幕間:メイドたちの関係
エレイン様がアレイシアと訓練をを終えて夕食を食べた後、私リーリアはお風呂に入ろうとしていた。
どうやらエレイン様は私が夕食の片付けをしている間にさっと入ってしまっていたようだ。時間が合えば一緒に入ろうとしたのだが、どうやらそう簡単には時間を作ることができないのだ。
自分の着替えを手に、お風呂場へと向かった。
この家の風呂場はかなり広く、同時に四人が入っても何とか問題なく入ることができるほどであった。
それにしてもこれほどの大きさでは一人で入るのは少し贅沢な気がする。
私は脱ぐのが少し面倒なメイド服を脱ぎ、魔剣を脱衣所に置いて私は浴場へと足を進めた。
かろうじて残っているエレイン様の匂いを感じながらゆっくりと進んでいく。
あの時一緒にエレイン様と一緒に入った時を思い出すと胸の高まりが抑えられなくなり、またいつものように……
「っ!」
ガラッと扉が開くとそこにはユレイナが立っていた。
「あら、リーリアも今から入るのかしら?」
「……ええ、そうですね」
少し驚いた表情でユレイナが私を見つめてくる。
当然、驚いているのは彼女だけでなく私も同じなのだ。
「二人だけだし、敬語はなくていいわよ」
そう言ってユレイナはバスタオルを解いて浴槽からお湯を浴びた。
彼女とは聖騎士団時代に何度か話したことがある中だが、当時は立場的に私の方が上であった。
フラドレッド家に来てからは彼女はここのメイドとしてアレイシアに仕えているようで、後から私もここのメイドとして仕えている以上、彼女が上となってしまっている。
と言った感じで上下が入れ替わっているわけで、彼女もそのことを面倒だと思っているのだろう。
「そうね。ところでアレイシアとは一緒に入らないの?」
「アレイシア様は夕食の前に入ったので大丈夫なの」
どうやら夕食を作っている間に入っていたようだ。
つまりはある程度アレイシアの足は回復傾向にあるということだろう。
そろそろ一人で自分のことぐらいはできるようになったようだ。
私もユレイナの後に続いて浴槽からお湯を浴びる。
エレイン様が入ったお湯と思うだけで、少し胸元が熱くなるのを感じる。別にそう言った嗜好を持っているわけではないと思いたいのだが、こうして胸の興奮を感じているとどうも私は変なのだろうかと思ってしまう。
そんな私の思いに気付いたのかユレイナは目を細めてこちらを見つめてくる。
あの目は悪戯を仕掛けてくると言った目だ。
アレイシアに対してよく向けている目だからよくわかる。
「ねぇ」
「何?」
そのほんの少しの間がなぜか長く感じてしまう。
そして私の顔を見て彼女はゆっくりと口を開いた。
「……エレイン様のこと、考えているでしょ」
「ど、どうしてそんなこと聞くの?」
やはりからかっているのだろうな。
聖騎士団の頃は私の方が少し上の立場だったからからかう事はあまりなかった。
しかし、こうしてフラドレッド家のメイドとなった今は違う。
お互いが同じ立場という関係は親密さを増幅させてしまうのだ。
「どうしてって、女の子の顔をしているから」
「女の子って私は女性だから当然でしょ」
そう言って私は泡を立てて、自分の体を洗い始めることにした。
フラドレッド家の石鹸は非常に泡が立ちやすく、銭湯などで置いてある石鹸よりも上質なものだと言える。
聖騎士団の本部にあるシャワールームの石鹸なんてぬるぬるするだけで、洗えているのかわからないものだったの覚えている。
聖騎士団時代、アレイシアは自分の家から石鹸を持ってきていたが、この石鹸に慣れてしまうと他のものを使えなくなってしまう。
「ふーん、エレイン様に見られた時のために入念に洗うのね」
「ち、違うわよ。そうでなくても清潔に保ちたいだけだから」
「そうかしら? こことか泡まみれだけど?」
そう言ってユレイナは背後から私の胸に腕を滑り込ませてくる。
「ひゃっ」
泡で滑りが良くなっており、さらには高揚していることから若干の気持ち良さを感じる。
しかしくすぐったいのは変わりなく、私は変な声をあげてしまった。
「可愛らしい声をあげるのね。アレイシア様ほど大きくはないけど弾力は確かにいいわ」
「ど、どこを触って……」
このままではユレイナに主導権を握られたままだ。
私の貞操を守るためにもここは反撃をしたいところ、どこを触った方がいいだろうか。
私は石鹸をさらに泡立てることで滑りを良くして体の向きを変え、彼女の背筋を触れた。
「あっ……はぁん」
「ここが弱いの?」
そう言いながら、私はゆっくりとそのまま下の方へと指先を滑らしていく。
彼女は体を震わせながら、私の腰へと腕を伸ばしてくる。
「くっ」
「……せい!」
いつの間にか体術で寝技を決めるかのように体を捻らせた私たちはそのまま泡まみれの状態で浴槽へとダイブしてしまった。
バシャァン!
