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任務と犠牲

 男性に案内された部屋に三人が入る。

 そこには巨大なモニターとホログラムで地形が立体的に表示されている机がある。

 すると、男性はモニターに触れて任務内容を表示する。


「輸送してもらう聖剣の名は”アンドレイア”非常に強力な武器です。エルラトラムの情報によれば大聖剣に位置付けられていた」

「位置付けられていた、過去形ですね」


 ミリシアがそう言う。

 男性も軽くうなずき肯定する。


「この聖剣に宿っている精霊は精霊族の掟を破ったために追放された身だそうです」

「ですが、追放された精霊はすぐに存在を失うのではないでしょうか」


 アレクも聖剣についての知識はある程度は知っている。


「普通の精霊は追放された時点で死と同じですが、この精霊は非常に強い存在力を持っています。その存在力は追放されても精霊として在り続けることができるのです」


 精霊にとって存在力と言うのは人間で言う生命力と同じだ。

 精霊族はエルラトラムによって保護されているが、精霊族も人間同様それぞれ自我を持っている。そのために掟を破ってしまう精霊もいる。


 掟を破った精霊は罪の大きさにもよるが、最悪追放ということもある。もちろん追放はそのまま死を意味している。

 ただ、追放されても自身の強い存在力で精霊として在り続ける精霊がいるのもまた事実で、そのような精霊が宿った聖剣を”魔剣”と呼んでいる。


「追放される前は大聖剣だったんだろ? 強そうじゃねぇか」

「ええ、その通りです」


 続けて男性は地形が表示されているところを指差した。


「その聖剣、ここでは魔剣と言いましょう。それがあるのはこの山脈地帯にある洞窟です」


 そう言ってホログラムが動いて、洞窟へと切り替わる。


「この洞窟の奥にその魔剣があるとの情報です。それをなんとしても輸送してきてください」

「このあたりって魔族がいそうね」


 地図を見ているミリシアがそう言う。確かにこの場所はどこの国にも管理されていない場所で、魔族がいる可能性がある。


「ええ、ですがその可能性が低いと思われます。魔族は最近動きを見せていません」

「この洞窟は戦略的に優位な場所です。魔族がいた場合はどうすればいいでしょうか」

「その場合は中止、という判断でいいでしょう」


 ミリシアの鋭い指摘に男性は驚く。

 セルバン帝国上層部でもそのような魔族がいるなどと考えていなかったからだ。もちろん留意していなかったわけではないが、可能性が低い、というだけでその対処を考えていなかったということだ。


「わかりました。それでいいです」

「では、至急任務に取りかかってください。装備は奥にある倉庫から好きなだけ使ってもいいです」


 すると、男性はその部屋から出て行った。


「初任務がこれとは、かなりハードだね」

「なんだろうがいいけどよ。せっかくの初陣なんだ、成功させてやるよ」

「その心意気が続くといいけどね」


 アレクはそう言うのには理由があった。この山脈地帯は非常に高度が高く、気温が氷点下になることがあるそうだ。そんな環境での洞窟探索は体力を酷く消耗するのは目に見えてわかることだ。


「装備は好きなだけっつったよな。遠慮なく使わせてもらおうぜ」

「と言っても多く持ちすぎると逆にリスクになるよ」


 ミリシアがそう引き止める。


「そうだね。むやみに持っていくのはよくないね」


 アレクもそう続いて言う。

 装備をたくさん持っていくと言うのはもちろん重量が重くなると言うことだ。場所はこの帝国から数十キロ離れた場所にあるため、あまり多く持ちすぎると到着までに体力がなくなってしまう可能性がある。


