異なる勢力
俺、エレインはパルルとともに部屋にいた。
あまり気にしていなかったのだが、今日はなぜか外の様子がおかしいようだ。魔族特有うの不気味さはないものの、何者かがこの城を見張っているようなそんな気配すら感じる。
魔族でないのなら、俺たちがやれることは少ない。
今の俺たちは来訪者であるために王女の許可なしで勝手な行動はできない。もちろん、魔族絡みの問題であれば、聖騎士団の権限でなんとでもできるが、今回はそうではないからな。
しばらくは様子を伺うしかないだろう。
もし緊急なものであれば、ラフィン王女やジェビリー王女も俺たちの行動を許可してくれることだしな。
「……外が騒がしい気がします。何かあったのでしょうか」
「わからないな。この国は変革期にある。何者かがドルタナ王家を暴こうとしているのかもな」
「ここに来たばかりなので詳しくは知りませんが、大きな問題なのですか?」
確かにこの国に来たばかりの彼女からすれば、一体何が起きているのかわからないことだろうな。
しかし、それでもこの空気感が異質なものであるとは理解できているようだ。
「まぁそんなところだな。別に悪いことをしているわけではないが、目的がなんであれ秘密を詮索されると言うのはあまり気の良いものではない」
「そう、ですよね」
彼女もそのことはわかってくれたようだ。
相手が魔族でないと言うのは聖騎士団としては厄介な相手だからな。ただ、自分たちの実力だけで押し切ることができれば何も苦労しないのだが。
他国にいる以上、そんな無茶は許されない。
すると、扉がノックされる。
どうやらアイリスが来たようだ。
「お兄様、起きていますか?」
「ああ、入っても構わない」
「失礼します」
そう言って入ってきたのはアイリスとメフィナ、テラネアであった。
予想していたように、リーリアはこの異変に気づいて先に動いているようだ。おそらくはアレクたちとも連携していることだろう。
「お兄様、外の様子ですが……」
「何者かがこの城を調べているのか?」
「はい。遠目ではありますが、細かく調べているようです」
そもそも、この城は一般的に公開されているようなものでもない。それにここに来るには往生の地下を通ってくるのが一番楽だ。
森から侵入するにしても、普通であれば見つけ出すのは難しいだろう。ただでさえ、大量の木によって隠されているのだからな。
加えて林道から大きく外れた場所にある。
「警備隊は今はどうしているんだ?」
「外に出ないよう指示が出ていますが、私は影操で調べています」
まぁ影を使えば、気付かれることもないだろうな。
「その、エレイン様。私たちがここに来たことで問題が起きたのでしょうか」
そんな会話をしていると、メフィナがそう俺に聞いてきた。
彼女たちがここに来たせいで、問題が起きたと言うのだろうか。確かにその可能性も考えられなくはないが、別にこの城が公になったところでそれ自体そこまで問題があるわけではない。
一番の問題は、国内であらぬ噂が広まり混乱が生じることだ。
例えば、王家に秘密の館があり、そこで違法な何かをしていると言った噂が広まれば、この変革が無意味になる。
王家であるラフィン王女が始めた変革だからな。
「王家の隠れ城が公になったところで、大きな問題ではない。ここを拠点に聖騎士団が動いているのだ。いずれは見つかるものだった」
「……それならいいのですが、私は少し心配です」
「この城が調べられていること自体は気にするな。気にするべきなのは最悪な状況にならないことだな」
現状、魔族の動きはわからないが、この偵察が魔族の手先である場合、次なる攻撃が近いと言うことでもある。
その攻撃に俺たちの対応が遅れることがあってはならない。
最悪な状況と言うのは、魔族の大群がこの国に侵入してしまうことだ。おそらく次は容赦なく殺戮してくるだろう。
魔族も今更隠れるような真似はしないはずだ。
「お兄様、アレクさんのところへ向かわれますか?」
「そうだな。聖騎士団が動けない以上、俺たちはできることをやろうか」
「わかりました。では、向かいましょうか」
それから俺たちは小さき盾の集まる部屋へと向かうことにした。もちろん、パルルも一緒だ。
俺としても、この偵察に魔族が絡んでいるとは考えたくはないが、状況からして連中が絡んでいるのは確かと見ていい。
時期としては悪いとはいえ、そろそろ俺たちも攻撃に備えて本格的に動き出すべきだろう。
◆◆◆
私、リーリアはエレイン様の部屋には向かわず、小さき盾の集まる部屋へと向かっていた。
それはこの異変にどう対応するかを彼らに相談するためだ。
今朝、アイリス様が私の部屋に来た。部屋が隣と言うことで異変に真っ先に気付いた彼女はすぐに私に話をしに来たのだ。
そのまま彼女はエレイン様の部屋へと向かった。エレイン様のことは今はアイリス様に任せるとして、私は先に小さき盾と話しておくことがあった。
「リーリアです。話しておきたいことがあります」
私は扉をノックしてそういった。
すると、すぐに鍵が開いてミリシアが出てくれた。
