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惑わす存在

 俺、エレインは小さき盾の部屋へと向かった。

 部屋の中ではどうやら城周辺での動きに関しての情報が描かれていた。

 もちろん、城内部から外の状況を全て把握することは難しい。おそらくはアレクが音などを頼りに周囲を観察した情報などが壁に貼られている地図に書かれているのだろう。

 外の状況だけでなく、どこに警備隊の部屋があるか、どのような配置になっているかも書かれている。

 ここまで詳細に書かれていると自分たちの弱点までもよくわかる。自分たちが相手の立場となって考えて相手の動きを予測するには十分過ぎる資料とでも言える。


「僕たちは偵察している相手の正体に関しては深く考えていないよ。問題なのは、ここが詮索されることではないからね」

「ああ、問題なのは次の行動だろう」

「うん。相手はすでに動いていると思うけどね」

「それで、どう動くかは考えているのか?」


 俺はそう彼にこれからの動きに関して聞いてみることにした。彼としてはこのまま沈黙を続けると言う選択肢はないのだろうからな。


「そうだね。僕とエレインとで外に出る。リーリアさんはミリシアたちと共に内部の調査を頼みたい」

「内部の調査、ですか?」

「そうだね。さっきリーリアさんの言っていた裏取引に関して調べて欲しいんだ。考えてみたんだが、この偵察はどうも聖騎士団が情報を漏らしているとみていいだろうね」


 どうやらリーリアも何らかの情報を掴んでいたらしい。俺がメフィナたちの部隊と合流している時にでも調べていたのかもしれない。

 それにしても、聖騎士団が裏取引とはな。

 ミリシアやアレクの言動がするにアドリスが主導しているわけではなさそうだが、あまり無視できるものでもないのは確かだ。


「メフィナ、どうしたい?」


 俺は横に立っている彼女にそう質問した。

 正直なところ、聖騎士団の裏取引に関して気になるところではあるが、その点は彼女の意思を汲んでやりたいところだ。


「私が決めてもよろしいのでしょうか」

「ああ、好きにしていい」

「でしたら、私とテラネアは聖騎士団の裏取引について調べることにします。それと、王女二人のことも気になります」

「……本心か?」

「え? そうですけど」

「なるほど、それなら問題ない」


 勝手に俺が協力を依頼しているわけだからな。彼女の好きな方を、と思っていた。しかし、それはどうやら杞憂に終わったようだ。

 それなら、アイリスが俺に付いてくることになるだろう。


「ラクア、パルルの保護をお願いしてもいいか」

「私が?」

「ああ、できるだろう」

「いいけど、私なんかでいいの?」

「体裁として、誰かの側にいた方が彼女としても安心できるだろう。魔族と言う身なのだからな」

「わかったわ」


 これで采配は終わった。あとは、アレクの指示通りに動くことができればの話だがな。


「じゃ、それで行こうか。エレイン、アイリス。僕に付いてきて」

「ああ」

「わかりました」


 それから俺はアレクと共に隠れ城の外に向かうことにした。

 部屋の中ではリーリアとミリシアがどう聖騎士団に探りを入れるか話し合っているようだ。


 外に出る扉の前で、アレクは一旦立ち止まって俺の方を向いた。


「僕は苦手だからやめておくけれど、エレインはできるよね」

「外の様子を調べて欲しいんだな?」

「うん」


 それから俺はゆっくりと目を閉じて、外の様子へと集中する。

 視界に入る範囲では人はいないようだ。心音に関しても今のところ聞こえる範囲ではいない。


「大丈夫そうだ」

「わかった。じゃ外に出ようか」


 そう言って彼は聖剣を引き抜いてから扉を開けた。

 外に出てみるとやはり目に見える範囲では誰もいないようだ。しかし、それはどこか奇妙な印象でもある。


「お兄様、妙ではありませんか?」

「そうだな」

「動物すらもいないなんてね」


 この城は森林の奥深くに位置している。当然ながら、周囲は自然に囲まれており、動物などがいてもおかしくはない。

 だが、外に出てみてもやはり動物がいる様子はない。小鳥すらもいないのだ。


「何かの罠のように感じますが、どうしますか?」

「俺はこのまま進んでも問題はない」

「僕も問題はないよ。罠だと分かってても行こうか」


 アレクならそう言うと思っていた。

 彼は地下訓練施設にいた時とは大きく変わり始めているように感じる。当時はもっと慎重に行動する人間だったように思えた。

 帝国でどのようなことがあったのかは俺は聞いていないものの、そこでの出来事が彼を大きく変えたのだろうと思っている。それだけでなく、彼は俺の知らない技術まで開拓しているようだ。

