対立と信頼
俺とセシルの模擬戦が終わると、なぜか試合を見ていた生徒たちが手を叩いていた。
拍手をするほどに素晴らしい戦いだったのかは知らないが、どうやらその拍手は俺に向けてではなかった。
「セシルの剣撃は速過ぎる」「華奢な体なのによくあんな速度で戦えるよ」「セシル様の剣技は世界一だ」
皆それぞれセシルに対して拍手をしていたことが、彼らの感想からよくわかる。
だが、いくつかの生徒は俺に向けて警戒するようなそんな目を向けていたのは確かだ。
それらの視線には無視すれば問題ないのかもしれないが、やはり議会などの追及の可能性もあるからな。
「あなたに対して称賛を送っているわけじゃないのね」
「普通、周りからすれば特に何もしていないのに勝っていたように見えていたのだろう」
皆見ているようで本質まで見ている人は少ない。
まぁ自分にはできない凄そうなことにばかり注意が向くのは自然なことだがな。
「確かに、エレインは凄そうな技をしなかったわね。ただ剣を円を描くように回しただけで」
「ああ、その通りだ」
そう言って俺たちは周囲の注目の視線を受けながら、観戦席についた。
次に模擬戦をするのはミーナとフィンだ。
あれからどう成長しているのかは見たことがない。気になるのは型の使い分けだ。
最後にそこだけ伝えておくべきだった今でも悩んでいるのだがな。
「それでは、位置につけ」
ルカがそういうとミーナとフィンが中央へと歩いていく。
剣を引き抜いているミーナに対してフィンはまだ鞘に刀身を収めたままだ。
「フィンは元来抜刀術が得意なのよ」
なるほど、あの時感じた筋肉量の割に速度が伴っていなかったのはそのせいか。
抜刀術は予想以上に筋力を消費する。
それゆえに一部の筋肉が発達するからな。
「抜刀術からの連続攻撃、それがフィンの強さか?」
「ええ、間合いの取り方は私より遥かに上よ。だから剣先が届くギリギリの範囲で連続攻撃を繰り出してくるの。相手にするのは厄介だわ」
確かに高速だから彼の一撃目は反応に遅れてしまうことだろう。
俺とてそこまで抜刀術が得意なわけではないからな。
彼に学ぶところはいくつかあると言ったところか。
ミーナとフィンが見合ってしばらくすると、フィンが素早い抜刀でミーナに斬りかかった。
しかし、その剣先はミーナの剣に触れた途端、一瞬にして巻き上げられフィンは体勢を崩した。
いや、わざと崩したと言った方が正しいな。
「おぉ!」
大きな声で雄叫びをあげたフィンは右足を軸にしてミーナに対して回転蹴りを始めた。
「っ!」
その予想外な攻撃に彼女はすぐに対応することができず、腹部に強烈な蹴りを受けてしまう。
そして、フィンの剣先が弧を描いてミーナの首元に向けた。
「勝負ありだ。フィン、ミーナの剣術を理解し始めたようだな」
「今回は勝ったが、練習では五分五分の戦績といったところだ」
彼らは訓練場によく行っているようで、そこでは毎回のように模擬戦をしているそうだ。
それでの成績は互角と言ったところか。
まぁミーナの本来の実力であれば、かなり上位にいてもおかしくないのだからな。
それにしても攻撃的なフィンと防衛に適しているミーナか、かなり強力なペアだな。
どちらも攻撃を得意とする俺とセシルのペアと比べて彼らは持久戦を得意としているようだ。
「まぁ本気の打ち合いをすればフィンが一歩上手と言ったところだろうな」
「ええ、私も同意見だわ」
だが先ほどの勝負ではもう少しミーナが型の使い分けをうまくできていれば勝てていたのも確かだ。
先ほどの戦いを振り返っているのか、彼女は無言のまま席へと着いた。
次に呼ばれたのはフレッグとディゲルだ。
二人は互いに睨み合いながら、中央へと歩き始める。
「では、始めてくれ」
そう言ってルカは彼らから離れる。
双方ともに剣を抜いていない。
「クレベスト流剣術は一撃を重んじる流派なの。四大派生と呼ばれているけれど、そこだけは変わっていないわ」
「ただ、運用方法がそれぞれ違うと言ったところか?」
