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議会は変わりたい

 朝食を食べた俺は自分の部屋でセシルとは話していた。


「エレイン、二人きりでってどういうこと?」


 彼女は顔を少し赤くしながら俺のベッドの上に座った。

 朝食の時に俺は話したいことがあるからと彼女を呼び出した。


「少し大切なことだ」

「っ! ……待って、心の準備がっ」

「いや、ただ今朝のことで話したいことがあってな」


 すると、彼女はむすっとした表情となり耳を赤くした。


「何よ」

「……精霊の倒し方なんだが、教えておくべきだと思ってな」


 俺はクロノスから聞いたために知っていたのだが、普通の人は知らないそうだ。


「彼らは不死身なんでしょ。それぐらい知ってるわよ」

「ああ、不死なのには変わりない。だが無力化することができる」


 魔剣であれば精霊を簡単に倒すことができるのだが、普通の聖剣であればそれはできない。

 せいぜい無力化ぐらいしかできないのだ。


「無力化って可能なの?」

「聖剣の力を支配することができればな。そのためには精霊と対話する必要がある」


 まず最初にするべきことは精霊に自分を認めさせる。

 資格と契約は全く別物で、資格がある人であれば聖剣は引き抜ける。

 しかし、本来の力を得るには契約を結ぶ必要がある。


 俺は幸いにもイレイラとは対話をしているから問題ないが、ほとんどの聖剣使いはそこまでできていないことが普通らしい。

 例に漏れず、セシルもまだ完全には契約ができていないようだ。

 魔剣との契約は血を使う必要があるが、聖剣とは対話をするだけでいい。


「対話って、普通はできないでしょ?」

「普通ならな。剣と対話するにはお互いの利益がなければいけない」

「利益?」

「精霊の掟では精霊と人間の双方に利益がある場合、直接の対話が許されているようだ」


 そのほかに俺が受けた無意識化での対話、つまり夢の中で対話したのだがな。あれは特別も特別だ。

 ありえないやり方だったのだ。


「なるほど、精霊の泉でってことよね」


 精霊の泉では双方に利益がある場合のみ精霊と対話することができると言われている。

 当然これも普通ではありえないのだがな。聖剣使いであれば可能なのかもしれない。


「対話して契約を結ぶ、簡単そうね」

「簡単にできればいいんだがな。なにぶん俺もその方法で契約を結んだことがないから分からない」

「え? 実験台になれってこと?」

「いや、それは違う。セシルには強くなって欲しいからな」


 俺がそういうとセシルは顔をうっすらと赤くした。


「私がもし最強になったらエレインはどう責任を取るのよ」

「……もしそうなったら俺が護衛騎士になろう」

「最強には最強の護衛が付くものね。ってなんか矛盾してない?」

「そうだな」


 確かにどっちが最強なのか分からないな。

 とにかく、セシルには強くなってもらって俺としては損はないからな。


 もし彼女が二本の聖剣と契約を結ぶことができればより強くなれる可能性がある。そして、今後の彼女との関係も大きく変わることだろう。


   ◆◆◆


 俺は革命派議員のザエラ議員だ。

 今朝の基地襲撃は驚いたが予定どおりにことが進んでいるようでよかった。

 議会軍に圧力をかけることは議会に危機感を煽るのにちょうどいいからな。もしこれが議長なんかにバレてしまったらどうなるか分かったことではない。

 とは言ってもだ。このままでは議会のやり方を止めることはできない。


 聖騎士団は魔族を刺激して議会に圧力をかけるつもりだろうが、俺はそんなやり方ではない。

 もっと強い相手、そう墜ちた精霊を使って議会を崩壊させる。

 もちろん、その精霊たちとは話を済ませている。

 精霊統合化計画に賛同する精霊たちだ。

 彼らは神樹に依存する生活をやめるべきだと考え、人間と対等な関係を結ぶべきだと考えている革新派だ。

 そして、今俺は議会に向かっていた。


「議長、今朝の議会軍襲撃は恐るべき事態です」

「それはわかっているがな。聖騎士団との関係もある。迂闊に動いてはならんだろう」


 議長はやはり頭が回る人だ。

 しかし、頭が回るからと言って賢いとはいえない。

 俺は彼の考えていることには反対だ。

 聖剣技術の独占、それが今の議会の最優先事項だ。

 確かに独占することで長期的な利益は大きい。

 ただ、それは利益があるというだけでそのほかはない。俺の精霊統合化計画はもっと素晴らしいものだ。


 世界の中心としてエルラトラムを偉大なものにする。

 聖剣大国から精霊使役国になることで世界のパワーバランスを我がものにする。