 ミリシアやアレクはこれからももっと成長するはずだ。果たして、俺はどうだろうか。


 城から離れてその動物のいない森の中へと入っていく。

 もちろん、危険だと言うことは承知の上だ。それでもやらなければいけないことには変わりない。

 この程度のことで時間をかけられるほど、今の俺たちには余裕がない。魔族の軍勢のこともあるからな。


「お兄様、影が動きました」

「人か?」

「そのようです。ただ、すぐに攻撃してくる様子は……」


 アイリスに喋らないよう俺が合図を出す。

 見られている気配がするが、気のせいなのだろうか。


「何か……」

「ルージュ、なのか」

「はぁ、これでも気付くわけ?」


 そう言って出てきたのは特徴的な先端にかけて薄くなっていく赤い髪をした人形の魔族、ルージュであった。

 確か彼女は鍵のある部屋に閉じ込めていたはずなのだが、どうしてここにいるのだろうか。まさか脱走したと言うわけではないだろう。


「警備を潜り抜けてきたのか」

「ふふっ、あの程度の警備、私なら簡単に突破できるわ。でも、あなたたちに見つかるのは驚きね」

「その割には落ち着いているように見えるけれどね」


 アレクの言うように今の彼女は非常に落ち着いている。脱走がバレたのなら、普通慌てると思うのだがな。どうやらそう言うわけではなさそうだ。


「エレイン、どうする?」

「……抜け出してきたと思ったが、そうではないのだろう」

「へぇ、何でそう言い切れるの?」

「アイリスの影操で見つからなかった。今のルージュには影がないのだろう?」

「お兄様、それは……」

「目的は何だ。俺たちの偵察か? それとも観察しにきたのか?」


 彼女の目的は今のところ俺でも予想できない。リーリアの魔剣でもあまり掴みどころがなかったあたりから、明確に俺たちに敵意を向けているわけではないのだろう。ただ、完全に味方なのかと言われれば違うようではある。


「私が魔族に情報を漏らしていると、そう思わない?」

「悪いが、そう言うことをするとは思えない」

「魔族に対して、随分な信頼ね」

「違うのか?」

「ええ、エレインの言う通りよ。私も外のこの異変が気になってね」


 どうやらそれが本心なようだ。確かに彼女は気になることは自分で確かめるようなそんな性格をしている。

 だからジティーラを連れて俺たちのところに直接来たのだろう。魔族であるため、俺たちに姿を現すことは危険だ。それを分かった上で行動出来ると言うのは高い精神力を持っていると言わざるを得ない。


「エレイン、彼女も連れていくかい?」

「影である以上、俺たちに攻撃できない。好きにさせればいい」

「あら、信じてくれるの?」

「まぁな。もし俺たちに何かあれば、城の連中に連絡させることもできるだろう」


 もちろん、俺たち三人が窮地に陥るなんてことは余程のことがない限り起こり得ないことだろう。

 しかし、何事にも絶対と言うことがないように、予防線を敷いておくのは悪いことではない。

 それに彼女のことは信頼できる。今後、何かを頼むことがあるかもしれないな。


「私なんかにそんな重役を……」

「できないとは言わせないよ。脱走を計画したと僕が嘘を言えば、君はもっと不都合になるんじゃないかな」

「……脅迫がお上手なのね。エレインの仲間は酷い人ばかり」

「悪いね。僕たちも本気なんだ」


 彼は技術だけでなく、考え方に関しても変化してきていると感じる。いや、それは事実なのだろう。

 あの地下訓練施設では人に合わせ、上手く調和を取ると言った人間だった。嘘を言って人を陥れるなんて極端な脅しはしない性格だったのだが、どうやら性格面でも大きく変わったようだ。


「アイリス、話を止めて悪い。続けてくれないか?」

「攻撃してくる様子はありませんし、私たちから逃げるようにして移動して行きました」

「あぁあの人たちね」

「何か知ってるのか?」

「誰だったかしら。アギス、って言うのかしら」


 その名前は確か、ミリシアたちと協力していたと言っていた防壁警備隊の人の名前だ。

 俺も顔は見たことがあるが、一体どう言った人間なのかは詳しく知らない。

 ただ、協力関係である彼がなぜこの城を偵察しようなんて考えていたのだろうか。


「それは本当なのかい?」

「ええ、見間違えるはずがないわ」


 彼女も影を使ってこの国を偵察したことがあるのなら、彼の顔を知っていたとしてもおかしくはないか。

 しかし、それにしても彼がそんなことをするとは思えないのだが。


「お兄様、嫌な予感がしませんか?」

「そうかもしれないな」

「ま、どうなってるのか知らないけれど、別の何かがいるんじゃないの?」

「別の何か?」

「たとえば魔族の肩を持つ人間がいる、とか?」


 確かにその可能性は否定できないだろう。事実、防壁警備に当たっていた隊長は魔族と結託していたのだからな。

 そう考えてみれば、魔族はまた俺たちを撹乱してその隙に攻撃などを仕掛けるつもりなのだろうか。もしそうなら、詰めが甘いと言ったところだが、裏があるのならそれを考えなければいけない。


「そう言うルージュはどうなのかな? 僕たちの味方なのか、敵なのか」

「どっちでもないって言ったでしょ? まだ私の言葉を信じれないわけ?」

「アレクさん、待ってください。私はこの事に不安を覚えます」

「不安、かい?」

「はい。何か大きなものを失うような、そんな不安や恐怖と言ったものです」


 おそらく、アイリスの予想は当たっている。しかし、俺がそれに対して何もすることはできない。俺にも考えがあるからな。

 彼女には悪いことをするだろう。


「はぁ、予感とか直感とか、よくわかんないわね」

「ルージュ、他に見つけた人間はいないのか?」

「うーん、さあ。私も長く外にいたわけじゃないし」

「とりあえず、今は先に進むしかないか」


 アイリスの言っていた予感に関しては何も今のことではない。先の見えない未来のことではなく、集中するべきことは現在起きている謎の偵察隊のことだ。

 ルージュの話によると、アギスがここから立ち去るのを見たようだ。俺の知っている情報ではアギスが偵察する理由などないように思える。それなら、彼は何をしていたのか。

 おそらくは俺たちの知らない存在がいると言うことなのだろう。

こんにちは、結坂有です。


エレインたちや聖騎士団を惑わす謎の存在、気になるところですね。

もしかすると、魔族の新たな刺客なのかもしれません。これから物語は大きく変わっていくのでしょうか。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。

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