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強き者との邂逅

 俺、エレインはスティパトール部隊と共に防壁付近の駐屯基地へと向かっていた。

 当然ながら、ここに宝剣があるわけではない。しかし、そんなことはここに来たばかりの彼女らは知らない。

 それに加えて、魔族の情報などは統制されているためにどの場所が危険なのかもわからないことだろう。

 聖剣も持っていない彼らが魔族と戦うことになれば、非常に危険な状況になる。


「エレイン様、探してみましたが、どこにもいません」

「なら、地下に向かったのかもしれないな」

「……急ぎましょう」


 メフィナがそう言って地下へと向かう階段を急いで降りていく。

 俺もそれに続くようにして走り出す。

 魔の気配は感じるものの、多くいるわけではなさそうだ。

 薄暗い通路へと出て、奥へと進んでいく。この先はミリシアたちが戦った場所になる。

 この辺りはもうドルタナ王国外になる。魔族がいても不思議ではない。

 魔の気配が強まると同時に、妙な気配を感じた。

 どこか懐かしい感じもするが、まさかな。


 ピュンッ


 何かが耳を掠めたかのような音が聞こえた。

 俺は危険を察知し、メフィナの腕を引っ張る。


「ひゃっ!」

「……体に異常はないか?」

「え? どうしてですか?」

「どこか痛む場所はないか?」

「えっと、痛いところはありません」


 後ろから付いてきている人たちも異常はなさそうだ。


「……急ぐか」

「はいっ」


 魔の気配が強まる中、俺たちは通路をまた走り出すと、次第に声が聞こえてくる。


「殺してやるっ!」


 人間とは思えないような低い怒号が聞こえてくる。

 それと同時に薄暗い先から巨躯の魔族が男を掴み上げている。

 よくは見えないが、あの魔族から大量の鮮血が飛び散っているようだ。

 聖剣を持っていない状態であの傷を負わせたと言うのだろうか。

 どうであれ、あの状況では危険だ。

 俺はイレイラを引き抜き、魔族の首へと剣閃を飛ばす。


「相変わらず、無茶な技だ」


 首が斬り落とされた魔族の体は力を無くしたかのように倒れた。

 その巨躯に斬りつけられた傷を見てみると、何とも懐かしいものだった。


「……化け物訓練生が、今では剣聖か。成長したな」


 そこに立っていたのは俺が訓練期だった頃に何度か指導をしてくれた人だった。

 もちろん、地下訓練施設へと移送されてからは俺たちだけで剣を極めていったが、その間にも彼は自身の剣術を進化させていたようだ。


「あの……エレイン、なのですか?」


 すると、真珠のような髪をした女性が俺へと話しかけてきた。かなり薄いものの魔の気配が漂っているため魔族なのだろう。

 おそらく彼女がメフィナの言っていたパルルという魔族のようだ。


「ああ、パルルなのだな?」

「はい。やっとお会いできましたね」

「とりあえず、宿に戻るか。ここは危険だからな」

「そうするか。ここには宝剣とやらもなさそうだしな」


 彼やスティパトール部隊は気づいていないようだが、パルル以外にも魔の気配が強まっている。

 長くここにいては危険だろう。この魔族が派手に暴れたこともあり、魔族が集まってきても不思議ではない。

 俺は魔族が空けたのであろう穴を魔剣を使って崩しておくことにした。


 その帰る道中で、宝剣はラフィン王女が持っていること、俺が神の力とやらに目覚め始めていることを話しておいた。

 それからレメネスたちと宿に戻る。


「パルル、宝剣の場所はわかっている。それをどうするつもりなんだ?」

「私の失われつつある能力をあなたに託します。神の力は非常に強力なもの、人間の体で行使するには少しばかり負担が大きいのです」

「なるほど、力を受け渡すのに聖剣の力がどう必要なんだ?」

「私の守護の力の特徴として、自分の力を誰かに託すことができるのです。そして、その力の導線をその聖剣の持つ遮蔽という能力で塞ぐのです」


 ラフィンの持っている宝剣の能力は”遮蔽”と言うらしい。その力は物理的なもの以外を完全に遮断することができるようだ。もはや、そこまでの能力があるとすれば、遮蔽とは言えないような気もするが。

