の部隊か。
逆に自由が効くから便利な存在と言える。それにしてももう一人はどんな人なのだろうか。
そんな答えの出ない疑問に今日は寝ることにした。
翌日、鐘の音で私は起こされた。
すると、外が騒がしくなり兵士たちが走り始めている。
どうやら皆は日々の訓練を始めるようだ。
そんな様子を窓から見ていると扉が開いた。
「っ!」
今は仮面を着けていない。素顔を見せてはいけないと思い、咄嗟に私は布団で顔の半分を覆った。
しかし、そこに立っていたのはユウナであった。
「お、驚かせてしまってごめんなさい」
そう言って静かに彼女は扉を閉めた。
「別にいいわ。ユウナはどうしてここに?」
「団長の指示ではないのですけど、議員の計らいでここに配属されることになったのですよ」
「……第四聖剣部隊に?」
「はい。まさか、ミリシアさんもここに潜入していたのですね」
少し嬉しそうにユウナが笑った。
よく知らない場所で知り合いがいた時の安心感は確かにある。
まぁ同じ部隊だとしたら私としても動きやすいのかも知れない。
まさか、団長はこのことを知っていて私を潜入させたのだろうか。偶然にしてはうまく進行し過ぎている気がする。
「どこまでが偶然なのか分からないけれどね。これからもよろしく」
「はい!」
そう言って元気よく挨拶をしたユウナはいつもと変わらないのであった。
それからしばらくすると、ヴェイスが部屋をノックした。
私たちは制服に着替えており、彼を部屋の中へと入れた。
「おはよう。みんなは訓練を始めているのだが、俺たちは出来立ての部隊だ」
「はい」
「……」
「それで、初の任務として施設の警備を頼まれている」
「施設、ですか?」
ユウナがそういうとヴェイスは手に持っていた資料を机に広げた。
「ああ、この施設の警備に当たって欲しいと言われてな。今からそこに向かう予定だ」
一見するとただの倉庫のように見えるその場所には「714」と書かれていた。
それを同時に見つけたのかユウナが小さく手を上げてヴェイスに話しかけた。
「この施設は何があるのですか?」
「どうやら特殊な聖剣があるそうだ。今は使えなくなってしまっているみたいだがな」
「……そうなんですか。確かに警備する必要はありますね」
果たしてこれが精霊統合化計画の一部なのだとしたら、妨害できる好機と言える。
ただ、それでなくても特殊な聖剣と聞けば誰でも興味は抱くものだ。
少し調べてみたい。
私はそう言ったことをユウナに目で伝えると、彼女は続けて口を開いた。
「あ、その特殊な聖剣、気になります」
「気になる、だと?」
「……」
流石に急過ぎる質問なのかも知れないが、率直に聞く以外方法がない。
「はい。特殊な聖剣って聞くと少しロマンがありますよね。こう、人の好奇心を刺激すると言いますか……」
「言われてみれば、確かにそうだな。警備する身としてそれが一体どんなものなのかを知っておく必要がある」
どうやらユウナの発言にヴェイスは良い意味で捉えてしまったようだ。
警備する対象を知ることは重要なことだ。そうなのだ、そうなのだけど……何かが食い違っている気がする。
「まぁ任務に差し支えなければ、調査しても構わん」
ヴェイスは調べてもいいと言った。
なんとか、その「714」と書かれた倉庫に保管されている聖剣について調べることができそうだ。
それにしてもこの番号、どこかで見たことがある。
帝国のどこかで……そのことについても調べたらわかることだろう。
◆◆◆
模擬戦を行った翌朝、俺はリーリアと外出していた。
今日は学院もない休日で彼女と一緒に買い出しに出ていた。
いつもならユレイナが買い出しに行くのだが、今回はアレイシアの定期検診の日と被ってしまったのだ。
「エレイン様、お持ちしましょうか」
「そこまで重たくはない」
食材の買い出しに行って、そのついでに日用品も買うことにした。
女性の使うものはよく分からないため、日用品などはリーリアに選んでもらっている。
その間、食材は全て俺が持っていることになっている。
「食材は重たいものですよ?」
「気にするな。ところで、それは何に使うものなんだ?」
話しかけてきたリーリアの手には美しい宝石のようなものを散りばめた棒を手に持っていた。
「これは髪留めです」
「棒で留めるのか?」
「はい。こうして留めるのですよ」
そうやってリーリアはセミロングの茶髪をたくし上げて、髪をその棒のようなもので留めた。
彼女の小顔はさらに強調され、うなじ部分が見えることで色気を増している。
あのようなものでも髪は留められるのだな。
「……どう、ですか?」
「ああ、よく似合っている」
「そうですか。ではこれにしましょう」
そう言って彼女はその髪留めを買い物カゴに入れたのであった。
そんな買い物から家に帰ると、まだアレイシアが帰っていなかったようだ。
「まだ検診は終わっていないみたいですね」
「そうだな。まずは食材を直すとしようか」
そう言って俺とリーリアは冷蔵庫に食材を入れた。
すっかり冷蔵庫の中は食材で埋まってしまったが、いつもこれぐらい買ってきてくれているユレイナには感謝しかないと思った。
すると、外で何者かの気配を感じた。
「どうかしましたか?」
「いや、リーリアはそのまま食材の整理をしていてくれ」
「……わかりました」
少し不安そうな顔をしていたが、俺はそのまま家の外へと出た。
三人、心臓の音からしてかなり練度の高い兵士のはずだ。
そして一人となった俺にその兵士たちが大剣を振り上げ、俺に攻撃を仕掛けてきた。
完全な奇襲、彼らにとってはそうだったのだろう。
「ふっ」
俺は小さく息を吐いてその大剣を寸前で避けると、アンドレイアでその大剣を破壊。
続いて頭上からレイピアで落下してくる剣士に対して、俺はその折れた鋒をアンドレイアで切り上げて飛ばした。
「ガッ!」
大きな金属の塊を顔面から直撃したのだ。相当痛いものだろう。
最後にサーベルで俺の背後から斬りかかってきた男にはそのサーベルを強く切り上げることで腕の骨を折った。
「奇襲を仕掛けたつもりだろうが、意味のないことだ。さっさとこの家から出ろ」
「くっ、引くぞ」
そう言って大柄な男は気を失った一人を抱えて逃げていった。
逃げるぐらいなら攻撃してこなければいいものを。
そんなことを考えながら、俺は先ほどの厨房へと戻ることにした。
こんにちは、結坂有です。
議会軍に潜入したミリシアでしたが、ユウナも同じく議会軍に入隊となりました。
今後、二人の活躍にも気になるところですね。
そして、エレインに立ち塞がる議会の追及も激しさを増してきました。
次でこの章は終わりとなります。
それでは次回もお楽しみに。
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