学院生活へと戻る
議会が襲撃されてから二日後、俺は普通に学院に向かっていた。
横にはリーリアとセシルがいる。
洗濯なども俺の家で済ませておいたため、寮へと戻る必要はなかったようだ。
「エレイン、そろそろ剣術競技に向けて訓練なんかもしないといけないわね」
「ああ、そうだな」
新しいパートナーとなってから俺とセシルは一度も訓練をしていない。
学院外で何度か共闘する事はあったが、それも連携をした戦いではないからな。
まぁお互いにある程度戦い方が理解できてきた頃だろうし、そろそろ連携を意識した練習などもした方が良さそうだ。
「じゃ練習した後に精霊の泉に向かうことにするわ」
「わかった」
放課後に練習してそれから精霊の泉で自分の剣の精霊と対話を試みるようだ。
まぁ早く終わらせるに越した事はないが、そう簡単にはいきそうにないだろう。
「今日は来ないのですよね?」
リーリアはセシルを細い目で見つめながら、そう確認した。
「行ってもいいのかしら」
「いいえ、ダメです」
「そう、まぁ私もやることあるし生徒に見られでもしたら厄介だからね。今日は行かないわ」
「……今日は、という事はまた近いうちに来るという事ですね」
彼女ががそう解釈すると、それを肯定するようにセシルは頷いた。
すると、彼女はムッとした表情で俺を見つめる。
「やはり、セシルは危険な人です」
「別に俺のパートナーなんだから気にする事はないだろう」
俺がそういうとセシルは赤くした顔を背けた。
「な、なんか恋人みたいじゃない……」
「そう言った意図はないんだがな」
こうして誤解というものが生まれていくんだろうな。
彼女とは今後の良好な関係を築きたいと思っている。ここで変な気を使わせてしまうのは良くないだろう。
俺も気をつける必要がありそうだ。
それから教室に入ると、いつものように突き刺すような視線が俺を襲う。
こう言った視線は避けたいところだ。
この視線に紛れて誰かが敵意を向けてきてたとしたら俺でも気付かないかもしれないからな。
「毎日毎日と飽きないのかしらね」
「悪目立ちしてるのは変わりないからな。仕方のないことだろう」
「……エレイン様、大丈夫なのですか?」
俺が嫌そうな顔をしているとリーリアが心配して声をかけてきてくれた。
「ああ、大丈夫だ」
「そうですか。もし何かありましたらすぐにお声掛けください。私が何とかしてみせます」
おそらく魔剣の精神支配を利用するのだろうな。
対してここの学生は悪くはない。誰も悪いわけではないのだ。
「心強いが、別にそこまでしなくてもいい」
「……はい。では後ろで見ていますね」
そう言って彼女は教室の後ろへと向かった。
「彼女も大変なのね」
セシルはリーリアの方を見てそう呟いた。
確かに俺のメイドとして、そして公正騎士として側にずっといるのだからな。
精神的に疲れて当然だろう。
「ずっと俺のそばにいるわけだからな」
「多分、それに関しては疲れていないと思うけど……」
「そう見えるか?」
「彼女はエレインに対して少し心配性なところがあるから、その点で気疲れしてないかなと思っただけよ」
そう言ってセシルは自分の席に向かった。
俺の側にいることで自分の時間を作れないというのはストレスにならないというのだろうか。
俺は人のことについてまだまだ理解できていないようだ。
自分の席に着くと隣の席に座っているリンネもジト目で俺の方を向いてくる。
これも恒例のことだ。
「何だ」
「美人に囲まれて注目の的ね」
「……みんなそのことで視線を向けてくるのか?」
俺がそう聞くとリンネは視線を逸らして答えた。
「おそらく男子のほとんどは嫉妬だと思うけどね」
リンネはそういうと小さくため息をついた。
「どうしたんだ」
「いや、なかなか難しいと思っただけよ」
「何が難しいんだ?」
「乙女心のわからないエレインは気にしないの」
なるほど、女性特有の悩みということか。
まぁそう言ったことなら男の俺が深く首を突っ込む事はしない方がいいという事だろう。
誰も異性に特有の悩みなどあまり話したくはないはずだからな。
