暗躍の実情
スミール特級剣士が拘束され、牢屋の方へと運ばれていった後、私たちはミリシアとリーリアとで話をすることにした。
もちろん、これからどうするかではあるのだが、敵がどう動いてくるのかわからない以上下手に行動することはできない。
今の状況として私たちはかなり不利な状況にあるのだ。
王国内はまだ混乱が落ち着いていない上、防衛力に関しても王女に擬態した魔族による大規模な編成により低下している。聖騎士団がいるとしてもその数は一小隊規模で多くはない。
万を超える数の魔族が近くに存在しているとして、今のこの王国ではそれらに対処することは不可能と言えるだろう。
そのことをミリシアとリーリアから説明を受けた。
「状況は整理できた?」
「……はい。かなり危険と言うことですね」
「厄介ではあるけれど、今は国内のことをどうにかするしかないわね。さっきの特級剣士のこともあるし」
そうミリシアが言うとジェビリー王女が申し訳なさそうに口を開いた。
「私たちの配下が無礼を働いたこと、正式に謝罪いたします」
「大きな誤解を与えてしまったのは私たちの落ち度でもあるわ」
「そうです。私も仕方のないことだったと思います」
私もそう本心を伝えることにした。
スミール特級剣士の事情を考えると確かに聖騎士団やエレイン様の行動に不信感を覚えるのは無理もないだろう。
彼にも人の話を聞かないと言う落ち度はあったものの、私たちの行動も内情を知らない人からすれば王国侵略に見えることだろう。
「……ですが、危害を加えたことには変わりありません」
そう言って彼女はもう一度頭を下げる。
事実として、スミールは私たちに刃を向け、聖剣の能力すらも使おうとしていた。そうなれば、怪我をするどころか死んでいた可能性だってあったわけだ。
ただ、そんなことを今考えている場合ではないだろう。大きな怪我をしているわけでもないのだから大した問題ではない。
「とりあえず、私たちとしてはこの国の防衛力の低下が問題だと思うの」
「それは私たちも懸念しているところです」
ミリシアがそう王女姉妹に伝えると彼女も同じく考えていたようだ。確かに防衛力の低下は誰が見てもわかるものだ。
対策としては警備隊や王国軍の編成を急ぐことが挙げられるが、喫緊でやらなければいけないことはやはり魔族の大軍にどう対応するかだ。少なくとも王国軍の編成と同時に考えていかなければいけない。
魔族の軍勢を率いる大将でも倒せたのなら話は早いのだが、そう簡単に解決できる問題ではない。それはエレイン様もよく分かっていることだ。
「少なくとも今は聖騎士団と連携して防衛力を上げなければいけません。そのための支援は私がエルラトラム議会に協議を持ち掛けようと思います」
「……ラフィン、ありがとう」
ラフィンがそう提案する。確かにエルラトラムと協力すれば王国の防衛力の底上げは容易に進むことだろう。加えて、国内の混乱についても円滑に収束していくとも考えられる。
スミールのように誤解する人もいるが、その点に関しては時間が解決していくはずだ。大事なのは防衛力が下がること、そして魔族が再度また侵入しないようにすることだ。
「ところでミリシア様。この城の内部に関して何かわかりましたか?」
テラネアがミリシアにそう質問した。彼女はリーリアと協力して城内部の調査をしていた。聖騎士団や小さき盾の情報を裏で取引したと言う人物の捜索も兼ねていたのだが、ここに来たと言うことは何か進展があったのだろうか。
「ええ、そうね。聖騎士団を一人拘束したわ」
「私の魔剣で彼が何らかの裏取引に関与していたことは確認しています。ただ、これは私のミスなのですが、気を失っている状態です」
「まぁ目が覚めたら尋問をするのだけど」
この二人なら何とか情報を聞き出すことができそうだ。私たちもこれ以上この件に関して協力できることはないだろう。
「……それで次のお願いなんだけど、聞いてくれるかしら?」
そう考えた直後、ミリシアが口を開いた。
「何でしょうか」
「城内部のことは私たちが解決するわ。あなたたちには外部の、それも王城のことを調査していた集団のことを調べて欲しいの」
「アギスやクラーナの組織のことですか?」
