従者の意地
私、リーリアはエレイン様が帰られるのを城で待っていた。もちろん、それはアイリスだって同じだそうだ。
エレイン様を兄と慕うのだから待つのは当然として、私は果たして彼に本当に見合う人間なのだろうか。考え直してみれば、私なんて聖騎士団団長だったブラドに命令されたから出会っただけなのだから。
もし、あの時私がブラドからの命令に従わずに別の任務へと向かっていたら、今の私は彼と一緒に行動することはなかったのだろう。
事実、彼は聖騎士団として入団することはなかったのだ。それなら私たちと関わることなんてなかったのかもしれない。
そう考えると、私は急に怖くなる。
私自身、自分に高い実力があるとはそこまで考えていない。もちろん、学生時代や同世代の人からは高い評価を得ていたのは知っている。無敵娘なんて呼ばれていたぐらいだから。
ただ、そんなことはエレイン様や小さき盾、ましてやあのスティパトールと名乗る部隊の人たちと比べれば大したことではないのだと思う。
「リーリアさん、大丈夫ですよ」
そんなことを考えていると、横に立っているアイリスがそう言ってくれる。
不安に思っていたとしても私はエレイン様に仕えるのだと誓ったのだ。今更それをなかったことになんてできない。それこそ、私は誰にも負けないと自負しているところだ。
剣技や力ではなく、私は自分の信念に自信を持てばいいだけなのだ。
「……そうですね。私が不安に思うことなんてありませんね」
「はい。リーリアさんは自分のその強い信念を大切にしてください」
「ありがとうございます」
彼女からしてみれば、感想をただ言っただけなのだろう。それでも私は彼女の言葉で少しは救われた気がした。
すると、エレイン様が戻ってきた。
彼が戻ってくると言うのは、アイリスから聞いていた。彼女が持つ魔剣の能力で事前にわかっていたようだ。
「おかえりなさいませ。エレイン様」
「遅くなってしまった」
そう彼は謝罪するが、そのことはとっくに知っていたことだ。
それよりも私は彼の後ろにいる真珠のような色の髪をした女性のことが気になった。
スティパトール部隊の誰かなのだろうか。いや、彼女からほんの少しだけだが魔の気配が感じる。
「いえ、アイリスさんの能力でわかっていたことです。それより、そのお方はどなたなのですか?」
「私が説明します。彼女は魔族ですが、エレイン様の味方です」
すると、メフィナがそう真っ直ぐな目でそう伝えた。
「ああ、宝剣を探していると言うパルルだ」
「そうなのですね。失礼しました」
この国の宝剣が普通のものとは大きく違ったものであると言うのは、エレイン様が持った時点で分かっていたことだ。
それに、エルラトラムの記録にもそのような聖剣が残っていないと言うことはかなり古いものなのだろう。
ただ、それでもすぐに扱えるような状態ではないのは確かなようだ。
「とは言っても、宝剣を見せるのは明日になるだろうな」
「はい。そろそろ日も沈む頃でしょうから」
空を見上げるとオレンジ色に染まっていた。
少なくとも今からラフィンの元に向かって何かをするにしては急過ぎることだろう。それなら明日に回す方がいい。
「あの、私はどうすればいいでしょうか」
「とりあえず、俺と一緒に行動してくれないか?」
「魔族が一人で歩いているのは問題がありますから」
「……そうですか。わかりました」
このパルルと言う魔族だが、ルクラリズのように信頼してもいいのだろうか。
エレイン様は問題ないとは言え、警戒しておくに越したことはない。
もちろん、エレイン様を信用していないわけではないものの、私は魔剣で彼女の情報を調べることにした。
◆◆◆
俺、エレインはパルルを自分の部屋へと案内することにした。
ルージュやジティーラは牢屋の方から鍵のある個室へと変わった。味方であるのに劣悪な環境にいつまでも入れさせる意味はないからな。
もちろん、食事や日常的な生活も遅れるよう配慮している。
ただ、すぐにそう言った部屋をパルルに用意できるわけではなく、今日は俺の部屋で泊まらせることになった。
「エレイン様、お一人で大丈夫なのですか?」
「大丈夫だろう。見たところ、彼女の魔の力はかなり弱まっているようだからな」