それから授業は普通に始まった。
今日は剣術の歴史を掘り下げていくようだ。
世界唯一の聖剣生産国としてエルラトラムは発展した。
その聖剣をうまく活用しようと世界各地からあらゆる武術を取り入れたようだ。
そして、その様々な武術を融合させ、進化させることであらゆる流派が生まれたようだ。
少なくとも授業ではそう教えている。
ただ、俺が知っている内容とは少し違った。
セルバン帝国の剣術を取り入れていると教師は言っていたが、帝国にはそのような事実はない。
門外不出といった形で国外に帝国独自の剣術は持ち出されていないはずだ。
そもそも、セルバン帝国は自国だけで発展してきた国で他国とはほとんど交流がなかったのだ。
まぁ歴史とはその国によって多少異なることがあるからな。
汎用剣術を見様見真似で研究したのかもしれないし、真実がどうだったのかはもうわからない。
「ふぅ、なかなか濃厚な授業だったね」
「そうだな。剣術の派生がここまであるとはな」
授業が終わると隣のリンネは机に突っ伏した。
黒板に描かれている派生だけで一〇〇近くは分岐したり、融合したりと繰り返しているようだ。
これほどに大きく分岐しては剣術も個性豊かなものになる上に新たな考えも生まれてくることだろう。
「それにしても、本当に最古の剣術なんだな」
黒板の一番端に書かれている二つの剣術、この国の特有の剣術だそうだ。
そこにはフェレントバーン流剣術とクレビスト流剣術が書かれており、それらに世界各地の剣術などを合わさったりした結果、今の一〇〇以上の剣術が生まれているようだ。
「当然でしょ。この国のほとんどの剣術は私の先祖が作った剣術が元祖なんだからね」
そう胸を張って自慢する彼女はどこか少女のように見えた。
確かに誇るべきことだと思う。
自分の家系を自慢できるというのは今後の将来を考えるときにも重要になってくるからな。
リンネは今よりももっと強くなることができるはずだ。
そんな会話をしていると、奥からアレイが近づいてきた。
「お姉ちゃん、そろそろ昼食に行こ?」
「うん、エレインも来なさいよ」
俺はリーリアに目で合図を取ってから食堂に行くことにした。
そういえば、初めて食堂を使うな。
今日もリーリアが弁当を持ってきているため食堂の料理を食べる事はないが、少し楽しみである。
俺が立ち上がるとリンネも一緒に立ち上がった。
「ちょっと、私も一緒にいいかしら」
「っ!」
アレイがビクッと肩を震わせた。
「あら、驚かせたのなら謝るわ」
「……いいえ、警戒していなかった私が悪いから」
「背後をとられるとは珍しいな」
彼女と一度剣を交えたことがあったが、音や空気の流れを感じて剣撃を読むと言っていた。
そんな彼女があのようなわかりやすい動きに驚くなどほとんどないように思えたのだがな。
「私も人間。一つのことに集中してたら周りが見えなくなるのは当然」
「エレインのこと、気になってるの?」
リンネがそう言ってジトッとアレイを見つめると、彼女の頬が次第に赤くなっていった。
「一度剣を交えたことがあったな。また今度軽く手合わせでもしようか?」
「……うん」
そういうとアレイは少しだけ肩を落とした。
俺のことが気になっているのではないのだろうか。
俺とて全てを理解しているわけではないからな、あまり深く考えない方がいいのかもしれない。
そして、俺たちは食堂に向かうことにした。
食堂ではリーリアと距離がいつも以上に近かったような気がしたが、気のせいだろう。
こんにちは、結坂有です。
新章では学院での対立を主体として進行します。
学院の学生には強力な剣士がまだまだいます。もちろんエレインのように実力を隠している生徒も多くいるようです。
そして、セシルとエレインはこれからどうなるのでしょうか。他の生徒たちとの関係も気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。
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