「そうね。フレッグの流派は相手に先手を打たせて戦うの。対するディゲルはただ強烈な一撃を相手に喰らわせる。シンプルで誰でもわかりやすいけれど、ディゲルの剣術は高い技術がないの」
だから剣術評価が低いのだろうな。
ディゲルの剣術はただ最初の一撃に全力をかけた戦い方だ。強力で効果的なものではあるのだが、フレッグの剣術のように相手に合わせて攻撃手段を変えると言ったことはしないそうだ。
「っはー!」
ディゲルが咆哮とともにフレッグに斬りかかっていく。
大きく振りかぶったその構えは強力な一撃を生むことだろう。
しかし、その一撃はフレッグには届かない。
「ふっ!」
小さく息を吐いたフレッグは最小限の動きで彼の強力な一撃を避けると無駄のない一撃を繰り出した。
「まだ終わってねぇぜ!」
「なっ」
そのカウンターの一撃はいとも簡単に避けられ、大きく体勢を崩して剣を回転させる。大きく振りかぶって残していた余分な力がここで活かされている。
そして、上半身を大きく回転させたディゲルの剣はフレッグの剣を弾き飛ばした。
「勝負あり、危険な攻撃だったがフレッグの負けだ」
ルカが勝敗の宣言をした。
「どうして、僕が負けたのだ……」
負けたフレッグが自分の手を見つめてありえないと深く考え込んでいる。
それを見てディゲルは鼻で笑っている。
「訓練ばかりのお前には分からねぇよ」
「なんだと?」
「へっ、俺の方が強ぇってことだよ」
すると、フレッグが立ち上がり彼の反論に出る。
「あんなふざけた構え方で勝てるはずがない。重心が崩れていては力は伝わらない」
確かに体の芯をまっすぐにすることで力が大きく伝わる。
しかし、それは地面に垂直に立つ、と言った単純なものではない。
「あ? っんなもの、場合によるだろ」
「場合による?」
ディゲルの言葉を聞いたフレッグは顔をしかめたまま疑問符を浮かべていた。
まぁ今は分からなくていい。
だが、彼と共に訓練を続けていると見えてくるはずだ。
実戦は訓練ではないということをな。
次に行われたグレスとエリルの戦いは見物であった。
同じ一撃を意識している彼らではあるが、その運用方法が違った。
グレスの方は偽の一撃を作り出していたな。力のない無意味な一撃、それによって相手の行動をうまくコントロールすることができる。
それに対してエリルはより素晴らしい物であった。
一言で言い表せば擦り抜ける剣撃、と言ったところだろうか。
相手が防ぐために構えた剣を彼女の剣は擦り抜けるようにして相手を攻撃していた。剣が交わる寸前に手首を捻ることでその剣を避けたのだろうな。
かなり技術がいるであろうその一撃はもはや防御のしようがない。
その勝負はエリルの勝利で終わった。
それからしばらく他の生徒の戦いを見ていたのだが、どれも似たような戦い方ばかりであった。
ただ、彼ら以外の生徒は特に注意を向けるべき相手ではないようだった。
実力を隠しているような素振りはなかったことからあれが全力なのだろう。
剣術競技の時に何人か見た実力を隠しているかのような人は誰一人いなかったのだ。
そして、最後はリンネとアレイのペアだ。
あの二人はフェレントバーン流と呼ばれる現存している最古の剣術の正統後継者の二人だ。
リンネが晴天流、アレイが暗闇流と分かれている。
セシル曰く、昔は一つにまとめられていたのだが二、三世代ほど前から二つに分かれたと言っていた。
二人で一つの剣術、それが対戦するとなればどう言ったことになるのだろうか。
と言うのも結果はアレイの圧勝であった。
彼女の暗闇流は訓練で音や空気で剣の動きを察知すると言ったことをしているようだ。
当然、普通の剣撃では簡単に見切られてしまい、反撃されてしまう。
しかし、実力的には二人とも同じようなものだ。
今後とも互いに訓練を積んでいけば、より高い評価を受けることになるはずだ。
こんにちは、結坂有です。
激しいパートナー同士の戦いはいかがだったでしょうか。
これからは学院での戦いが主体となっていきます。
それでは次回もお楽しみに。
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