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未知の能力を追って

 俺、エレインはメフィナとパルルを連れて隠れ城に戻ることにした。

 レメネスは自分の仕事は一旦終わったと言って、他のスティパトール部隊の泊まる宿に残ることにしたそうだ。

 どうやら彼の仕事はパルルを俺に会わせるために行動していたらしい。

 当然ながら、役目を終えたのだから彼は休む権利はあるだろう。それに、メフィナたちから聞いたところ、ここドルタナ王国に来るまでもかなり無茶な行動をしていたようだ。

 尚更休むべきだと言えるだろう。


「あの、エレイン様。城の方へと戻られるのですよね?」


 城へと向かっている道中、メフィナがそう俺に言った。

 その表情から少しばかり気まずいのか、若干顔を赤くしている。


「そのつもりだが、どうかしたのか」

「……ずっと疑問に思っていたことを質問してもよろしいでしょうか」


 呟くように彼女は言うと、俺の方へと真っ直ぐ向いた。

 質問の内容はよくわからないが、その態度から真面目な内容なのには間違いないだろう。

 俺もそれ相応に、足を止めて彼女の目を見た。


「なんだ?」

「その……帝国の頃から気になっていたことなのです。エレイン様はどうして自身の実力を発揮しないのですか?」

「どう言うことだ?」

「実際に訓練の様子をこの目で見たわけではございません。ですが、報告書や緻密な情報などからも、エレイン様が全力を出し切っている様子はなかったように思います」


 どうやら、俺があの地下施設で少しばかり手を抜いていたと言うことは帝国の連中には気付かれていたようだ。

 俺もそのことに関してはある程度推測していたが、こうしてメフィナの口から聞くにそれなりに深いところまで知っている様子ではある。

 ただ、帝国がどう言った目的であの施設を行なっていたのかは俺が知ったことではない。もちろん、アレクやミリシアと言った優秀な人材を育成すると言う意味では必要な施設ではあったのかもしれないが。

 ともかく、メフィナのその質問には正直に答える方がいいだろう。今更秘密にしたとて、それこそ意味はないのだから。


「俺の全力を出すに値しないと判断したからだ」

「全力を出すに値しない……それは一体どう言う意味なのですか?」

「あの施設の訓練方法はどれも実戦的なものだった。加えて、高度な技術を用いているのもすぐにわかった。しかし、そのどれもが人間によって作られたシミュレーションだ」


 そう、あの施設は帝国の技術者、研究者が作り上げた人工物だ。その中で繰り広げられる訓練内容と言うものも人間が作り上げたもの。

 ミリシアもやっていたことだが、同じ人間なのだとしたら訓練の内容は予測できる。

 当然だが、そのことは研究者もわかっていたことだろう。だから、ランダムな動きをする人形を使ったり、俺たち同士で戦わせたりもしていた。そうすることで、俺たちが訓練に慣れさせないようにしていたのだ。

