表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/675

第三次魔族侵攻

 舞台はセルバン帝国からエルラトラムへ。


『予言です。明日魔族が侵攻します』


 そう告げたのは精霊族の族長だ。そしてそれを聞いているのはエルラトラム聖騎士団団長ブラドだ。


「どこに侵攻する?」

『隣国、セルバン帝国です』

「数は?」


 精霊族族長は少し考えた後、答える。


『最低でも千を超えるでしょう』

「な、二倍の勢力だぞ」

『至急対策を練ってください。我々精霊族と人類の存続にかかっています』


 そういうと精霊族族長は姿を消した。


 ブラドは一礼し、すぐに議会に向かった。




「失礼する!」


 勢いよく議会の扉を開けたブラドは議長を見つめた。


「何事だ!」


 周りが響めき始めるが、すぐに落ち着いた。


「議長、第三次魔族侵攻が起きると予言があった」

「なんだと!」


 それと同時にまた周りも響めき始める。

 ここ一〇〇年近くは魔族と大きな戦争がなく平和であったために、急にこのようなことが起きれば誰でも混乱するのは当然なのだろう。


「いつ、どこで、どの規模で攻撃される?」

「明日、隣国セルバン帝国に攻撃、規模は最低でも千を超える軍勢のようだ」


「千だと、信じられない」「第二次の倍近くの魔族が侵攻するのか」「聖騎士団は耐えられるのか」「不可能だろ」


 皆が次々に無理だ、不可能だと言う。


「不可能かどうかは我々の戦果を見て考えてくれ!」


 ブラドはそう力強く言い、議会は静まりかえった。


「議長、今すぐにでも我々に出動命令を」


 続けてブラドは出動命令を要請する。一刻も早くセルバン帝国に向かわないとものの数分で帝国が滅んでしまう。セルバン帝国は魔族に対抗するための聖剣を持っている聖騎士団の剣士は一人もいないのだ。