「ええ、彼ら自体に大きな問題はなさそうだけど、おそらく悪用されそうな感じがするのよね」
話に聞いた程度だが、その組織は市民団体のようで王家が隠蔽工作をしていたことを突き止め、それを民衆に流布していたようだ。
市民からは厄介者扱いされていたとはいえ、隠蔽したとされる情報を広めたと言う点ではそれなりに優秀な組織なのかもしれない。
それでも市民団体と言う域である以上、何者かが彼らを利用しようとするのは自然の流れではあるか。
「わかりました。具体的には何を探ればいいのでしょうか」
「そうね。組織の動向について調べてほしいの。特に魔族と関係がありそうなら、すぐに私たちに報告して」
「報告だけですか?」
「ええ、相手が魔族なのだとしたらいくらあなたたちでも分不相応でしょう?」
ミリシアの言う通り聖剣のない私たちが魔族と真っ向から勝負するのは自殺行為と言える。何か悪意があるのならそれをすぐにでも阻止したいところだが、無駄死には避けるべきだ。
「確かにそうですね。ですが、エレイン様にも相談してからで大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。彼も城の外で何かを情報を持ってくることだろうし」
そういえば、エレイン様は城の外を調査するとアレクたちと出て行ったきりだ。帰りが遅いことから心配ではあるものの、何らかの情報を得ているとも考えられる。
それに私が最強と思えるあの人がそう簡単に負けたり死ぬことはない。微弱ではあるものの、まだエレイン様の発する神の力も消えているわけではないのだから。
◆◆◆
あいつ、アロットはヘマをして勝手に死んだ。
大軍勢を他所にエレインを殺そうとしたからだ。
だが、それは大した問題ではない。能力持ちが死んだとはいえ、覚醒したての素人だ。そもそも、あいつは感情で行動することの多い性格だった。
遅かれ早かれ、役立たずとして死んでいくのは目に見えていたからな。
それに、あいつが死んでくれたおかげでこの大軍勢の指揮権も手に入れることができた。
俺個人でここまでの軍勢を作り上げることは無理だったが、飛んだ置き土産を手に入れたものだ。
これだけの軍勢ならエレインとか言う人間をなぶり殺すことができるはずだ。
三皇帝からは奴を殺したとて何の懸賞も出てないみたいだが、そんなことは関係ない。魔帝を封じることのできる人間を殺したとなれば、少なからずなんらかの報酬はあるだろう。
この俺が最上役職に就くのも時間の問題だ。あのゼイガイアと並ぶことができれば、誰も俺に反論できやしない。
その地位があれば俺は、デネレス・アミラデョスは最強になれるのだ。
奴らの動きを知るために聖騎士団の連中とも取引をしたばかりだ。得られた情報は少なかったが、動きを知るには十分だった。ただ、一つ懸念があるとすれば、やはり聖騎士団と言う軍勢だ。
小隊規模とはいえ、選抜組と言われている連中だそうだ。下手をすれば俺もアロットと同じく殺されてしまうだろうな。
だが、今回は人間の撲滅ではなくエレインの殺害だ。数いる聖剣士の中の一人を殺すなど、これほどの軍勢があれば造作もない。加えて、覚醒こそしていないが能力持ちも用意している。
うまく軍勢を動かし、エレインと一騎打ちに持ち込めば俺は勝てる。そのために無理をして覚醒までしたんだ。
滅虚術、特定の空間を消し去ることのできる俺の能力は奴の”滅却”と同等のはず。俺の間合いにさえ入れば十分に勝機はある。
人間如きが、魔族である俺に勝てるなど不可能なのだ。ましてや、この俺は正式な継承者、神を喰らったわけではないが、能力を引き継いだ身。奴に負けるなどと想像することすら難しいのだからな。
俺が魔族を仕切るのも時間の問題、そして人間を完全に奴隷化して魔族を繁栄させる。それが俺がなすべき使命なのだ。
こんにちは、結坂有です。
大変公開が遅くなってしまいましたが、読んでいただけると嬉しいです。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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