 その効果も十分にあったことだろう。事実、レイはそれによって知略の面が伸びたように思える。

 圧倒的な技量と力量で押し切る彼の戦闘スタイルは、その訓練によって手に入れた知略によって今は数段も強くなっているのだからな。


「シミュレーションだから、全力を出さないのですか? ですが、訓練と言うものは大抵全力を出して行うものだと思います」

「それも間違っていないだろう。だが、俺は当時帝国のことを信じていなかったからな」

「情報を渡したくなかった、と言うことですか?」

「結局のところ、俺が想定していたよりも帝国の研究者は俺のことをよく理解できていたようだからな」


 そのことも、メフィナが俺の最大の弱点を知っていることからそうなのだろう。

 体力の面は技術でなんとか押し切っていたと自覚していたが、どうやらほんの少しばかり綻びがあったようだ。

 それだけではない。

 彼女の剣技を見ても俺の技を高い精度で模倣できている。その点は非常に評価できることだ。


「……あの地下での訓練で、エレイン様は一体何を考えていたのですか?」

「今になって言えることだが、帝国と言う組織がどういうものなのか自分の中で評価していたのだろうな」

「評価、ですか。それで一体どこまで帝国のことを理解できたのでしょうか」

「全くだ。俺や他の人もあの施設の外を知ることができなかった。あの場で把握できる材料で正しい評価は今もできていない」


 俺としてもそこばかりが気になっていた。

 結局のところ、最後の試練で俺を認めた宰相とやらの思惑もわからないまま滅んでしまった。

 メフィナたちの様子を見ても、俺たちのことをかなり詳しく調べていただけであって帝国がどのような思惑で動いていたのかはわかっていないそうだ。


「私自身も帝国がどのような考えがあったのかは分かりません。作戦に関しても断片的なものでしか知らないからです」

「エルラトラムも相当な秘密主義だと言われているが、帝国と比べれば大したものではなさそうだ」

「そう、なりますよね」


 スティパトール部隊が全力で調べれば、エルラトラムの秘密も簡単に暴かれてしまうのだろう。

 実際に俺たちの作戦の一部を知っていたわけだからな。

 どこから漏れたのかは想像できないが、そんなことのできる部隊でも帝国の思惑に関しては何一つ手がかりを得ることができなかったのだ。

 帝国の秘密主義、何を隠していたのかは今となっては検証することすらできない。

 少なくとも、俺は誰かから取り上げ育成したと言うわけではないらしい。

 神の理に触れ、長期間封印されていたところまではわかっているが、それ以上のことはまだよくわかっていない。


「仮に、エレイン様が全力を出すとなれば一体どのような状況なのでしょうか?」

「自分の中で想定できないことが起きた時だけだ」


 正直なところ、そのようは状況になったことは今までで数えるぐらいしかない。


「私の考えですが、本気を見せるとしても、それは一瞬なのでしょう。誰が見てもわからないほどに」

「俺のことをよく知っているのだな」

「はい。私はエレイン様のことをよく理解しているつもりですから」


 俺の弱点を補うための教育と鍛錬を積んできたのだ。それぐらいのことは知っていて当然と言うことか。

 そんなことを話しているとパルルが俺の方を不思議そうに見つめてくる。


「あの、私はそんなことはないと考えます」

「どういうことだ?」

「私の知るエレインと言う人間は、感情に正直だと認識しています。何か感情的になることがあれば、あなたは”滅却”への道を開くと思います」

「なるほど、そう言った状況に今のところは……」


 そう言えば、帝国が魔族によって滅ぼされた時、俺はその報復として攻め込んできた魔族を全滅させた。それも単騎でだ。

 聖剣の力を使わず、自身の技術と実力によって千を超える魔族の軍勢を滅することに成功したのだ。

 今考えると当時の俺は少しばかり感情的になっていたと記憶している。

 なら、あの時すでにパルルの言うように滅却への道が開きかけていたのだろうか。

 どちらにしろ、過ぎたことだ。何かを考えたところで過去が変わることはない。


「確かに感情を優先して戦うことはあるのかもしれないな」

「何かを守るためなら何でもする男だと私は思います」

「エレイン様はそこまで恐ろしい人ではありません」

「……どうでしょうか。私の記憶も随分古いものですから」


 パルルはどうやら俺が封印される前のことを知っている様子だ。

 ただ、多くを知っているわけでもなさそうだ。


「ともかく、今はパルルの探している宝剣のことを考えるべきだろうな」

「そうですね」

「その、うまくいくといいですが」


 そう言った彼女の目はどこか不安に満ちている様子だった。

 順当に行けばあの宝剣に宿る堕精霊と話すことができるだろうが、それで目的が達成できないとでも言うのだろうか。

 まぁ精霊の中にはわがままな性格のものもいるらしい。

 俺としては自分勝手なことで協力を拒否することはないだろうとはいえ、それも俺の中での憶測でしかない。

 どうなるかは実際に話してみないとわからないからな。

 今は苦しんでいるように聞こえたあの堕精霊をどうするか考えるとするか。

こんにちは、結坂有です。


エレインがどのように地下施設を過ごしていたのか、これで少しはわかってきましたね。

あの施設で高難易度の訓練を最高成績で突破し続けながら、帝国の分析まで行っていたとは驚きですよね。

彼の持つ実力とは、一体どんなものなのか今後とも気になりますね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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