「明日と言ったな。では、明日の夕方にセルバン帝国に出動することを命じる」

「……では、直ちに」


 少し不満そうな顔をしていたが、ブラドが踵を返し議会を出ようとする。

 すると議長が呼び止めた。


「ただし、十分な戦力が揃わなかった場合は中止とする。いいな?」

「ああ」


 ブラドはそう言って議会を後にした。

 そして、真っ先に向かったのは聖騎士団本部ではなくフラドレッド邸だった。


「あら、ブラドさん。血相を変えてどうなさいました」


 現れたのはフラドレッド家のメイド、ユレイナだ。


「アレイシアはいるか?」

「はい、奥で鍛錬をしておられると思います」

「わかった」


 ブラドは迷いもなく、訓練場へと向かう。

 訓練場では聖剣を握ったアレイシアがいた。見つめているのは大きな大木、今それを切ろうとしている。

 普通であれば一撃で切れるものではないが、アレイシアは超一流の剣士で聖剣の持ち主だ。彼女は一瞬でそれを半分に両断した。


「見事だ」

「ありがと、今日はなんのようかしら」

「お前に頼らなくてはいけないことがある」


 するとアレイシアは少し考えた。


「……稽古の相手ならあなただけで十分なはず、私はここで鍛錬を続けるだけよ」

「剣士修行のことではない。魔族侵攻のことだ」


 ブラドは周囲に誰もいないことを確認してそう言った。


「召集と言うことね」

「いや、違う。お前には先行してもらいたいんだ」


 アレイシアは聖剣を鞘に納め、話を聞く。続けてブラドは話す。


「明日、隣国のセルバン帝国に魔族が侵攻するそうだ。しかし、聖剣騎士団はすぐには向かえない。先行する理由はわかるな?」

「そうすぐに聖騎士団の大隊を動かせない、ということね」

「魔族一〇体斬りの話は知っている。我々が到着するまで、セルバン帝国と共闘してほしい」

「いいわ。馬を借りるけどいい?」

「好きにしろ」


 そういうとアレイシアはすぐに準備にとりかかった。


「俺は聖騎士団を出来る限り早く編成する。後は頼んだ」


 ブラドはそう言うと、聖剣騎士団本部に向かった。


   ◇◇◇


 アレクとミリシアはなんとか”アンドレイア”をセルバン帝国内に持ち帰ることに成功した。


「なんとか城門まで持ってこれたね」

「ああ、でも魔族があんなところにいたってことは報告したほうがいいよな」

「そうだね。その件についてもちゃんと説明しないとだし」


 そうして二人は城門を抜ける。

 抜けたところにこの任務を任せた男性がいた。


「二人、ですか?」

「……はい」


 ミリシアはそう言う。アレクは目を閉じて唇を噛んでいる。


 それから施設に向かい、任務の詳細な出来事について話した。


「詳しいことはわかりました。だが、聖剣は確かに持ち帰ることに成功したようですね」

「はい、これにはそれほどの価値があるのでしょうか」

「価値は……私にはわかりません」

「そう、ですか」


 その剣が大切な仲間を一人死なせてまで得るべき価値があるのか、それはアレクにもミリシアにも、目の前の男性にもわからない。

 しばらくの沈黙の後、アレクが口を開いた。


「その剣は誰が扱うのですか?」

「それは……!!」


 城門の方から爆発音が聞こえた。

 アレク、ミリシアそして男性までもが驚いた。ここまでの爆発音は聞いたことがないからだ。

 すぐに男性は無線機を取り出し誰かに連絡を入れる。


「何があった?」


 轟音の中、サイレンが鳴り響く。


「ど、どうしたのかな?」

「わからない」


 無線からの話を聞き終えた男性がこちらに向く。


「たった今魔族四体が馬車の荷台から飛び出たようです」

「魔族ですか?」

「私も招集されましたので、失礼します」


 そう言うと男性はスーツの上着を脱ぎ捨てて、勢いよく駆け出した。


「もしかして私たちが連れてきたのかな」

「いや、付けられている感じではなかった」


 すると奥の方から六〇代後半の男性が奥の方から声をかけてきた。


「君たちが連れてきたわけではないですよ」

「あなたは……」

「私はこのセルバン帝国の宰相でございます」


 すると、二人は軍隊式の敬礼をした。


「楽にして構わない。この魔族襲来は計画的なものですからね」

「つまり、知っていて対処をしなかった……ということでしょうか」


 アレクはそう鋭く質問する。


「少し誤りがあります。対処できなかった、と言った方が正しいでしょう」


 聖剣を持っていないセルバン帝国は魔族に対して無力だ。よってこの侵攻が起きることを予想できたとしても防ぐことは容易ではない。


「いつからこのことに気付いていたのですか? 早くに気付いていれば聖騎士団を駐在することも簡単だったのではないでしょうか」


 その質問に宰相は横に首を振る。


「一〇年以上前から次に狙われるのは我が帝国だと予測していました。ですが、外交上の問題でそれができなかったということです」


 宰相は椅子に座り、続けて話す。


「あなたたちを育成したのは聖剣、それも大聖剣に認められるほどの人間を育てることです。厳しい訓練、厳しい選択を迫ったのはどれも聖剣に認められるようになるためです。地下施設に送ったあなたたちはすでに聖剣に認めてもらえるほどの実力があるのですよ」

「ですが、僕もレイもその聖剣を引き抜けなかった。それはどういうことですか?」

「この任務を受ける前に隊長が話したと思いますが、これに宿っている精霊は追放されています。正確には聖剣ではないのですよ」

「では、なぜその剣を取りに行かせたのですか?」


 アレクは少し語気を強めて言う。

 当然、剣として扱えないようでは意味がない。そのような実用性のない物を命を懸けてまで取りに行かせたのかと怒りを交えて言っているのだ。


「この剣はいわば”魔剣”なのです。魔族にも有効な攻撃が可能、そして聖剣に対しても有効であるのです。聖剣とは全く別の存在なのですよ」

「そ、そんな物なのですか」

「ええ、この魔剣はその中でも最高位の存在です。もちろん魔族もこれを狙っていたのでしょう」


 静かに聞いていたミリシアが口を開く。


「だから、無理にでも私たちがこれを奪い取る必要があったんですね」


「そうです。あなたたちがその魔剣を取りに行く直前に()()()を私が適正だと判断しました。その人は私の教育方針であなたたちよりも厳しい訓練にも耐えてきた人ですから当然でしょう」


 ミリシアがそれを聞いて質問した。


「ある人って、エレインのことでしょうか?」

「そうですね。五年も一緒にいたあなたたちならよく理解できるでしょう」


 アレクは少し考えた後、あることに気付く。


「宰相、もしかしてですが……」


 宰相も何を聞かれるかわかったのか、軽く目を閉じる。


「選別で弾かれた我々はもう捨て駒だということですか?」

「気付かれてしまいましたね」


 ミリシアも違和感に気付いたのか口を隠した。


「あなたは国民を守ることが一番のはず、なのに国民を守るためだけに軍隊を動かしていない。そうですよね?」


 アレクの怒りが頂点に達した。

 先ほど軍隊が動き始めているのは確かだ。しかし、目的が違う。国民を守るのではなく、あくまで時間を稼ぐものだ。

 事実、城壁での防衛は有効ではあるものの時間稼ぎには向いていない。それならいっそのこと壁内に招き入れて好き勝手暴れてもらう方が都合がいい。

 当然だが、それには人命が失われていく。膨大な数の犠牲が必要になってくる。


「ええ、その通りです」

「なんて……ことを……」


 そのことを察したミリシアは膝から崩れる。

 事の深刻さ、残酷さが彼女を苦しめる。


「いずれにしろ、この国は滅びます。我々の予測では魔族をここでなんとかして対処できたとしても国民は飢餓で大多数は死んでしまう結果なのです」


 世界が一つに統合し始めている昨今、それに乗り遅れたセルバン帝国は社会的にも物理的にも孤立した存在になっていた。古くは城郭都市として貿易で存続していた完全中立国であった。

 しかし、一〇〇年前に魔族が侵攻してからは貿易も少なくなり、食糧もこの狭い領土では人口分の自国生産も難しい状況になっている。そのような国に魔族が城郭の外を囲み完全に孤立させれば、消耗戦となり何もせずともこの帝国は滅びる。


 魔族からすれば外周で待っているだけで制圧できると言う格好の餌食だということなのだ。さらに制圧が完了すれば強固な城壁と最先端の施設を独占することができる。

 続けて宰相は話す。


「数時間後には魔族の大部隊が到着する頃でしょう。城門の騒ぎはその先行部隊が来たということです」

「あんたは!」


 アレクは宰相に殴りかかりそうな勢いで詰め寄る。しかし、それをミリシアが制止する。


「冷静になって、これは私たちができる最善の策なのよ」


 ミリシアが最善の策という。

 確かに可能性が限りなくある人物に強力な武器を託すというのは意味のあることではある。

 ただ、正義感の強いアレクはそれを許すわけがない。


「最善だろうと僕は許さない。国民を守ることを幼い頃から学んできた。昨日それが終わったと思えば結果はこれだ。何も変わってなんかいないんだよ!」


 そう殴りかかろうとした瞬間、壁が砕かれた。

こんにちは、結坂有です。


恐れていた事態が起きてしまいました。

聖剣がなければ倒すことができない魔族、これからどうなるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