物事は簡潔に…
夕食を食べ終えた俺はアレイシアに一つ確認したいことがあった。
「セシルについてはどう思っているんだ?」
俺が彼女の名前を出した瞬間、嫌そうな表情をしたがすぐに戻してこちらを向いた。
「……昔を知っているからね。信頼できない相手ではないけど、私には相性悪いかも」
それ以上の理由を言及する事はなかったが、どうやら個人的には馬が合わないのだろうな。
とは言ってもアレイシアと直接関わりを持たせるわけではない。
「そうか、信頼はできるのか」
「うん。副団長の娘だし、昔から知ってるわけだからね」
「なるほど、なら今度またこの家に来ても問題ないわけだな」
すると、彼女は俺の方を一瞬見たがすぐに視線を逸らした。
「えっと、学院のパートナーとして……だよね?」
「ああ、それ以外何がある?」
「何でもないよ。ただ確認をね」
この家にセシルを連れてきてから彼女の俺に対する対応が少し変わってきているように思う。
いい意味でなのか悪い意味でなのかはわからないが、別に俺たちの関係に亀裂を生むようなことにはなっていないから大丈夫なのだろう。
それにしてもリーリアの視線が少しだけ痛いが気になる。
「リーリア、何かあったか?」
俺はその視線の真相を知るために彼女に声をかけたのだが、すぐに視線を逸らして首を横に振った。
「いいえ、エレイン様のご意向に従うことが私の使命ですので、お気になさらず」
そう言って、夕食の皿を奥のキッチンルームへと持っていた。
一体何が起きているというのだろうか。
まぁ今の俺が気にしたところで何も変わらないのは事実だからな。ここはあまり刺激させないようにするべきだな。
そんな夕食の後の会話を終えた俺は自分の部屋へと戻った。
そして、部屋の鍵を閉めた瞬間にアンドレイアが剣から飛び出してきた。
「あのセシルとかいう奴はやはり信用ならん」
飛び出したその一声に俺は小さくため息を吐いた。
「別にいいだろう。学院の剣術競技で上位の評価を得るためなんだ」
「わかっておる。そうすることで聖騎士団としての登録されるのじゃろ?」
「ああ、聖騎士団という肩書があれば世界を歩き回れるからな」
俺がこの学院でなすべき事は一つ。実力をあまり探られずに上位へと目指す。
たったそれだけのことなのだ。
学生の強さは見ていてある程度理解できているから本気を出せば一瞬で上位に行くことができる。しかし、そんなことをしては俺が異質な存在として見做されでもしたら議会だけでなく学生からも調査されそうな気がする。
学生の中には貴族の生徒も多くいたからな。当然ながら怪しい人物は徹底的に調べられそうだ。
「別にお主の行くところにわしが行くだけじゃからの」
「なら別に俺が何をしても問題はないという事だな」
「そうじゃがな。無茶なことをして死ぬことだけはして欲しくはない。これだけは約束じゃぞ?」
「さっきも言ったが、約束は守る」
俺がそういうとアンドレイアは納得したのか腕を組んでベッドへと大胆に座った。
「ふむ、それならいいのじゃ」
俺としてはその約束のことではなく、もう一つのことが気になった。
それは彼女とクロノスとの関係だ。
「そういえば、精霊族の族長クロノスとは険悪な関係なのか?」
クロノスとあった時、彼女は激昂していたからな。
あれほど怒るという事は過去に何かがあったという事だ。
それがどう言った事なのかは推測することすらできないわけだが、クロノスとは今後関わることが多くなるだろうからな。
出会う度にあのように怒り狂ってしまうようであれば少し考える必要があるだろう。
「わしが一方的に怒っているだけであって奴は中立を保とうとしておる。別に険悪というわけじゃない」
「なるほど、それならよかった」
双方ともに怒っているわけではなさそうだ。
二人の関係も今後時期を見て和解した方が良さそうなのかもしれないな。
「もう何年も前の話じゃ。そのことをまだ引き摺っているわしの問題だからの。あの時は取り乱して悪かった」
「別に気にするな。感情的になる事は何も悪いことではない。俺とて感情的になることだってあるからな」
「お主が感情に身を委ねた時こそどうなるのかわからんがの」
確かに、魔族千体以上倒したとしても息切れする事はなかった。
むしろ斬り足りないとすら思ったぐらいだ。
どこまで戦えるのかを知りたいと思っているのは俺も同じなのかもしれない。
