最後の技を見せて
私、パルルはレメネスと共に警備隊駐屯施設へと向かっていた。
地図を見て王城から一番近い軍事施設はどこかと調べたところ、やはりこの駐屯施設だと言うことで私たちは来たわけだ。
当然ながら、ドルタナ王国の宝剣がここにあるのかどうかは全く予想ができない。とはいえ、動かないでいては何も始まらない。
エレインのことに関してはスティパトールの人たちに任せるとして、私たちは私たちで宝剣を探すべきだろう。そのために様々な場所に立ち寄って調査していたのだから。
しばらく歩いていくと、目的地の駐屯施設へと辿り着いた。しかし、そこに建てられていたものは私たちの想像していたものよりもずっと奇妙なものだった。
「ここが駐屯施設か。誰もいねぇじゃねぇか」
「変ではありませんか?」
「普通なら門番がいるはずだが、そう言う奴すらもいねぇな」
「周囲には誰もいないようです。魔族の気配も今のところ感じられません。近づいてみますか?」
「そうだな。ここで見てたって何もかわらねぇ」
レメネスの言うように遠くから眺めるだけでは何もわからない。
駐屯施設とは地図に書かれていたが、どうやら今のここはそうではないのだろう。
周囲に警戒しつつ施設へと近づいていくと看板のようなものが立てられていた。
「立ち入り禁止、と書かれています」
「つまりは入れってことだな」
「ですが……」
「近くには誰もいねぇ。見られてるわけでもないだろ」
確かに彼の言うように誰かに見られている様子はない。
ただ、良識ある人間であればこのような看板が立てられていれば入るのを躊躇するものだろうと私は思う。
すると、レメネスがその立ち入り禁止と書かれた看板を退かすとすぐに駐屯地の中を調べる。
「中には誰もいなさそうだが?」
「……では、入りましょうか」
「そうだな」
それから私たちは駐屯施設の内部へと入っていく。
特段、変わったところはないもののところどころ戦闘があったであろう痕跡が残っている。
柱には剣で刻まれた跡があったり、いくつかの血痕のようなものすらも残っている。すでに黒くくすんでしまっているため、魔族のものなのか人間のものなのかは判別できない。
とにかくここで何らかの戦闘が起きたために封鎖されているのだろうか。
それに加えて、薄暗く冷たい空気が漂っている。長居したいとは思わないが、ここに宝剣に繋がる手がかりがあるかもしれない。
「誰も使わなくなればこうなるのですね」
「……それだけじゃなさそうだな。どうやら地下があるみてぇだ」
そう言って彼が指差した方を見ると地下に続く階段のようなものがあった。
そこから冷えた空気が流れ込んできているようだ。
近くにある頑丈そうな扉は破壊されている。
「入ってみるか?」
「はい」
魔族の気配はないものの、私たちは警戒して地下の方へと進んでいく。
階段を降りるとすぐに大きな扉が見えた。
「妙だな」
破壊されているもののその異様な扉の状態に彼が反応する。
私も彼に続いてよく見てみると、内側から破裂したかのような壊れ方をしている。
頑丈な扉であるのには変わりないが、一体どのようにすればこうなるのだろうか。もしかすると聖剣の力なのだろうか。
「見たところ、お前が探している宝剣の力ではなさそうだな」
「そのようですね」
「もう少し進んでみるか」
しばらくトンネルを進んでいくと天井が大きく崩れていて道を塞いでいた。
「どうやらここが行き止まりのようだな」
「崩れてしまったのでしょうか」
「意図的に崩したんだろうな。侵入を防いだようにも見える」
崩れ落ちた岩を調べながら彼はそういった。
確かに位置的に見ればここは城壁から出ている場所だ。この地下通路がどこまで続いているのかはわからないが、少なくとも王国の外に続いていることは確かなようだ。
もしそこから魔族なんかが侵入しようとすれば可能だったはずだ。
「……それよりもこの足跡だ」
振り返った彼は地面に残った黒い足跡を調べ始めた。
「これは何でしょうか。地面が……焦げているのですか?」
「ああ、こんなものを残す人間なんざ限られてる。滅暉極閃撃殺、まさか完成させるとはな」
「何のことですか?」
「帝国の話だ。気にするな」
彼は帝国にいた頃、特別部隊の教官などを務めていたことがあったらしい。
具体的にどのようなことを行なっていたのかは彼からは聞かされていないが、エレインと何度か訓練を教えたことがあるのは確かなようだ。
いくつかの技を瞬時に吸収するエレインに一時は恐怖を抱いていたと聞いたことがある。
ただ、そんなレメネスでもエレインの可能性を信じているようだ。
「あまり話してくれませんね。帝国のこと」
私は今までのことを彼に聞いてみることにした。
彼自身、自分語りをするような人間ではないのは彼と共に過ごしていてわかっていたことだ。
しかし、それでも私は気になることがある。
彼が帝国でどのようなことをしていたのか、どのような人間だったのか知りたい。
私は魔族として生きてきた。当然ながら、彼の話を聞いてどうと言うことはないのかもしれないが、それでも聞いておきたいのだ。
関係ないのだろうとわかっているもどこかエレインと通ずる何かがあると信じている。
「話したところで当の帝国は消えちまっただろ」
「いいえ、それでも気になるのです。エレインに関係する何かがそこにあると思っています」
「……あの小僧のことは話しただろ」
「ですが、あなた自身の話ではありませんでした」
彼から聞いたエレインの情報はあくまで客観的なものだった。彼自身がエレインと接触して感じた話はほとんど聞かされていない。
私としては、レメネスが指導したことがあるという訓練生の頃のエレインの話も聞いてみたい。
「そもそも訓練期の頃は……」
そこまで彼が言いかけた途端、周囲に魔の気配が立ち込める。
上位種の魔族が近くにいるようだ。
「レメネスっ」
「こいつっ!」
魔族がいると理解したと同時に横の壁が一気に崩れ始め、一体の魔族が彼へと襲いかかる。
ズドォオン!