 当然、俺の計画に協力してくれる議員も多くおりこのまま順調に進めば議会は俺のものになるのだ。


「あなたには議長として相応しくない」

「っ!」


 そう発言したのは副議長だ。

 彼を味方にすることができたのは嬉しい誤算だった。

 これで議長の地位は不安定なものになった。


「副議長の言う通りです。あなたには物事を正しく判断し、決定する決断力にかけているように見えます」


 俺がそういうと味方ではない議員たちも軽くうなずいている。

 確かに危険な状態となった議会軍ではあるが、何も行動していない点に皆も不満を覚えていることだろう。

 それも当然だ。

 今聖騎士団と戦っている上に得体の知れないものと戦っているのだからな。

 この議会は不安に溢れている。


 議員というのはなんとも簡単なものだ。情報を流すだけですぐに疑心暗鬼になり、正しい判断ができなくなる。

 一つのデータでしか物事を知ることができない議員らにとって直接的な被害というのは最大の不安要素だからな。

 自分の地位や権力も危ぶまれるとなれば、今すぐにでも議長を引き摺り下ろし議会軍を動かすことで事の解決を急ぎたいはずだ。

 不安と恐怖は決断力を早めるが、間違った情報も信じ易くもなる。

 正しくそれらを制御することができれば、世の中を操るのは簡単だ。


「……議長の不信任決議をとりましょう」


 俺が副議長にそう提案する。

 すると、彼もうなずいた。


「では、不信任決議を行う。賛成の者は票を入れるように」

「くっ……ザエラめ」


 議長が怒りに満ちた表情で俺の方を見つめる。

 今まで俺の提案に断り続けてきたのだからな。こうなるのも必然と言えよう。

 そのまま決議は進められ、最終的には九割以上の票が集まり即座に議長の辞任が確定した。


「それで次の議長として副議長の私がなるわけだが、ここで一つ提案だ。ザエラ議員、あなたにこの地位を譲渡したい」

「構いません」

「他の議員も賛成ならその場で立って欲しい」


 すると、先ほど票を入れたのであろう九割程度の議員が起立し、俺が議長になることを賛成した。

 ここまで順調に進むと逆に不安になるのだが、何も不備はない。俺の計画に狂いはないはずだ。

 だから俺は堂々としていればいいだけなのだ。


「ザエラ!」


 すると、元議長が席を立ち俺を睨みつける。


「貴様、図りよったな!」

「一体何のことでしょう?」


 俺はここで知らぬ存ぜぬを通すことであとは宣言をすれば、議長となれる。


「貴様!」

「俺がこのエルラトラム議会の議長になる!」


 もう議長となったからには猫を被る必要はない。


「ザエラ議員に議長の座を譲渡しよう」


 そして、副議長の宣言によって俺にこの議会の全ての決定権を得ることができた。

 なにも恐ることはない。

 これからは精霊統合化計画の進行に拍車を掛けることもできる上に、不安要素を切り落とすこともできる。

 すでに議員の九割は俺の味方だ。

 しかし、元議長の信用も地に落ちたわけではない。


「そして、あんたの議員としての地位を剥奪する」


 俺がそういうと元議長は警備の人に議長の座から引き摺り下ろされた。


「触れるな! 自分で歩ける」

「さっさと出ていけ、老いぼれ」

「くっ! 貴様、許さんからな」

「ただの一般市民に何ができるっていうんだ? 連れて行け」


 俺は警備の人にそう言って元議長を議会から追い出した。

 当然、俺の豹変で一部の人に反感を買ったのは確かだろう。しかし、俺に逆らえばどうなるか、元議長を利用して見せつけた。

 議員としての高い地位を失う、これほどに議員を恐怖させるものはないからな。


 全ての情報は俺が握っている。

 その情報をうまく利用して、俺は議会すらも操ってみせた。

 あとは何の問題もなく事を進めるだけでいい。

 簡単な事だろう。議長としての権力があれば何でもできるのだからな。

こんにちは、結坂有です。


議会を牛耳っていた議長は引き摺り下ろされ、新しくザエラ議長が誕生しました。

彼は精霊統合化計画を実行に移すつもりのようです。果たしてこれから議会はどうなるのでしょうか。

そして、セシルは無事に精霊と対話し契約を結ぶことができるのか、気になるところですね。


情報は政治を動かす上で重要な要素となっています。

その情報は正しいものなのか、そうでないのか私たちは判断しなければいけません。

そうしなければ私たちはただ操られるだけの存在となってしまうのです。


これにてこの章は終わりとなります。

次章は学院に舞台を戻し、生徒同士の対立を主体として進めていきます。

それでは次回もお楽しみに。



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