 ともかく、その能力を応用して魔族の力を俺に受け渡すようだ。

 その守護の力があれば、俺が神の力を行使しても人間の体への負担が少なくすることができるらしい。


「ただし、私の能力は体への負担を軽減するものです。神の力を多用することは控えるべきです」

「なるほど」

「エレイン様、私たちは如何なる時も味方であり、従者であり続けると誓います」


 そうメフィナが言うと他の人も同じく俺へと覚悟を決めた目で見つめてくる。


「仮に俺が魔族の味方をするとしても、従者であり続けるのか?」

「もちろんです」


 即答した彼女たちはさらに強い視線で俺を見つめる。

 その意思は何者でも覆すことはできないのだろう。それにメフィナに関しては他の人よりも強いものを感じる。おそらくそれは使命などから来るものではないような気がする。

 おそらくリーリアと同じく感情から来ている部分もあるのだろうか。


「エレイン、こいつらの部隊はお前らの狂信者で構成されている。どんな命令でもこいつらは遂行するだろう」

「……帝国の命令だからか?」


 当然ながら、それらが帝国の命令だからと言うのなら俺は彼女たちの言葉を聞くつもりはない。

 誰かに強制されてまで俺に従うなんてことはあってはならないと思っているからだ。


「いいえ、それが私たちの使命だと信じているからです」

「エレイン様が如何なる人物であれ、新たな未来を切り拓く存在なのだと確信しているのです」

「もちろん、アレク様やミリシア様にもそれは当てはまります」


 彼女たちスティパトール部隊がその信念を曲げることはないのだろう。おそらく俺が何か言ったとしても揺らぐことはないはずだ。

 それほどに彼女たちから強い意志を感じさせる。

 訓練や教育だけでここまでに強い信念を植え付けるのはいくら帝国だからと言っても難しい。

 ここまで彼女たちが言うのなら、俺がどうこう言えた立場ではないか。


「本当に従者なのですね。私とレメネスさんと同じような感じですか」

「はっ、人間の血に従属の力なんざねぇよ」

「従属の力?」

「いえ、なんでもありません」


 パルルはそう言って俺から視線を逸らした。その様子から彼女はそのことをあまり話したくないようだ。ただ、レメネスが知っているのなら何も隠す必要などないように思える。

 それに彼女の言った従属の力とやらが一体なんのことなのかはわからないが、この手のことはおそらくルージュの方がよく知っているはずだ。必要なら、ルージュに聞けば答えてくれることだろう。

 それよりも彼らがドルタナ王国にある宝剣を手にしたいと言う点が気になる。


「……まぁそのことはどうでもいいだろ。とりあえず、宝剣があるってことだが、どこにあるんだ?」

「今はドルタナ第二王女が持っています。そのことは私がこの目で確認しました」

「王女が持っているのか?」

「その方が安全だと考えたらしい。ただ、その宝剣なんだが、宿っている精霊がまだ眠ったままだ」


 俺が触れた時に宝剣の形が変わるほどに変化はしたものの、能力まで戻ったのかはまだわからない。

 加えて、精霊は呻き声を上げるだけで対話ができたと言うわけではないのだ。


「そうなのですね。精霊にとっては長過ぎる時間だったのでしょうか」

「どういうことだ?」

「堕精霊は存在力を温存するために眠りに就くことがあるそうです。おそらく、その時間が長過ぎたのだと思います」


 パルルはそう宝剣に宿っている精霊について推察する。


『お主、此奴の言っておることはあり得る話じゃ』

『はい。残念ですが、私はあの宝剣に宿っている精霊については知りません。私たちよりももっと古い精霊なのでしょう』


 正直なところ、そのことが聞けただけでも上等と言える。

 ただ、これ以上の話は聞けなさそうだ。

 宝剣のことはともかく、今は魔族の軍勢の方を片付けないといけない。宝剣や俺の力の正体に関してはまだ時間がかかることだろう。ゆっくり解決したとて問題はない。

 今はともかく、魔族から追われているのであろうパルルを保護することに専念する方がいいだろう。続けて、この国を攻めようとしている軍勢も何とかする必要があるか。

こんにちは、結坂有です。


三月から少しだけ投稿頻度が上がると思います。

今月以降の執筆活動は少々忙しくなりますが、今後も頑張っていきますので、よろしくお願いします。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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