計画は進行する
私、ミリシアとユウナは聖騎士団本部にて団長と話をしていた。
「団長、議会の議長が変わったというのはどういうことなの?」
そう、先ほどの報告で議会の議長が変わったと言っていた。
これは私たちの作戦に大きく支障をきたすものになりうるかもしれない。
「そのことについては俺も知らないんだ。ただ革新派の議員が議長になったとだけ知らされている」
「もっと詳しい情報はないの?」
「ユウナ、今日の夕方に議会へ行け。誰が議長となったのかを調べろ」
「わかりました」
議長が変わったという報告は受けているが、誰が任命されたのかは知らされていない。
普通議長が変わると二日ほど名前を公開するのに時間がかかる。
しかし、私たち聖騎士団は議会を崩壊させるために色々と作戦を組んできた。
そのため、二日も待っていられないのが現状なのだ。
「それにしても急よね」
「そうだな。この時期に議長が変わるなど今までなかったからな。俺たちもそれにうまく合わせる必要がありそうだ」
図書館で議会のことを色々と調べてみたが、確かにこの時期に変わるなどほとんど記載されていなかった。
「そうね。場合によっては作戦を手直ししないといけないからね」
「ああ、だがそこまで影響はないと思うがな」
「……団長、もしかしてだけど、私たちに何か隠していることあるのかしら」
「隠してなどいない。言っていなかっただけだ」
それを隠しているというのではないんだろうか。
「じゃ何なのよ」
「確か議会には精霊統合化計画と呼ばれる計画を進めていた時期があってな。それが中止となっていたんだ」
「精霊統合化?」
「簡単に言えば、精霊を完全に使役することができれば最強の国になると言った考えのもとで考案された計画だ。しかし、色々と問題点が浮上してきたから何年も前に中止となっていた」
確かに精霊は特殊な力を持っている。
それらを完全に使いこなし、軍事などに利用すれば強力な国家は作ることができるだろう。
ただ問題点は精霊の力を人間が使いこなせるかどうかだ。
あと精霊が反対すればそれは可能ではなくなる。
「そんな計画があったの?」
「特に目立ったこともしていなかったからな。それに書類もそこまで残っていたわけでもいないが、ただ……」
そこで団長は言葉を止めた。
「ただ?」
「そんなことを考えている議員が何人かいたはずだ。もし裏でその計画が進められていたら俺たちの邪魔になるかもしれないな」
「……思っていたよりも議会って複雑なのね」
聞いているだけでも派閥やら陰謀やらが出てくる。
そして、議会の議員だけでも色々と裏工作をしているようだし、思惑が折り重なっているのは確かだ。
おそらく内部でもどうなっているのかわかっていないはず、それを私たちが理解しろというのも無理な話だ。
「もともと理解するつもりもないがな。俺はそろそろ家に帰るとする」
「わかった」
そう言って団長は上着を着て団長室を後にした。
「私もそろそろ向かいますね」
すると、ユウナも立ち上がり部屋から出る。
どうやら議員の人と話をしなければいけないからだ。
「さて、私も夕食作ろうかな」
ユウナが帰ってくる頃には夕食が食べられるようにしたら喜ぶだろう。
それにもしエレインと一緒になった時はこうして帰りを待つのだってあるのかもしれない……
そう考えるとなぜか心臓がドキドキする。
ただの想像なのにどうしてこんなにも胸の高鳴りが抑えられないのか。
それなりに精神を落ち着かせるのは得意なはずなんだけど、不思議なものだ。
それからしばらく夕食を作って待っているとユウナが帰ってきた。
表情はいつも以上に深刻そうな顔をしていた。
「……どうしたの?」
「ミリシアさん、大変なことになってしまいました」
「どういうこと?」
私がそういうとユウナはゆっくりと椅子に座った。
「それが、革新派の人が先ほど行っていた精霊統合化計画を考案した人が議長となってしまったようです」
「え?」
「そうなんです。だから大変なことになってしまいました」
それならすぐにでも作戦を手直ししないといけない。
手直しするにはまず新しい情報を精査する必要がある。そのため、私はユウナから聞くことにした。
「わかった、それ以外の情報とかない?」
「えっと、それが……私たちが何かする前に計画が終わってしまうかもしれないみたいです」
私がそう聞くと、ユウナはさらに深刻そうな表情をして答えた。
「どういうこと?」
「もう明日にでも議会軍を動かして統合化に向けて活動を始めるそうです」
「ちょっと、それはいくら何でも早過ぎるわよ」
明日っていつ準備を進める時間があったの? もしかして裏でずっと前から動いていたというのだろうか。
いや、それにしても精霊と接触していれば嫌でもまだってしまうはず。
一体何年前からこの計画を実行しようとしていたのだろう。
「……もう計画は終わりに近づいているって言っていました。団長に言った方がいいですよね?」
「確か明日って言っていたわね。ユウナ、申し訳ないけれど今から団長のところに行ってそのことを伝えてくれる?」
「いいですけど、何をするのですか?」
「ちょっと考えがあるから……お願いできる?」
すると、ユウナは少し不安そうな顔をしながら軽く頷いた。
せっかく作った夕食だったけど、保存が効くから冷蔵庫に入れて保管することにした。
ユウナは団長のところへと向かい、私はある場所へと侵入することにした。
それは議会だ。
ここには何回か侵入して、色々と証拠集めをしてきたのだ。
侵入経路なども全て知り尽くしている。
「さて、議会の資料室についたけど……」
夜の議会は警備が強化されている。
当然、普通なら見つかってしまうのだが、私は特殊な訓練を受けてきた。
あの程度の警備なら簡単にすり抜けることができる。
この資料室にも何度かきたことがあったが、それは議員の個人情報を得るためであってこうして議会の記録を調査するためではなかったな。
「新しい棚?」
資料室をざっと見渡していると、新しい棚が追加されていることに気がついた。
どうやら精霊統合化計画の細かい資料が保存されている棚のようだ。
「えっと、一番古い資料は……って十五年前?」
古い資料を確認すると、十五年も前からこの計画は実行に移されているようであった。
どうやらザエラ議員って人がこの計画を考案していたみたいだ。
「ザエラ議員ってユウナが調べている議員と同じ党派だったはず」
そう、この計画は明らかに精霊統合化計画を実行しようとしている証拠だ。
そして、今起きていることは議長の座を手に入れて本格的に計画を開始しようとしているのだ。
十五年もの間ずっとこの計画のために裏工作を始めていたのなら、明日にでも計画を実行することができるのも頷ける。
それなら私たちもそれなりに動く必要があるだろう。
今考えられる案として、精霊にこのことを伝える。
伝えたところでどうなるのかわからないが、精霊にこのことを伝えたら何かしらの抵抗はするはず。
少しでも時間稼ぎはなる。
時間さえどうにかできれば、こちらも作戦を考えてその計画を阻止することもできる。
「この資料を何冊か使ったら阻止できるかも……」
私はその資料を何冊か鞄に入れて、その資料室から出ることにした。
もちろん、私はそのまま本部に戻るようなことはしない。
気づかれたら本部に議員がやってくるかもしれないからだ。
明日の夕方まで見つかるわけにはいかない。
だから、私はその資料を持って精霊の泉へと走るのであった。
こんにちは、結坂有です。
どうやら議長が変わったことでずっと計画されていた精霊統合化計画が本格的に動き始めたようです。
それを阻止するためにもミリシアは作戦を考えました。
果たしてそれはうまくいくのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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