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私が信じること

 私、メフィナは一度エレイン様と別れてテラネアのところへと戻ることにした。

 私の勝手ではないのだが、一人ここに残してきたのだからそのことを謝らなければいけない。


「ごめんなさい。私一人で帰ってしまって」

「いいのよ。まだ他の人からは信用されていないわけだしね」


 それが原因で、必ず戻ると言う保険として彼女を一人置いてきたのだ。

 そのためかエレイン様のメイドであるリーリアも納得してくれたことだ。当然ながら、戻ってこなければ、テラネアは即座に尋問の対象となることだろう。

 もちろんそんなことはさせないし、そもそも私たちにそんなことをする動機もない。

 私たちはエレイン様やアレク様たちに認めてもらい、彼らと一緒に行動を共にすることが目的なのだ。

 そして、今やエレイン様は神の力に覚醒している。もはや私たちが裏で動き回る必要などないと言うことだ。


「私がいない間、何か変わったことはありましたか?」

「特にないわ。ただ、気になるのはやはりまだ警戒されていると言う点ね」

「わかりました。その点に関しては今後の課題ですが、こればかりは時間が解決するのを待つしかありません」


 人同士の信頼と言うものはそう簡単に築き上げるものではない。そもそも私たちは彼らを騙してきた存在とでも言えるものだ。

 そんな私たちを彼らは信じれるわけがない。少なくとも私が逆の立場であれば、すぐには信用できない。


「それで、メフィナの方はどうだったの?」

「パルルさんを連れてきました。宝剣の方も明日には渡すことができそうです」

「でも、エレイン様が触れた時は呻いていたのよね?」

「そうですが、何か変化があると思います」


 精霊が魔族を嫌っていると言うのは知っている。

 とは言え、全ての精霊がそうと言うわけでもない。事実として、魔族の中に精霊を宿した剣を手にしている連中が存在するからだ。

 今のところ、そのような魔族とは出会っていないが、精霊の中にも魔族と共闘してもいいと考える者もいるのだろう。決して多くはないとは思うが。


「私たちとしてはこれからどうするべきか考えるべきね」

「はい。私はエレイン様の従者として役に立てるよう努力します。テラネアさんはどうするつもりなのですか?」

「私も、エレイン様に尽くすつもり」


 テラネアも私と同じく彼の従者となるべく訓練を受けてきた。

 彼女がそう言うのも当然と言えば当然だ。

 加えて、彼女の流派である翻然(ほんねん)無粋流は『相手をあるべき姿に翻す』という教訓がある。

 つまりは相手の本能を誘い出し、弱点を露呈させると言った流派だ。

 そして、この流派が大事にしているのは、本能こそがその者の真を表すと言われている。


「わかりました。従者として認められるよう共に頑張りましょう」

「ええ、私も頑張るよ」


 そう言った彼女はどこか自信のない表情をしていた。実力で言えば、十分ではあると思うのだが、どこか不安でもあるのだろうか。

 ともかく、私たちが一番信じなければいけないことは何よりも自分自身なのだから。


   ◆◆◆


 私、アレイシアは議長室で仕事を終えたところだ。

 隣にはレイが護衛として立っている。ユレイナは夕食などの準備のため先に家へと帰らせている。

 今日の仕事は基本的に内政に関わることだ。エルラトラムには多くの民がいる。彼らの生活を守るのも私たち議会の役割でもある。

 とは言え、多くの場合、議長である私は各地域から出る情報を聞く程度しかしていない。

 末端の仕事に関しては全て他の議員であったり、地方自治組織が対応している。

 私がやらなければいけないことは、情報の精査と認可ぐらいだ。


「今日の仕事はもう終わりよ。帰りましょうか」

「……確認書類ばかりで大変だな」

「議長になったからにはね。しないといけない仕事よ」


 もちろん、私が認可しなくとも自治組織は勝手に行動するだろうが、誰かが責任を持って監督しなければいけない。

 全ての事項に私は印を押しているわけではなく、必要性や重要性などを考え、議会の方針に沿ったもののみ認可している。

 多くは事務や他の専門部署が精査した上で私に送ってくるわけだけど、それでも認可できないものもある。


「少しは楽をさせたいもんだが……」

「いいのよ。あなたたちみたいに危険な場所で戦ってるわけじゃないからね」

「そうだけどよ」


 ここ数日、彼は私の業務をずっと見てきた。

 以前にもこうして私を護衛してくれていた時もあったが、やはり彼からしてみれば私の仕事は想像以上に難しいものなのだろう。


「こうして安心して業務に集中できるのも、レイの護衛があるからよ。気にしないでいいわ」


 それに、私はフラドレッド家としてこうした業務に近いことをしていた。

 聖騎士団に所属していたこともあり、大貴族として政治に関わることがあったのだ。慣れていると言えば慣れている仕事とも言える。


「それならいいんだが、無理はしてないんだな?」

「ええ、夜はしっかりと寝れてるわけだしね」

「そうか」


 小さき盾がドルタナ王国に向かっている以上、私の家は確かに自衛力が落ちているが、そもそも彼一人でも十分過ぎるぐらいだ。

 私も元聖騎士で剣を全く扱えないわけではない。