「はい。私にエレインを倒せるほどの力は残っていません。それに私は戦闘は得意ではありません」
「……嘘は言っていないようですが、気を付けてください」
そう言ってリーリアは踵を返して俺の部屋から出ようとする。
いつもならもう少し反発すると思ったのだが、やはり話しておくべきだろう。
「リーリア、ちょっといいか?」
「なんでしょうか」
「メフィナのことを気にしているのか?」
今この場には彼女はいない。下の階で休ませているからな。
「いえ、気にはしていません」
リーリアは気にしていないとそう言っているが、俺はそれを無視して言いたいことを言うことにした。
伝えなければいけないことは早めに伝えた方がいいのだからな。
「メフィナの部隊は確かに強力なものなのかもしれない。ただ、それは剣技に限っての話だろう。俺はリーリアのその想いに助けられている」
「私の想い、ですか?」
「ああ、俺も人間だからな。一人ではないと意識できる」
孤独と言うのは自分を貶める最大の要因だ。
そもそも人間なんて自分一人でなんでもできるわけではない。完璧になんてなれやしないのだからな。
だからこそ、人間は絆を深めて社会と言うものを作っていった。
「……私の想いが、エレイン様をお守りしていると、そう考えているのですか?」
「もちろん、他にも色々と助けられているが、それが大きな支えになっているのは事実だ」
「はいっ、そのお言葉、一生忘れはしません。この身はエレイン様のためにあるのですから」
顔を真っ赤にして潤んだ瞳を一瞬見せると彼女はさっと振り向く。
「……夕食をお持ちします。しばらくお待ちください」
そう言って彼女は夕食を取りに向かったようだ。
俺の言葉がよほど嬉しかったのだろうか。それなら俺としても話してよかったと言えるだろう。
「お話は大丈夫なのですか?」
そう、リーリアが向かっていくのを見たパルルが聞いてくる。
「ああ、大丈夫だ」
「泣いているようにも見えましたが……」
「嬉し泣きと言うものもある」
「感情と言うのは難しいですね」
それに目元が潤んでいただけであって、泣いていたわけではないだろう。俺の言葉に傷付いたと言うわけでもない。
「それより、守護の力とやらは一体どう言うものなんだ」
「私の力のことですか?」
「具体的に何ができるのか知りたい」
彼女の持つ守護の力と言うものが一体どう言ったものなのかはまだ聞けていなかった。
もちろん、神から奪った力なのだから、かなり強力なものなのだろう。
「私の力は守ることに特化した能力です。例えで言うのなら、私の力を与えることでその人を能力から守る効果がありまします。当然ながら、全ての能力を完全に防ぐことはできません」
「つまりは、相手の攻撃を軽減する効果があると言うことか?」
「そうなりますね」
なるほど、確かに強力な能力なのには間違いないだろうな。しかし、誰にでも守護の能力を与えることができると言うのだろうか。
神の力を下界で行使する場合、かなり制限が多くなると剣神も滅神からも言われている。
「だが、欠点もあるのだろう?」
「はい。他人に守護の力を使用する場合、私自身は無防備となってしまいます。もちろん、魔の力も失います」
「自分が捨て身になる形になるのか」
「ただ、私はそれでも構わないと思っています。私はそもそも戦えるような魔族ではないのですから」
そうパルルは言っているが、俺としては別の方法がないかと考えている。ジティーラの件もある。俺一人が能力をいくつも持つと言うのは個人的に避けたいところだ。
とは言え、ラフィンの宝剣に宿っている精霊のこともある。まずはあの精霊のことをどうにかする必要があるだろう。
こんにちは、結坂有です。
そろそろ安定して定期投稿ができると思います(憶測で言うのは避けたいですが……)
ジティーラのことやパルルのことはこれからどうなっていくのでしょうか。
エレインの内に宿る神の力をどう使っていくのか、これから楽しみですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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