「……話って、外でコソコソしてる人のこと?」
「それもありますが、聖騎士団のこともあります」
「うーん、わかった。入っていいわ」
そう言って彼女は扉を開けて、私を中に入れてくれた。
部屋の中へと入ると、そこにはこの城周辺の地図が壁に貼られており、そこには様々な情報が書かれていた。
おそらくはこの城に探りを入れている人たちのことなのかもしれない。
「このことは聖騎士団の……アドリスには……」
「秘密、ですね。私も詳しくは聞こうとしません」
「ええ、そうしてくれると助かるわ」
「それで、話があってここに来たんだよね?」
アレクが何かの資料を見ながら私に話しかけてきた。
外で偵察を続けている連中のこともあるが、私は聖騎士団のことで小さき盾に忠告しなければいけないことがあった。
「はい。聖騎士団のことで少しお話ししておきたいことがあります」
「……聖騎士団?」
「私の魔剣からの情報ですが、彼らは裏で何か取り引きのようなものをしているようです」
「取り引き?」
「そうです。それも王室とは関係のないものです」
それは聖騎士団の団員を調べた時にわかったものだ。
当然ながら、すでに取引があったと言うのはもう言うまでもないだろう。主導した人はわからないが、アドリスではないことは確認している。
「僕たちの情報を何者かに漏らしている可能性があるってことじゃない?」
すると、ラクアがそう私に聞いてきた。
具体的な取引内容はわからないものの、おそらくはこの城に関わる何かを漏らしたと考えられる。
とはいえ、聖騎士団が知っている情報などそこまで多くはない。エレイン様のことや小さき盾の人たちに関しては独立して動いているため、彼らが知る由はない。
「確かにそうですね。聖騎士団が直接不利になる情報ではないところを見るに、おそらくは王族に関する情報だと思われます」
「……それは少し厄介だね」
「団長、アドリスには伝えてあるの? それとも、彼が主導しているの?」
「わかりません。ただ、私の考えではありますが、そのようなことを彼がするとは考えられません」
理由はいくつかある。大きな理由の一つは私がその取引のことを話した時、彼は心から驚いていた様子だったのだ。
それに私の魔剣スレイルを騙せるほど強力と言う話は聞いたことがない。
何らかの手法で防いだ可能性もあるかもしれないが、私が質問したあの状況下でそれは難しい。
となると、彼はその取引に何ら関わりを持っていないのだろうと推測できる。
「今はリーリアの話を信じておくわ」
「まさか聖騎士団の中にそのような人がいるとはね。みんな一丸となっているわけではないと聞いていたけれど……」
「まだ敵対していると決まったわけではないよ。少なくとも何らかの取引があったと言うだけだ」
「隠すような取引なんて、悪いことのように聞こえるけれど?」
確かに私たちに隠れて取引をすること自体、悪いことなのかもしれない。しかし、一概に悪だと断言するのも、私の持つ情報だけではそう言えないものだ。
私たちや聖騎士団にとって利益となるようなことを裏で行なっていると言う可能性だってあるからだ。まぁそんなことを言ってみたところで、真実がどうなのかは全くわからない状況だ。
「今はそうね。目の前のことを片付けた方が良さそうね」
「聖騎士団の裏取引に関しては後々明らかになってくることでしょう。私たちはまず、目の前のことに集中しないといけません」
とりあえず、今集中するべきことはドルタナ王国に攻撃する準備をしている魔族に関してだ。
聖騎士団のことなど、後で調査することもできる。そのことはアドリスもよく理解していたのだろう。
「うん。だけど、僕たちに先に伝えてくれて助かったよ」
「……いえ、私はただその情報を知ってしまっただけです」
「それでも、ありがとう」
そう言って彼は頭を下げた。
私の情報が彼らにとってどれほどの意味があったのかは全くわからないものの、それでも重要な何かを考える材料にはなったことだろう。
そう、私たちが話を終えてからしばらくすると扉がノックされる。
「エレインが来たみたいだね。さて、僕たちも動こうか」
彼は私の方を向いてそう言うと扉を開けた。
そこにはエレイン様やパルルだけでなく、メフィナとテラネアの二人も来ていた。ここに来る途中にでも合流したのだろうか。
一体アレクたちが何を考えているのかは知らないが、動ける人は多い方がいい。
「そろそろ、動くのだろう?」
アレクの顔を見たエレイン様が確かめるように彼に質問する。
「うん。そうだね」
そう言ったアレクの表情はいつにも増して険しいものだった。
こんにちは、結坂有です。
外で何かが動き出しているようですが、ついにエレインたちも動き出すようですね。
隠れ城を詮索している人たちは一体何者なのでしょうか。本当に魔族の手先なのでしょうか。気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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