「そうかよ。だったらどうするんだ」


 そう言うと、ミリシアがモニターを操作して必要最低限の装備をリストにしてまとめ上げる。


「そんだけでいいのかよ。薪とか暖をとる物があった方がいいだろ?」

「いいえ、これだけで十分。暖を取るための薪なんかは道中で拾えばいいだけだからね」

「確かに必要ないといえば必要ないか」

「アレクもそう言うなら従うぜ。とりあえずそのリスト通りに持ってくるよ」


 そう言ってレイは奥の倉庫へと向かった。


「一人じゃ危ないよ」


 そう言ってアレクも向かう。

 ミリシアは二人を見送った後、進行ルートを決めるために地図を確認していた。

 そんな時、ミリシアの脳裏を過ぎったのはエレインだった。

 彼が今どんな試練を受けているのか、無事に合格したのか。そのようなことがずっと引っかかっていたのであった。




「よし、こんだけでいいんだったよな」


 レイとアレクがミリシアの書いたリスト通りに持ってきた。

 ミリシアが装備を確認する。


「うん、大丈夫だよ」


 ミリシアはそう確認する。


「あの人、至急って言ってたよね。今からのほうがいいのかな」

「確かにその方が良さそうだね」

「じゃ、ちょっと待ってね。地図覚えるから」

「印刷できんじゃねぇのか?」


 レイがそう言う。しかし、それをミリシアが止める。


「必要最低限、わかった?」

「地図ぐらい重量にならねぇよ」

「レイ、この任務は極秘だよ。記録に残るようなものは持っていけない」


 アレクはそう言った。事実、男性ははじめに任務をいう時に極秘任務と言っていた。


「そうだったか……」


 レイも理解し出したのか、印刷しようとする手を止める。

 しばらくして、ミリシアが地図を完璧に暗記した。

 数十キロもの地図を暗記できるのはこの三人でミリシアぐらいだ。


「じゃ、いこか」

「そうだね」

「おう」


 そうして三人は施設の外へ出た。

 施設の外に出るのは生まれて初めての経験だ。地下施設でも擬似的に太陽を作り出していた天井があったが、やはり本物の太陽は強烈に眩しいものだ。


「眩しいな」

「目が慣れるまで時間かかるかもね」


 そうして帝国の城壁を抜け、山脈へと歩み出す。


 馬を使うこともできたが、後々に荷物になると考えそれを使うのをやめた。

 十数キロ先の目標に徒歩で行くには、常人なら二日はかかる。しかし、この三人にはその常識はない。

 何キロだろうと一日以内に辿り着けれるよう幼少の頃から厳しいトレーニングを続けていた。

 日が暮れてすぐの頃、三人は洞窟の前に到着した。


「さみぃな」


 レイが肩を摩りながらいう。


「そうね。でも防寒着だけで十分だったでしょ?」

「確かにな」

「さぁ入ろうか。洞窟の中は寒風(さむかぜ)にさらされることはないよ」

「ああ、早く入ろうぜ」


 そう言って三人は洞窟の中に入った。

 かなり深い洞窟のようですぐには全容ははっきりしない。


「この奥だったよな」

「うん、そうだね。正確な場所まではわからないけど」


 アレクがそう言いながら松明に火をつける。この松明は道中で枝木を素材にして作ったものだ。だが、これも一つだけ、アレクが持っているものだけだ。


「奥まで行こうか」

「レイ、離れないようにね」

「わかってるって」


 そう言ってアレクを先頭に洞窟を進んでいく。


「にしてもこの洞窟、歩きやすいよな」

「壁の様子からして、前に人工的に広げられているみたいだし」


 ミリシアが壁を触ってそういう。

 壁には削られ広げられた形跡があった。


「記録には詳細は載っていなかったけど、聖剣があるってことは人がいたんだろうね」


 三人はさらに奥へ進んでいく。

 冷たい空気と先の見えない暗闇の中、一歩一歩慎重に進んでいく。


「しっ!」


 するとアレクが三人を止める。


「どうした?」


 レイが小声でそう問いかける。


「何か、奥にいる」

「確かに奥の方が光ってるね」


 ミリシアがそういうとレイも奥の方を見た。

 微かに光っている。そしてゆらりと動いていることから松明ではなく焚き火をしていると考えられる。


「とりあえず松明を仕舞おうか」


 アレクが松明の火を消した。


「どうする? 確かめてみるか?」

「いや、とりあえず様子見だ」

「うん、下手に動くと危険だしね」


 暗くそこまで広いわけではないこの洞窟での戦闘は危険だ。混戦になる可能性がある。

 三人は明かりがある場所に少し近づいて様子を見ることにした。

 しばらくすると、動きがあった。


「あれ、人間に見える?」


 灯りの影、微かに動いている影はとてもではないが人間の姿ではない。背中からはトゲのような物が生えているのがはっきりとわかる。

 そして人体的に不自然に隆起した筋肉はその異常性を物語っている。


「魔族、だね」


 当然三人は本物の魔族を見たことがない。モニターで表示されている映像と本に載っている写真程度でしか見たことがないのだ。


「一体か?」

「そのようだね。ミリシア、どうする?」


 ミリシアは少し考える。


「一体だけならどうにかなるかな。ごめん、私わからなくて」


 初めての相手だ。一体であれば三人がかりでなんとか封じ込められるかもしれない。しかし、完全に殺すことができない以上そんなリスクを冒したくない。


「このための大剣だ。治癒力があろうとも大きな物で殴れば意識ぐらいは刈り取れるだろ」

「まさか、持ってきたの?」

「悪いか?」


 どうやらレイは大剣を荷物の中にうまく隠していたようだ。


「こうなった以上問題なさそうね。行きましょうか」


 そういうと、レイは勢いよく駆け出し魔族に大剣を振るう。

 完全に意識外からの強烈な攻撃を受けた魔族は意識を失った。しかし、命まではやはり奪えないようだ。


「すごい音したけど、大丈夫そうね」

「ああ、とりあえず行ってみるか」


 すると、焚き火が燃えている場所には真っ黒に染まった剣が置かれていた。


「あれが聖剣か?」


 レイがそう言って、手に取る。

 しかし、鞘から抜くことができない。


「抜けねぇぞ」

「レイにはそれを引き抜く資格がないってことだね」

「んだよ、それ」


 そう言ってレイは剣をケースに仕舞う。


「目的のものは手に入れたね。帰還しようか」

「!!」


 帰ろうとした途端、魔族が起き上がった。


「こいつ!」


 しかし、すでに目が覚めてしまっている魔族はレイの大剣を簡単に腕で掴み止める。


「嘘だろ!」


 レイと魔族の力試しになっている。


「おい! お前ら逃げろ!」

「でも!」


 ミリシアがそういうと、レイは魔族を蹴り飛ばし聖剣を投げる。


「俺はこいつを止めておく、その聖剣を持って洞窟を出ろ」

「レイはどうするんだよ?」

「ここで武器を持っているのは俺だけだ。さっさと行け!」


 アレクは少し考えたが、聖剣を持っているミリシアの手を握って走り出した。


 勢いよく走り出した二人は洞窟を出た。

 振り返ってみるが、レイはもういない。


「ごめんなさい。私が倒せるかもって言ったせいで」

「それなら僕も止めるべきだった。責任は僕にもある」


 アレクは血が滲むほどに拳を握り込んでいた。

 それを見ていたミリシアは口を閉ざした。


「……任務、遂行しよう」


 アレクは沈黙を破りそう言って、帝国への帰路に着いた。


「うん、そうだね」


 ミリシアもそれに続くようにアレクの後を歩く。



 二人は真っ暗な山道を黙々と歩き続けた。

こんにちは、結坂有です。


大きな犠牲を払って手に入れたこの魔剣はいったいどう言ったものなのでしょうか。

少し雲行きが怪しくなってきましたね。


それでは次回もお楽しみに。

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