強烈な音と衝撃が私の全身を響かせる。
「見つけたぞ、妙技の人間」
そう口にしたのは壁を崩した魔族の方だった。
「……覚えてねぇな。お前のことはよ」
「お前はこの俺様の片足を斬り落とした」
「あの時のか、邪魔だったから斬っただけだ。魔族のお前ならすぐに治るんじゃねぇのか?」
「っ!」
そうレメネスが挑発したと同時に魔族は一気に彼へと攻撃し始めた。
その全てをレメネスは剣一本でいなしていく。
ガゴォンガゴォンッ
響き渡るは金属と肉とが強烈にぶつかり合う音。
耳を塞いでも脳へと伝わってくるこの音はやはりあの時の魔族に違いない。
目の前の魔族は私たちがセルバン帝国から抜け出す際、偵察に来ていた魔族だった。
魔の気配を隠していたつもりだったが、上位魔族を騙せるほど私の練度は当時なかったのだ。
追撃してきた魔族の片足をレメネスが斬り落としておかげで私たちは逃げ切れたのだ。
それから数日後、帝位の連中は帝国に上位種で固められた強襲部隊を向かわせた。
少しでも邪魔をしようと私たちが裏工作したものの、結局帝国の滅亡を阻止することはできなかったのだけど。
「腕は衰えてねぇようだけどよ。それがどこまで続くんだ?」
「あいにくとまだ本気ではない」
レメネスの言うようにまだ本気を出してる様子ではない。いや、出せないと言った方が正しいだろう。
彼は私の治癒のために血液を大量に消費してしまっている。そんな状態で全力を出すことなんてできない。
それなら私の力で何とか魔族を退ける必要があるだろう。
「……パルル、少し離れてろ」
「え?」
「少し荒れるからな」
「何言ってんだ? てめぇのような人間が、聖剣もなく俺様に勝てるとでも?」
レメネスの発言に嘲笑する魔族ではあるが、私は彼が一体何をしようとしているのかがわかる。
貧血状態である彼に力を振るえるほどの余力があるのかは疑問ではあるものの、私は彼を信じることにして少し離れることにした。
「帝国がただ何もせずに魔族に蹂躙されるのを待っていたと思ってるのか?」
「あ?」
「たとえ聖剣がなくとも技術によって補えるもんだ」
そう言ってレメネスは持っている剣を持ち直すと、姿勢をほんの少しだけ低く保って切先を魔族へと向ける。
剣のことは全くわからないが、それが何らかの構えであることはわかる。ただ、その構えは私が今まで見たことのないものだった。
「たかが剣技で魔族に勝てるとでも?」
「完成こそしなかったがな、そこそこ研究はされていた」
「バカバカしい。そんなものを研究したところで、結果は見えているだろ」
「……さぁ、どうだろうな」
確かに魔族の肉体は精霊を宿しているもの以外では倒すことはできない。通常の武器ではすぐに傷が塞がり、回復されるからだ。
もちろん、例外も存在するが、人間がその例外と言うものを作り出すのは至難と言える。
それに、目の前の魔族は上位種の存在だ。下位の魔族ならまだしも、上位種である彼が普通の武器に負けるとは到底思えない。
「だったら、やってみろよ。その技ってやつを……」
そう魔族が挑発した直後、レメネスが剣を一気に振り下ろす。
それと同時に無音の空間が一瞬に広がる。
私自身、何が起きたのか全くわからない。ただ、魔族の胸から大量の鮮血が噴き出るようにして流れる。
ベチャベチャと音を聞こえると、周囲の音が次第に戻り始める。
「……なんだよ、これ。何なんだよっ」
魔族がその噴き出る傷を手で抑えようとする。それでも血が止まることは知らず、魔族の表情が次第に険しいものへと変わっていく。
もちろん、レメネスの持っている剣は聖剣というわけではない。それなのに、魔族が受けた傷は一向に回復することはない。
「踏み込みが甘かったか、角度が悪かったか……。どちらにしろ、失敗か」
「クソが、またその妙な技をっ!」
レメネスはその一撃で魔族を倒したかったようだが、その傷が致命傷ではなかった。
すると、魔族が鮮血を撒き散らしながら、彼へと襲い掛かる。勢いこそ、衰えているものの魔族の強力な力はまだ残っていたようだ。
「っ!」
「殺してやるっ、ぜってぇ殺してやるっ!」
「……バカだな。さっさと殺してればいいものを」
「うるせぇっ! そんなに死にてぇなら殺してやるよ!」
その直後、魔族の首がゆっくりとその体から離れ、血まみれの地面へと落ちた。
こんにちは、結坂有です。
数ヶ月ぶりの更新となりました。
長期間、投稿が止まってしまったこと、申し訳ございません。
これからは徐々に投稿頻度を安定させていきます。。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した最新版も随時公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。
X(Twitter)やThreadsではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。
X(Twitter)→@YuisakaYu
Threads→yuisakayu




