ただ会いたいだけなのに
更新が遅れました。
申し訳ございません。
私、ミリシアは精霊の泉に全ての資料を置いていったあと、本部へと帰っていた。
本部にはすでに団長が戻ってきたようで、ユウナは夕食の残りを食べようとしていた。
「もう帰っていたのね」
「ああ、ミリシアは何をしていた?」
「えっと、精霊統合化計画の資料を一部だけ精霊に渡してきたの。精霊にも知っておいた方が抵抗もしやすいだろうし」
「時間稼ぎにはなるはずだ」
そう、時間稼ぎだけだけどね。
そんな事はわかっている。それにあのクロノスという精霊はどうやら知っていたようだ。
私がわざわざ資料を持っていくまでもなかったのかもしれない。
ただ、一つだけいい情報も得られた。
エレインの味方について行動する事はどうやら正しい判断のようだ。
彼が今どのような活動を行っているのかは詳しく分からないが、とりあえずはこの国の害になるような事はしていないのだろう。
「それにしても議会の様子なんだけど、どうやらザエラ議員って人が議長として選ばれたそうよ」
あの資料によると多数決によって決められたわけでもないそうだ。
副議長の推薦によって選出されたと書かれていた。
「ザエラ議員が、か。彼が議長として選ばれたのは厄介だ」
「もしかしてだけど、団長は十五年前にあの計画が行われているってこと知っていたわけ?」
「知っていた。まだ続けているとは考えてもいなかったが」
どうやら情報としては持っていたが、今となっては考える必要はないと思っていたようだ。
とは言ってもこうしてザエラ議員とあの統合化計画の実態が明るみに出たことによってより事態は深刻な状況へと変わってきているようだ。
「前の議長はエレインという強力な戦力を手駒にして世界の覇権を得ようと考えていたが、ザエラ議長は精霊を使役することで世界の覇権を握ろうとしている」
確かにどちらも覇権を取れるほどに凄いことなのだが、前の議長の考えは一人に依存しているため不安定な戦力だ。
しかし、ザエラ議長の精霊を使役する事はかなり効果的だろう。
一部の精霊を敵に回すことにはなるが、それでも強力な戦力を確保することができるだろう。
「どう言った計画なのかはまだ精査していないけれど、とんでもないこと書いてあったわ」
ページを流しながら見ただけだが、精霊の族長を聖剣に無理やり宿すことで行動を制限させる。
それから精霊の泉を光学系の聖剣の力を利用し、精霊の世界へと侵攻を開始。それから無抵抗な精霊を全て捕らえることで完全使役が成功するとのことだ。
神樹の加護を受けている精霊はある掟に逆らうことができない。つまりは無抵抗のまま彼らを捕らえることができる。
もちろん、そんなことをしては本来の共存関係ではなくなってしまう。
もともと、精霊の居場所を確保するという意味でエルラトラムは精霊と約束を交わした。
何年も経ち約束が変わることなどあるのかもしれないが、これは明らかなる敵対行為だ。
そんなことを精霊の力を崇拝している聖騎士団が許すわけがない。
これは団長と議会の亀裂ではなく、聖騎士団全体との関係が悪化すると考えていいだろう。
それほどのことを今の議長は行おうとしている。
「ある程度は俺も知っている。不可侵の精霊世界に攻め入るなどあってはならないことだ」
どうやら団長も同じ意見を持っているようだ。
今の私は彼がどのようなことを考えているのかはわからない。
議会との関係に亀裂を入れたり、エレインにも敵対的な行動を取ったりと色々しているが、本当はこの国を守りたいという熱意があるのかもしれない。
ただ、それにどう繋がっているのかはわからないのだけど。
「そ、それはいくらなんでも横暴過ぎますよね」
ユウナは特に疑いもせずに団長の発言にそう素直に反応した。
私からすれば彼の考えていることが全てわからない以上、彼の意見には賛同したくない。
とは言ってもそれを拒否する権利もないわけだから、結局従ってしまうのが今の私の立場だ。
護衛騎士という立場さえどうにかすればいいのだけど、まずそれには聖騎士団以外の居場所を確保する必要があるのだ。
この国の正式な国民ですらない私は彼に依存しなければいけない。
「ああ、それでミリシアに頼みがあるんだが」
「何?」
そう依頼してくるという事はきっと良いものでもないのだろう。
何よりも私にとって嬉しい依頼など、限られているのだから。
「議会軍に侵入し、精霊統合化計画の妨害工作をしろ」
「……わかったわ」
「議会軍は統合化計画のことを知っている人が少ないからな。何かと理由付ければすぐに軍に入ることができるだろう」
確かにあの様子だと議会軍は団長のことを慕っている人が多いのも確かな上に、統合化計画を知っていそうな人などいないように思えた。
私が議会軍に入ることなど簡単なことなのかもしれない。
◆◆◆
アレイシアの訓練に少しだけ付き合った俺はそのあとすぐに夕食を食べることになった。
今は七時前で、日は沈み外は暗くなっている。
四時ごろにいつも授業が終わるのだが、そこから精霊の泉へ行ったりアレイシアの訓練を覗いたりと色々したからすぐに時間が過ぎたように思えた。
だが、そんな濃厚な時間を過ごしたのにもかかわらずはあまり疲れていないというのが今の俺だ。
確かに激しい戦闘などはそこまでなかったのだが、いつもなら少し疲れが出ていた。
おそらくだが、この生活にも慣れ始めてきたといったところだろうか。
もう学院に通い始めて一ヶ月以上は経っているからな。そろそろ順応し始めてもらわないと困る。
「エレイン、さっきの訓練はありがとう」
「いや、気にすることでもない」
「だって、少し付き合ってくれたことで上達できたんだもん」
アレイシアは顔を少しだけ染めながらそう言った。
「それにしても、あの片足剣術とやらは珍しいものだな」
「うん、私も復元しようとしてて思ったわ」
そんな話をしていると、奥からユレイナが夕食を持ってリビングへとやってきた。
どうやら今日はシチュのようで手に持っている小さめの鍋からは甘い香りが漂ってきた。
「私もアレイシア様と一緒に復元のお手伝いをさせていただいたのですが、確かに片足を軸にした戦い方は珍しいです」
普通であれば、両足に同じように重心を乗せることで、踏ん張ることが可能になったり、前後左右どの方向にも即座に移動が可能であったりする。
しかし、フラドレッド流片足剣術は片足だけに重心を乗せ、その場から移動しないと言った戦い方をする。
防衛に特化しているのだが、攻撃にも扱える非常に汎用性の高い剣術ともいえるだろう。
ただ、少し慣れが必要なのと移動ができないという点はやはり大きな弱点と言えそうだ。
それからは美味しいホワイトシチュをみんなで食べ、いつも通りのたのしい夕食をいただくことにしたのであった。
こんな生活をずっと続けていたいものだ。
こんにちは、結坂有です。
どうやらミリシアはこれから議会軍に入り、統合化計画の妨害工作をするそうです。
そして、その計画を即座に実行しようとしているザエラ議長ですが、今後どう言ったことをしようと企んでいるのでしょうか。気になるところです。
さらにエレインはセシルとの関係をどう続けていくのか、その辺りも気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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