大きな水しぶきとともに全身の泡が洗い流される。
「……ちょっとはしゃぎ過ぎたわね」
「元はと言えば、あなたがいけないのよ」
私がそういうとユレイナはムッとした表情をしてこちらを向いてきた。
「リーリアだけずるいと思ったから今仕返ししてるの」
「……私だけがずるい?」
浴槽の中で密着していた私たちはゆっくりと離れた。
「エレイン様の隣を独占しているリーリアが羨ましいのよ」
そう言って顔を赤くしてそう言ったユレイナは以前アレイシアが見せた表情と近いものであった。
どうやら彼女もエレイン様のことを……
「エレイン様のあの美しい筋肉を間近で見られるのはとっても羨ましい」
「筋肉?」
「そうよ。隆起した筋肉ではないあの引き締まった筋肉、アレイシア様のそれとは違う男らしい体はエレイン様だけなの」
「……それは恋なの?」
すると、彼女は私の目をじっと見つめてきた。
その本気の目は戦闘時のそれとは全く別の何か狂気的な何かを感じるような目だ。
「恋、恋なのかもしれないわね。あの体は何ものにも変えられないものだから」
「悪いけど、そう言った理由だけではエレイン様の隣を譲るつもりはないわ」
「どうして?」
どうしてって当たり前ではないか。
不純な理由だからに決まっている。
「そんな不純なことだけではダメよ」
「……そっか」
そう言ってユレイナはお湯を肩にかけて体を温めている。
私もそれに続いてお湯をかける。
しっかりと上半身まで温めることで疲労が回復していくのが感覚として感じる。
そして、一息ついた彼女は小さくだが口を開いた。
「正直なところ、エレイン様はとても逞しい方よ。そんなお方に慕いたくなるのはいけないことかしら?」
そう言って彼女は思いの丈を吐露した。
確かに私も彼の強さに惹かれた部分はある。そして、何よりも一度捨てようとした命を救ってくれた恩人でもあるからだ。
しかし、それはユレイナも同じなのかもしれない。
アレイシアが危機的な状況に陥った時、エレイン様の機転のおかげでうまく立ち回れたと言っていた。
そんな彼の姿を見ていると必然的に惹かれてしまうのだろう。
それほどに彼は魅力的なのだ。
「……いけないことではないわ。私も同じだから」
「そうよね。彼の匂いで興奮するんだものね」
「そ、それは関係ないでしょ」
どうやら私の心情などすでに看破されていたようだ。
やはり同じことを考えている人同士ではすぐに分かってしまうのだろうな。
「エレイン様の居場所はフラドレッド家なの、いざとなればメイドである私がお守りするわ」
「私は彼の公正騎士で専属のメイド。お互いに協力し合いましょう」
「ええ」
そう言って私たちは握手をした。
これは協力関係の証。同じ意思を抱いている者同士としての協力なのだ。
「リーリアは匂いで、私は彼の体を担当するわ」
「……」
そんなユレイナの問題発言を無視するように私は浴槽から出るのであった。
いや、待て。体を担当ってあんなこともするのだろうか。
それはダメだ。
「待って、それはどういう意味なの?」
「どういう意味って、先日のようなことよ」
「……っ!」
こうして風呂場で第二戦が始まるのであった。
こんにちは、結坂有です。
今回はアンケート機能で投票の多かった二人にフォーカスして作った幕間となっています。
休憩回となっている今回ですが、いかがだったでしょうか。
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それでは次回もお楽しみに。




