剣闘の末に
リーリアと家に戻った俺はすぐに自分の部屋へと戻った。
すると、すぐにアンドレイアが姿を現した。
その美しい銀髪に燃えるように赤い灼眼は魔族を連想させるが、彼女は精霊の一人だ。
いや、元精霊と言った方が正しいか。
今は魔剣として剣の中に宿っており、俺と血の契約で繋がれている。
「お主、やはりクロノスとは関わらん方が良いぞ」
「なぜだ?」
「以前の主もクロノスの指示に従ったせいで死んだのじゃ。お主にも死んで欲しくはない」
彼女にどう言った過去があるのか知らないが、俺とてそう簡単に死ぬような訓練は受けていない。
それにしても彼女がここまで怒るのは珍しい。
毒を吐くことはあっても激怒することはなかったからな。よほど辛い過去があったのだろう。
「昔のことは知らないが、俺が死ぬことなどないに等しい」
「……お主の力は信じておる。じゃが、不安要素はなくしておいて損はないじゃろ?」
「前に話しただろう。俺はあの第三次魔族侵攻の犠牲者のためにも最善を尽くしたい」
俺と契約を結んだ直後のことだ。
彼女と二度目の対面をしたときに俺は全てを話した。
セルバン帝国で死んでいった市民や兵士たちのために俺は魔族を殲滅する必要がある。自分のするべきことをはっきりと伝えた。
俺は魔族を倒すためならなんでもする。
「良いことをした先に何があるというのじゃ。死ぬことが最善だとして、お主は死ぬのかの?」
「俺にとって最善とは誰も死なないことだ」
仲間は絶対に助け出す。
俺があのときに悩んでいなければ、助かった命は多かったのかもしれない。
それなのに俺は部屋に閉じこもって隠れていただけだ。
今度こそ、俺はそのような失態はしない。
絶対に助ける方法を見つけ出し、解決する。最後には帝国を滅ぼした魔族を滅ぼす。それが俺の、俺たちの目的なのだから。
「……死ぬときは死ぬのじゃよ」
そう言ってアンドレイアはため息を吐きながらベッドへと座った。
俺もその横に座り彼女に話しかけることにした。
「お前とクロノスの間に何があったのかは知らないがな。俺は俺のやりたいことをするだけだ」
「わしは、お主に死んで欲しくないのじゃ。もうわしを独りにしないでおくれ」
「俺に死んで欲しくないのなら、力を分けろ。お前の力があれば俺は死ぬことはない、約束する」
すると、アンドレイアはじっと俺の目を見つめてきた。
今にも泣きそうな彼女は過去に辛いことがあったことを物語っている。
「約束、じゃな?」
「血の契約とかはどうでもいい。俺が絶対に死なないことを約束する」
「……約束じゃよ。絶対じゃからな!」
「ああ、……っ!」
俺がそう返事をすると、彼女は手を取るのではなくそのまま抱きついてきた。
何年も生きているとはいえ、その行動では子供も同然ではないか。
まぁまだ心は子供なのかもしれないがな。
◆◆◆
私、リーリアはエレインと家に戻ってからすぐにアレイシアと話をすることにした。
「アレイシア、エレインに隠れて訓練をしているの?」
「……もう気付かれていると思うけどね」
彼女の横にはユレイナもいる。
「なんのためにそんな訓練を?」
「それは、エレインを守るためよ」
「片足はまだ戻っていないはず、そんな調子で彼の助けにはなれないわ」
すると、アレイシアはムッとした表情でこちらを見つめてきた。
「何? 無駄な訓練だと言ってるの?」
「訓練をするなと言っているわけではないの。一度お手合わせしない?」
「リーリア、それはいくらなんでも……」
「アレイシアには自分の力を自覚する必要があるわ。それはユレイナだってわかってると思うのだけれど?」
「いいわ。昔に模擬戦してたからね」
聖騎士団時代に私とアレイシアとで模擬戦を何度もしたことがある。
だけど、今回はそんな模造刀ではない真剣勝負をしたい。
「本気で戦いたいから、真剣でどう?」
「……もちろん、いいわ」
「アレイシア様」
「いいのよ。エレインのためにならなんでもすると決めているから」
どうやらアレイシアもある程度の覚悟があっての訓練だったようだ。
それから訓練場に入ると、私はすぐにスカートの中から双剣を取り出した。
私の剣は魔剣で聖騎士団時代のときはまだ使っていないものであった。
「双剣か、ちょっと面倒な相手だね」
「本気だからね。始めていいわ」
私はユレイナにそう伝えるとアレイシアも同じく頷いて準備ができたと伝えた。
「では、危険と判断したら私が止めます。それでいいですか?」
「ええ」「わかったわ」
私とアレイシアがお互いに剣を構えるとユレイナは手をあげた。
「それでは、始めっ!」
そういって手を下げ試合が始まった。
すると、アレイシアは怪我のしていない方の足を軸にして居合の構えを取った。
彼女の剣は一見するとただの木製の杖のように見えるのだが、実は剣なのだ。
いわゆる仕込み刀と呼ばれるもので、隠し物にはちょうどいいものだ