「俺も無限に戦えるのであれば、もっと戦いたかったのかもな」
「底の知れぬお主は全く面白いの」
「面白い、か?」
「さすが、わしが惚れただけはあると言ったところじゃ」
まぁ一人を惚れさせたところで、比較対象がアンドレイアだけでは自分が本当に強いのかどうかはわからない。
いや、正確にはイレイラも俺に対して惚れているのだろうか。
少し気になるところだな。
「ところで、お主。わしと夜の営みを……」
「何を言っている。精霊とそう言った行為はするつもりはない」
「なんじゃと? 人間と精霊の子は産まれん。処理だけでもどうじゃ?」
自分の体をそう簡単に差し出すものではない。
それどころか、俺が欲求不満そうに見えているのだろうか。
リーリア曰く、慕う人はとことん慕うと言っていた。
アンドレイアも俺のことを慕う存在、同じくそう言ったことまでしてくれるということなのだろうか。
「まさかとは思うが、そう言ったことを望んでいるように見えるのか?」
「お主からはロリコンの匂いがするからの」
「……それだけは否定できる自信がある」
流石に考え過ぎだったか。
俺が欲求不満ではなく、アンドレイアが欲求不満だということだ。
そもそも性欲についてそこまで意識を向けたことがなかったな。どう言った時に異性としての魅力を感じるのか、今後自分を知る上でも把握する必要がありそうだ。
とは言ってもどうすればいいのかわからないのが現状だがな。
「ほう? 根拠は何じゃ?」
「まずはだな」
俺はそれから自分がロリコンではないという証拠を五つほど並べたところで、アンドレイアは不貞寝したのであった。
その様子を見て、俺もゆっくりと眠ることにした。
そして、夢の中。
俺はまた真っ白の空間に一人立っていた。
「また呼び出したのか?」
「はい。申し訳ございません」
すると、霧が晴れたように姿を現したのはイレイラであった。
精霊の掟によれば覚醒時以外の接触は問題ないとのことで、彼女はたまにだがこうやって夢の中で姿を表して俺と話をしている。
「別にかまわん。俺とて話がしたいのは変わらないからな」
「本当、ですか?」
「ああ、イレイラと話せるのは貴重だからな」
「大切な時間……ということですね」
少し嬉しそうにそう言った彼女は頬を赤く染めていた。
何か勘違いしているのかも知れないが、俺はそれをあえて無視することにした。
彼女とは今後とも良好な関係で続けたいと思っているのだ。
「まぁそう言った感じだ」
「そうですか。嬉しいです」
「それで、姿を表したのには理由があるのだろう?」
すると彼女は地面に足をつけて俺の方へとゆっくり近付いてきた。
そして、恥ずかしそうに視線を逸らしながら口を開いた。
「あの、誠に聞きにくい事なのですが」
「別にどんなことでもいい」
「……欲求不満、なのですか?」
やはり、先ほどのアンドレイアとの会話を聞いていたのだろうか。
アンドレイアの発言には色々と誤解を生むような発言が多く含まれているからな。
「私で良ければその、夢の中でそのような密接なことでも……」
「いや、夢の中で処理したからと言って大丈夫なわけではないからな」
「そうなのですか?」
精霊にはわからないのかも知れないな。
人間と同じ構造をしているとはいえ、存在だけの彼らは生物的な苦悩など知らないのだからな。
「精霊も精霊の問題があるように人間にも問題があるということだ」
「色々と、複雑なのですね」
そういうとイレイラの顔は真っ赤に染まった。
恥ずかしいぐらいなら初めから言わない方がいいのだ。ただ、気になった事はすぐに知りたいと思うのは俺も同じだからな。
俺もイレイラのことを悪くいう事はできない。
それから俺は剣術の話へと話を切り替えて、話題を逸らすのであった。
こんにちは、結坂有です。
夜分遅くに更新してしまいました。
色々と作業を進めていると時間というものは一瞬で過ぎ去るようですね。
っと言い訳を十分に述べたわけですが、毎日更新は絶対ですのでこれからも応援のほどよろしくお願いします!
エレインはどうやらセシルを家に招き入れるようですね。
アレイシアとの合意も得られたところですし、今後どう言ったことになるのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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