「肩を貸してくれるかしら?」

「ああ」


 私は彼の腕に掴まりゆっくりと立ち上がる。

 それと同時に杖を突いて、自分の態勢を整える。

 長時間座っているとどうしても足に力が入りづらいものだ。


「ありがとう」

「大したことねぇよ」

「じゃ、行きましょうか」


 それから私たちは議会を後にした。

 私が用意しろと言ったわけではなく、議員の人たちが好意で用意してくれている。

 馬車に乗り込むとすぐに出発する。

 家まではおよそ十数分ほどで到着する。あとは楽な姿勢で待つだけだ。


 しばらく進んでいると、レイが周囲を見渡した。


「どうかしたの?」

「いや、なんか……」


 彼がそう言った途端、馬車の動きが止まった。

 家に着いたにしては少し早いような気がする。

 すると、御者の人が私たちに話しかけてくる。


「妙な三人組が道を邪魔して通れません」

「……引き返してくれるかしら?」

「無理そうだな。後ろにも二人いやがる」


 レイの言葉通り、後ろの窓を見てみると確かに二人が立っていた。武装しているようには見えないが、大きめのローブを着ているため油断はできない。

 私の帰宅経路は日々変えているのだが、反乱因子に目を付けられている以上こうなるのも時間の問題だったのだろう。

 加えて、議会の諜報部隊を使って調査をしていたものの、規模があまりにも小さいために難航していると聞いていた。野放しになっていたと慣れば、仕方のない結果と言える。


「……そこに議長がいるのは知っている。俺たちは話がしたいだけだ。出てきてくれないか?」

「アレイシア議長、どうなされますか?」

「突破は難しそうね」

「はぁ、俺が前に出ようか」

「気をつけてね」


 ユレイナがいない状況であまり起きてほしくなかった事態だが、そんなこと考えたところで何の意味もない。

 ここはレイに任せるしかないだろう。私が出ては彼らの思う壺だろう。

 少し面倒そうにレイは剣を携えるとすぐに馬車を降りる。

 私は窓からその様子を伺うことにした。


「……議長は今疲れてんだ。話なら議会を通してくれないか?」

「俺たちは議長に用があるんだ。護衛のお前と話しているわけではない」

「あ? 言っただろ。疲れてんだよ」

「判子を押すだけの楽な仕事で、動けなくなるほど疲れるわけがないだろう」

「よくも知らねぇくせに楽だと決めつけんじゃねぇよ」


 この調子だと彼らを余計苛立たせるだけだ。

 こう言った交渉にはやはり彼には不向きなのかもしれない。


「……アレイシア議長、彼で大丈夫ですか?」


 すると、レイの言動に不安を覚えたのか御者の人が私に話しかける。


「不安に思うかもしれないけど、彼なら大丈夫よ」

「わかりました」


 とは言ってみたものの、どうなるかはわかったことではないが、とにかく、今私にできることは彼の様子をこの窓から見るぐらいしかできない。


「楽だろう。俺たち議会軍が前線でどれだけ頑張ってるのか知らないのだから」

「チッ、何と言おうとお前らに会わせるわけにはいかねぇ」

「なるほど、仕方ない」


 そう言って、男の一人が腕を挙げて何らかの合図を出す。


「っ!」


 その直後、話していた男の後ろに立っていた人がローブの中から銃を取り出す。その長細い筒はこの国では狩猟用に使われていたものだ。

 そして、銃口をレイに向けると耳を劈くような大きな破裂音が響き渡る。

 少し遅れて黒色火薬の酸味の混ざった煙たい臭いが漂う。


「銃なんざ妙な武器を使いやがるな」

「なっ、どうしてっ!」


 レイは剣を振り上げ、銃弾を斬り落としていたようだ。

 彼の足元には黒い塊が散っている。


「一度見たことがあるもんでな。俺には通用しねぇよ」

「——っ! 化け物め。やれっ!」


 そう男が大声を上げた途端、黒い影のようなものが男の背後に現れるとすぐに胸部を影の剣が貫く。


「あがぁっ!」

「そこまでだ。殺されたくないのなら、銃を捨てて投降しろ」


 少し離れた場所でそうブラドの声が聞こえた。

 外の様子を見てみるとどうやらレイを囲んでいたローブ姿の男たちは銃を捨てて手を挙げている。


「レイ、それにアレイシア。遅くなってすまない」

「……ああなっては俺もどうすることもできねぇからな」

「ふっ、手加減の話をしているのだな?」

「あ? そのつもりだが」

「全く底の知れない男だ」


 どうやらブラドたちの諜報部隊が対処してくれたよう。

 今日のところはこれで一安心と言ったところだが、やはり反乱因子に関してはこれからもなんとかしなければいけない。それも早急に解決すべきだ。

 私が小さき盾とエレインを信じなければいけないし、守らなければいけないのだから。

こんにちは、結坂有です。


今回はメフィナの視点とアレイシアの視点に分かれました。

しばらくアレイシアのことは描かれていませんでしたが、彼女も内政に困っている様子でしたね。

これからどう安定させていくのでしょうか。気になるところですね。

それに、メフィナたちの部隊も注目したいところです。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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