そして、あの構えこそがアレイシアの言っていたフラドレッド流の片足剣術なのだろう。
自ら攻める事はなく、防衛に徹した構え。
私の魔剣が予測している攻撃線も複数存在していることから、あらゆる攻撃に対処することができるようだ。
それほどに彼女は短時間で仕上げてきたということに違いない。
しかし、それでもエレイン様をお守りするにはまだ力が足りない。
「はっ!」
私は掛け声とともに突撃を開始した。
予測されている攻撃線をうまく掻い潜り、アレイシアの懐へと潜り込む。
「ふっ」
懐へと入る一歩手前でアレイシアは高速な抜刀で私の剣を弾いた。
それと同時に剣撃の音が訓練場内を響かせる。
「攻撃が単調よ?」
「様子見の突撃だからねっ」
私は追加で攻撃を開始した。
それでもアレイシアの構えを崩すことができず、素早い抜刀と的確な防御で私の攻撃の全てを弾き飛ばしている。
確かに正確で高速な剣撃は攻めるのが非常に難しい。
しかし、それを対処する事は簡単だった。
「せいっ」
「っ!」
予想外な場所からの攻撃にアレイシアは一瞬だが、軸足が崩れているのがわかった。
その隙を狙って私は彼女を突き飛ばした。
「ひゃっ!」
そして、双剣の切っ先をアレイシアに突きつける。
「勝負あり、リーリアの勝ちです」
ユレイナはそう言って試合を止めた。
「……」
「まだその片足剣術には慣れていないようね。こうして一瞬で崩されるのだから」
以前のアレイシアほどに力があるわけではない。
今は片足しかまともに動かせないのだから当然だ。
「そうね。私に難しいのかもしれないわね」
地面に倒れたアレイシアはそう俯いた。
「だからアレイシアには……」
「軸足に意識し過ぎている」
「っ! エレイン?」
私がそう言おうとしたとき、エレイン様の声が聞こえた。
「訓練をしているとは薄々気付いていたのだがな。まさかこんな本気の訓練をしているとは思ってもいなかった」
「ごめんなさい、エレイン。でも今回だけだから」
「別に謝る必要はない。強くなりたいのは誰だって同じだからな」
そう言って彼はアレイシアの落とした剣を拾い上げた。
「確か、こんな構えだったな」
「……そう。それで上半身だけをうまく使って戦うのがフラドレッド流片足剣術よ」
「リーリア、さっきの攻撃をもう一度できるか?」
「さっきの攻撃、ですか?」
すると、エレインはそう言って私の方を向いた。
どうやらアレイシアの構えで私の攻撃を受け止めるというのだろうか。
しかし、片足だけに体の重心を預けている彼の構えは少しでも押したりすればすぐに倒れてしまいそうだ。
それほどに不安定なあの立ち方で私の攻撃を受け止めれるのだろうか。
「やってみます」
そう言って私は踏み出した。
二つの双剣から繰り出される二方向からの攻撃、防がなければエレイン様の首と横腹が斬り込まれてしまう。
キャリィィン!
耳を貫くような金属音が轟き、私の双剣の一つが切り上げられていた。
「え?」「っ!」
アレイシアと同時に私も呆気に取られてしまった。
「なかなかに扱いやすいな」
「今、何が起きたの?」
「アレイシアと同じ構えと抜刀術でリーリアの双剣を切り上げただけだ」
確かにそのようだった。
しかし、それだけではない。
私の軸も崩れていたのだ。当然、彼に追撃する意思があるのであれば私は完全に斬り倒されていた。
「それにしてもリーリアの体勢が崩れたのはどうして?」
「上半身の回転運動だ。攻撃を剣で受け止めるのではなく、そのエネルギーをうまく活用して戦うのが、フラドレッド流片足剣術なのだろう?」
「……正統後継者の私よりも知り尽くしているのね」
資料の少ない片足剣術を再度復元させたアレイシアもすごいのだが、それよりもエレインの方がすごいことがわかった。
「アレイシア、強くなりたいのなら一緒に訓練をしようか?」
「う、嬉しい提案ね」
そう言ってエレイン様はアレイシアに手を差し出して、立ち上がらせた。
アレイシアの力をうまく引き出させようとしたのだけど、エレインの方がよっぽどうまく引き出せそうだ。
やはり、エレイン様は本当にお強い方なのだと改めて確信したのであった。
こんにちは、結坂有です。
遅れて申し訳ないです。
次もなるべく早く出せるようにしたいです。
少ない資料から復元した片足剣術はそれなりにしっかりとしたものだったようですね。
あとはエレインと一緒にどこまで完成させることができるのか、気になるところです。
そして、アンドレイアとクロノスとの過去は一体何があったのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
感想などもTwitter等でコメントしてくれると励みになります。
Twitterではここで紹介しない情報や告知を発信したり、アンケート機能を使った企画なども考えていますのでフォローしてくれると助かります。
Twitter→@YuisakaYu




